27-3・逃走
「今回は気合いを込めたからな!弾き飛ばしただけの先ほどのアポロンとは違う!
飲み込んだ物を全て灼熱で消滅させるぞ!」
倒れて白い靄に包まれている藤原くん、鷲尾くん、寺坂さん、土方さん、蓮井先生が、自然消滅を待たずに灼熱の光の中に消えていく。
「おいおい、冗談じゃねーぞ!あの野郎、俺まで消滅させる気かっ!?」
脇坂くんが、広がってくる光の半球を眺めて数歩後退。慌てて踵を返して逃げ出そうとする。だけど、足首を掴まれて転倒をした。
「・・・オマエは・・・道連れになってもらう」
「近藤っ!テメェっ!!」
近藤くんが這いずりながら脇坂くんを抑え付けて、動きを封じる。
「腕とアバラを砕いたはず!何故、まだ動けるっ!」
「腕とアバラ以外は砕かれてねーからだよ」
「ひぃっ!離せっ!!」
「意地でも離さねーよ!いつかの勝利のために・・・オマエはここで消えろ」
「チートッッ!技の放出を止めてくれっ!まだ俺が逃げていないっ!!」
脇坂くんが要望をするが、智人は呆れ顔で眺めるだけで解除をする気配が無い。
「トロいマヌケはイラネ」
「ひぃぃぃぃっっっっっっ!!!」
近藤くんと脇坂くんが灼熱の光の中に消える。
「富醒・レンタル!リターン発動!!」
現実世界に繋がる穴を出現させたんだけど、腿にダメージを負っているので満足に走れない。目の前にあるはずの現実世界への入口が遠くに感じる。足を引き摺って懸命に逃げるけど、光の半球の拡散が早すぎる。このままでは、背負ってる真田さん諸共に、確実に灼熱の光に飲み込まれてしまう。
「尊人くん・・・私を置いて逃げて。
尊人くん1人ならきっと・・・」
真田さんが消えそうな声で残酷な要望をする。
「いやだっ!」
そんな要望、聞けるわけがない。
「お願いだから・・・生き残って」
「真田さんと一緒じゃなきゃ嫌だ!」
迫ってくる光の熱を感じる。真後ろまで来ている。僕達の真正面に強い影ができる。僕は真田さんの要求を無視したあげく、共に消滅をする。藤原くんに託された最重要任務すら守れない。・・・最後を覚悟する。
「ヒール発動!早璃と源くんっ!」
「・・・え?」
全身が輝いて、ダメージが完全回復をした。
これが何を意味しているのか・・・これは奇跡などではない。
沼田さんの特殊能力は、ある程度接近しなければ干渉しない。沼田さんは、智人を挟んで反対側にいた。僕等を回復させるためには、拡散中の光の半球に接近しなければならない。そして、今の2回のヒールで余力の限界値を超えてしまったはず。
「縫愛っっっっ!!!!」
全回復をした真田さんが、僕の背で振り返って、背後の沼田さんに手を伸ばす。
「源くん・・・私の親友を泣かせたら・・・化けて出るからね」
「うわぁぁっっっっ!!縫愛っっっっ!!!!」
真田さんが悲痛な叫び声を上げる。僕は走りながら振り返る。力尽きた沼田さんが卒倒して、灼熱の光に飲み込まれた。
その直後に、真田さんを背負った僕は、現実世界に繋がる穴に飛び込んだ。
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僕は、以前と同じように廊下側の壁を背凭れにして座っていた。覆い被さっていた真田さんが跳ねるように起きて、倒れている沼田さんに駆けていく。
「縫愛っ!縫愛っ!なんであんなバカなことをっ!!
あたし達を助けるために自分が犠牲になるなんて、そんなの無いよっ!!
わぁぁぁぁっ~~~~~~~~~んっっ!!」
真田さんが、仮死状態の沼田さんを抱き締めて号泣する。沼田さんは、穏やかな仮死ではなく、瀕死の顔色に変化をしている。
沼田さんだけじゃない。藤原くん、近藤くん、土方さん、寺坂さん、そして櫻花ちゃん、みんな瀕死状態になってしまった。多分、隣のクラスで倒れている鷲尾くんや蓮井先生も同じ状況だろう。
『貸し一つね』
櫻花ちゃんが最後に語りかけてくれた言葉。それで終わりなんて絶対に嫌だ。
「僕・・・おーちゃんに、なんにも返せてない」
穏やかな表情で倒れている智人を見ていると怒りが込み上げる。絞め殺してやりたい衝動に駆られるけど、それでは、失った仲間達は戻らない。ここで彼等と再会をするためには、転移先で過半数を集める以外の手段は無い。
「・・・真田さん」
今まで真田さんからは、いっぱい元気と勇気をもらった。どうすれば、泣いている真田さんを元気付けられるのか解らない。こんな時、ドラマやアニメだと「抱きしめてあげる」なんだろうけど、僕にはそんな勇気は無い。
でも、やるべきことは解っている。もう、泣いてられない。
「ねぇ、真田さん。僕が頑張るから」
一緒に生還してくれた真田さんを見ていて、僕は「自分が卑怯者」と気付いた。真田さんが「私を置いて逃げろ」と言った時、僕は拒否をした。あれは、真田さんの為ではない。僕自身のために、真田さんを手放さなかった。
多分、1人で生還をしていたら、気持ちが折れて立ち上がれなくなっていた。真田さんがいてくれるから「シッカリしなきゃ」って思って立ち上がれるんだ。
「僕がトモをやっつけるから・・・
僕が残った人達を集めて多数を獲得するから・・・
ちゃんと、みんなと再会できるようにするから・・・
だから泣かないで、真田さん」
自信が有るかどうかなんて関係無い。「僕がやる」を通さなきゃ、僕自身が潰れてしまいそうだ。
「・・・うん。あたしと尊人くんでやらなきゃ」
真田さんが涙を拭って立ち上がってくれた。
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土方&近藤&鷲尾は、藤原の統率力を示すためのバックグラウンドで、いきなり尊人×藤原では人間関係が構築されないので緩衝材の役割を与えてある。つまり、藤原が脱落する時点で不要になるので纏めて退場。
沼田がいないと早璃が藤原組を遠ざけるので、早璃×藤原の緩衝材となるキャラ。上記と同様に藤原が脱落する時点で不要になる。
寺坂と蓮井先生は、「どんな条件なら櫻花が智人に投降するか?」のバックグラウンド。特にキャラ設定も無く、櫻花が智人に投降した時点で役割を終えているので、何の見せ場も無いまま今回で脱落をした。




