27-4・西宿場の7令嬢
15分くらい現実世界に滞在してから異世界に戻ってきた。日が昇り始めている。地面のあちこちに戦いの傷跡は残っているけど、誰もいない。
「トモ・・・チートと安藤さんは西都市に戻ったみたいだね」
大切な仲間達を失った場所。憧れ続けた初恋に手が届かなかった場所。この世界では半日前の出来事だけど、僕等にとっては、たった15分前の出来事。
「チート?尊人くん、徳川くんのこと、その呼び方してたっけ?
なんか、無理してない?」
「無理してないって言えば嘘になるけどさ・・・
もう、トモって呼ぶ気にはなれないからね」
仲間の亡骸が1つも無いのは、灼熱の光で消滅してしまったからだろう。見ずに済んで少し安心をできた反面、立ち会えずに逃げたことを申し訳なく感じる。
「吉見くん、どこに行っちゃったんだろ?」
「捕まってなきゃ良いんだけどね」
吉見くんが現実世界で瀕死になっていないのは確認した。彼だけは生き残ったはず。
「ブラークさん、無事なら良いんだけど」
「そうだね、情報が欲しいね。
これからどうする?」
「とりあえず帝都に帰ろう。
仲間集めをするにしても、情報収集をするにしても、
先ずは準備を整えなきゃだからね」
ダメージは回復してるけど、脇腹に剣を受けた真田さんは、トップスが破れてお腹が丸出し。僕は背中と腿を切られたから、トップスとズボンがボロボロ。しかも、2人の服は朱殷色(渇いた血)で染まっている。
「この格好であちこちの町は廻れないよね」
「うん、さすがに無理だね」
真田さんが、破れたトップスを胸の下で縛る。引き締まったお腹とおへそが丸出しなんだけど、「陸上部のユニフォームにはセパレートタイプがある」って理由で、あんまり恥ずかしくないらしい。
「所持金で服は買えるだろうけど、新しい鎧も欲しいし」
お屋敷に蓄えたお金で購入するか、僕と同じくらいのモンスターを討伐して奪うか、どちらにしても帝都に戻って今後の方針を決めたい。
黙祷をして仲間達に別れを告げると同時に「現実世界で再会する」と約束をして、戦場となった地から離れる。
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西の宿場町まで、あと30分くらいで到着。
「きゃぁぁっっ!誰か助けてっ!!」×5
悲鳴が聞こえて、黄色いドレスの女の子とピンク色のドレス女の子と緑のドレスの女の子と黒いドレスの女の子と白いドレスの女の子がゴブリンに追われて森から飛び出してきた。
僕等には悲壮感があるのに、この町だけは平常運転すぎて情緒がおかしくなりそう。
「また?」
「無視する?」
「助けよう。もう、誰かが傷付いたり悲しむの・・・見たくない」
「そっか、そうだね」
この宿場町の令嬢達は苦手なんだけど、真田さんに納得をしてもらって分担をしてゴブリン達を討伐する。
「ミコト様、ありがとうございました」×5
「お礼に今宵は夜の御相手を・・・」
「先を急ぐので遠慮しときます。
ああ・・・でも、お礼に『夜のお相手』ではなく、
安物で良いので服を2着もらえませんか?」
「あたしはお礼も言われないし、名前も呼ばれないの?」
「私達が興味のあるのは素敵な殿方だけです。
貴女が幼い少年ならばともかく、お嬢様なんですから全く興味はありませんわ」
「あっそう・・・すっげー失礼なやつら。やっぱり無視すれば良かった。
この人達が傷ついても、誰も悲しまないんじゃない?」
ちなみに、僕は令嬢には全く興味が持てないので、「赤ドレスのアンさん」以外の6人の名前を覚えてない。「色違いの量産型」と認識している。きっと僕も「失礼なやつ」になってしまうのだろう。
「あれ?」
アンさんがいない。いつもなら、最初に逃げてきて助けるのは赤ドレスのアンさんで、その次が青ドレスの令嬢のはず。
「アンさん達は?」
「アン様とドゥエ様は、昨日、モンスターに襲われたところを、
たまたま通りかかった瀕死の殿方達に助けていただいて、
今はその殿方達の看病をしていますわ」
「死にかけてる人に助けてもらったの?」
「そんな人に頼らないで、もう少し自分達で何とかしなさいよ。
自分が死にそうなのに他人を助けるお人好しってどこの誰?尊人くん?」
「ずっと真田さんと一緒にいるんだから、僕じゃないでしょ」
・・・てか、今、僕、バカにされた?褒められた?」
「バカにしたの」
「殿方達の名は、ブラーク様とヨウスケ様と仰いましたね」
「えっ!?ブラークさんっ!?」
「ヨウスケ様って、もしかして吉見のこと?」
戦いのあと、吉見くんがどうなったか心配してたけど、ブラークさんと一緒にこの先の宿場町で体を休めている?
7令嬢が引き止めてくれたんだ?役立たずのネタキャラ化と思ってたけど、たまには役に立つじゃん。
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宿場町に入って直ぐに安い服を購入して着替えて、令嬢達の案内で吉見くんとブラークさんが滞在している宿に行く。
「吉見くんっ!」
気持ちが先走ってしまってノックもせずに部屋の扉を開ける。
「はい、あーんをして」
「いや、自分で食べられるから・・・」
ベッドに腰掛けたアンさんが、上半身を起こした吉見くんに、スプーンに乗せたご飯を食べさせようとしていた。
「あっ!ゴメンっ!」
「違うんだ、源くん!」
邪魔をしたと思って慌てて部屋から出ようとして、吉見くんに呼び止められる。
「この子、君の恋人でしょ?」
「違うんだけど」×2
僕だけでなく、真田さんまで声を揃えて否定をする。
「看病はありがたいんだけど、君の恋人に面倒を見てもらうのは君に申し訳ない。
僕はそれほど傷を負っていないから『手厚い看病は不要だ』と伝えてよ」
「大丈夫。尊人くんの恋人じゃないから手厚い看病してもらっても問題無いよ」
しかも、何故か真田さんが許可をした。
「纏わり付かれて迷惑なら、自分でちゃんと拒否しなよ。
尊人くんだって、そう思うでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・うん・・・まぁ・・・」
毎回、真田さんに追い払ってもらってるので、何も言い返せない。
「真田さんは、アンさん達のこと嫌いなんだよね?」
「うん、嫌い。『ヒナの刷り込み』みたく寄ってくるところがムカつく」
「いつもみたく追い払わないの?」
「なんで追い払わなきゃなの?
目障りだけど、吉見と仲良くすんのは邪魔できないでしょ」
「まぁ・・・そうだねぇ」
宿まで案内して貰った直後に「オマエ等もうイラネ」と黄色ドレスの令嬢達を追い払ってなかったっけ?
「あの、アンさん。
吉見くんと話がしたいから、ちょっと離れてもらえないかな?」
仕方が無いので、僕がアンさんにお願いをする。
「あら、ミコト様。可愛らしい。
私とヨウスケ様が睦まじくすることにヤキモチを焼いてらっしゃるのですか?」
「はぁ!?尊人くんがアンタにヤキモチなんて焼くわけ無いでしょ!」
「ご安心下さい。私の身と心はミコト様の物ですわ」
「出て行けっ!バカ女っ!」
結局は、真田さんが部屋から追い出してくれた。




