27-2・決別
タイムアップか意図的に解除したのかは解らないけど、刃の雨が止んだ。
「くっ!」
避け切れなかった刃の雨で腿が横にパックリと割れて、大量の血が流れている。でも、そんなのはどうでも良い。庇ってくれた真田さんは無事なのか?
「真田さんっ!」
僕にしがみ付いている真田さんを抱き起こす。
「あぅぅぅっっ!」
真田さんの脇腹から血が流れていて、顔からは血の気が引いている。回避しきれずに、刃の雨を喰らってしまったのだ。
それなのに、増える手で僕の胸ぐらを掴む。
「シッカリしてよ、尊人くん!
怒って周りが見えなくなるなんて、尊人くんらしくないっ!」
悲しいのは僕だけじゃない。真田さんの目に涙が浮かんでいる。上半身を起こして僕に凭れ掛かるようにして、安藤さんを見詰めた。
「安藤・・・なんで?
藤原や近藤と仲良しじゃなかったの?」
安藤さんは、僅かに眼を逸らしたあと、強気な視線を作って僕達を睨み付けた。
「言ったろ。楽しく生きるために勝ち馬に乗ったんだ」
「俊一くんや綿本と一緒にペイイスの村にいた時の安藤は、
そんなに冷たい人じゃなかったよ」
「なんも知らねークセに知ったようなことを言うなっ!
真田だって、源を殺されてオマエだけ捕まっていたら綺麗事なんて・・・
智人が目黒達を倒してなければ、私と同じことになっていたんだぞ!」
「・・・同じことって?」
「助けてくれたのは智人だけだった!
私が智人に頼って何が悪いってんだ!
相談もしないで西都市を出て行くって決めて、
私には事後報告しかしなかったオマエ等に、私を否定する権利は無い!」
安藤さんの主張を聞きながら、僕は櫻花ちゃんの亡骸を見詰めていた。
「トモだっておーちゃんを・・・」
「やれやれ、ミコは解ってねーな。全然違うよ」
智人は“黒い目”で僕を見下すようにして笑う。
「同じじゃん。何が違うの?」
「俺は、俺を頼る者には、幸せと贅沢を与えてやる。
安藤はそれを理解した。織田は理解できないバカだった。そういうことだ」
「ち、違うよ・・・。
確かに君と一緒にいる時は贅沢をさせてもらえた。でも・・・」
全部が智人の言うなりで、トモが中心の世界のオマケみたいな気がして、楽しくなかった。藤原くん達と一緒の方が、色々と大変なことばかりだったけど充実をしている。藤原くんから“黒い目”で見られたことは一度も無い。
「おーちゃんも・・・僕も・・・意志がある。物じゃないんだ」
「テメェっ!私は『意志が無い物』って言いてえのかっ!?」
安藤さんが足元に転がっていた石を拾って、怒鳴りながら投げ付ける。
僕を見下す智人の目が、睨み付ける目に変わった。
「俺と一緒じゃ不満・・・そういうことか?
随分とコケにしてくれるな、尊人!
俺と君の仲はこれまでってことで決定だな」
僕達の仲が「これまで」になったのは、多分、今じゃない。智人が櫻花ちゃんを汚した時・・・いや、もっと前の、真田さんを「邪魔なオマケ」扱いした時。
僕がオマケ扱いをされていても気にならなかったけど、おーちゃんや真田さんを物扱いされたのは我慢ができない。
「恨むなら、『俺を見限る』という間違った判断をした君自身を恨め」
智人が、刃の雨を発生させるために掌を真上に翳した。
「おぉぉぉっっ!!尊人っ!早璃っ!逃げろっっ!!」
血まみれの藤原くんが立ち上がり、智人を羽交い締めにして、刃の雨の発動を妨害する!
「貴様、まだ脱落していなかったのかっ!?」
「藤原くんっ!」
藤原くんの援護に向かうつもりだった。だけど藤原くんは、手の平をこっちに向けて「来るな」と叫ぶ。
「尊人!オマエには指示を出してあるはずだ!」
「・・・えっ?」
僕は「おーちゃんを連れ出す」って指示をクリアできなかった。他に役割なんて無かったはず。
「隣に立とうとするヤツくらい守り抜け!
俺がオマエに課した、最も重要な命令だ!」
僕の肩にもたれ掛かっている真田さんに視線を降ろした。脇腹の傷のせいで意識を朦朧とさせているけど、まだ息はある。
「俺じゃ役不足みてーだからな。オマエに任す」
「退けぇ!気持ち悪いんだよっ!死に損ないが!!」
智人が藤原くんを振り解こうとするんだけど、藤原くんはトモを離さない。
「ふみやっ!もうオマエは終わってんだっ!」
安藤さんが藤原くんの背中に斬撃を与える。
「がはぁっ!」
脱力した藤原くんから離れたトモが、藤原くんに向けて特殊能力を発動した。剣が飛び出して、藤原くんを貫通する。
「任せたぞ・・・尊人・・・
愛美・・・気付いてやれなくてすまなかった」
それが藤原くんの最後の言葉だった。倒れた藤原くんの全身から白い靄が発せられてキラキラと輝く。
「・・・くっ!」
悔しくて仕方が無い。命なんて要らないから、怒りを優先させて智人に特攻したい。だけど、藤原くんの最後の言葉を優先させ、真田さんを背負って、智人の立ち位置と反対側に走る!
「逃がさねーよ!転がってる目障りで無能なオトモダチと一緒に消滅しろ!」
智人が両拳を左右の脇腹に添えて四股立ちをして、気合いを発する。
「ハァァッッ!富醒・イメージ!アポロン!!」
智人と安藤さんを中心に、眩しい半球の高エネルギー体が放出され、地面を捲り上げながら全方位に向かって広がる!
藤原組は藤原の支柱的役割が強すぎて、藤原が戦闘不能になった時点で総崩れを起こした。
読む人次第では、第22話の尊人と藤原が理解を深め合う辺りから、藤原の「死亡フラグ立ちまくり」が解るんだろうな。
安藤は、出番は少ないけど、早璃よりも早く登場して、尊人と智人に次いで息が長いキャラ。寺坂と蓮井先生と同じように「ついで」扱いで脱落する予定だったけど勿体なくなったので、ゲームチェンジャーの役割を与えることにした。




