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27-1・安藤さんの裏切りと壊滅

 何が起きたのか・・・理解できなかった。

 思考が、目の前で起きた出来事を拒否している。


 だけど・・・精一杯伸ばした手から、櫻花おーちゃんが離れていく。


「おー・・・ちゃん?」


 僕は櫻花おーちゃんを掴めなかった。

 目の前でいっぱいの血飛沫が上がり、胸の真ん中を剣で貫かれたおーちゃんが、2m喰らい弾き飛ばされて仰向けに倒れる。


 ウソダヨネ? 


 近付いて、両膝を地面に降ろし、おーちゃんに触れる。おーちゃんの体が白い靄に包まれてキラキラと輝く。


「・・・嫌だ」


 一番見たくなかった光景。


「おーちゃん・・・痛いけど大丈夫って言ってよ」


 おーちゃんから溢れる血が、僕の膝を濡らす。手で傷口を押さえるんだけど、血が止まらない。


 守レナカッタ?


 おーちゃんの名を何度も呼ぶんだけど、応えてくれない。心のどこかでは、おーちゃんが遠くに行っちゃうことを「仕方が無い」って諦めていた。でもこれは違う。


「うわぁぁぁっっっっっっっ!!!おーちゃんっっっっっ!!!!」


 涙で視界がぼやける。拭っても拭っても、涙が溢れてくる。きっと僕の顔は、おーちゃんの血で塗られているんだろうけど、そんなのはどうでも良い。


「僕のせいだぁぁっっっっっっっ!!!」


 櫻花おーちゃんが智人トモのところにいるって知った時、後回しにしなければ・・・直ぐに会いに来ていれば・・・こんなことにはならなかったかもしれない。


「ちょっと勿体なかったけどな・・・俺の価値を理解できないカスは要らない」


 背後から聞こえる智人トモの軽率な声が、僕の感情のストッパーを突き破った。


「トモっっっ!!!」


 共倒れで良い。智人トモを倒せるなら、僕も脱落して良い。その為なら、どんなに痛くても我慢する。僕が智人トモを道連れにすれば、あとは藤原くんが上手にやってくれる。そんな感情で立ち上がって智人トモを睨み付ける。


「・・・・・・え?藤原くん?」


 パニックを整理できていない僕の感情は、更なるパニックに陥った。智人トモから5mくらい離れた位置。藤原くんが、真後ろから剣で貫かれていた。


「ガハァッ!」


 藤原くんが喀血をして、「何が起きたのか解らない」って表情で自分の体を貫通した剣を見たあと、後ろを振り返る。


「愛美・・・テメーが?」


 藤原くんを貫いたのは安藤さんだった。安藤さんが剣を引き抜き、脱力をした藤原くんが倒れる。


「ワリーな、フミヤ」

「俺達を・・・欺きやがったのか?」

「私は智人側なんだ。

 だってそうだろ?この世界での勝ち組はどう見ても智人だ。

 フミヤのチームに入って、狭い屋敷で窮屈な共同生活して、

 日銭を稼いでその日暮らしなんて、やってらんねーっての」


 智人トモが、動けなくなった藤原くんを見下ろして嘲笑う。


「言ったろ、才能がある者の元には、才能がある部下が集まるってな。

 スキルシールは安藤の特殊能力なんだよ」


 我田さんがスキルシールの能力者だと思っていた。我田さんが倒れたのに櫻花おーちゃんの特殊能力が封じられた時点で、疑うべきだったのに、そんな発想は全く無かった。


「君(藤原)だけはちょっと目障りだったんでね、

 ゴククア公を暗殺するついでに、安藤を使って君を誘き出すことにしたんだ」

「源と北の勇者がオトモダチって知った時は、

 偉いさん(ゴククア公)の暗殺容疑が掛かると思って焦ったけどな。

 慌てて、『放置すると織田達が智人にヤラれる』って説明したら、

 みんなで慌てて動き出してくれて助かったよ」

「つまり・・・安藤に乗せられて、ここまで引っ張り出された時点で、

 君達の敗北は決まっていたってこと」


 近藤くん、藤原くん、どちらもヒールは使用済み。つまり、両フィニッシャーが倒れたことで、僕等の勝ち筋は消えた。


「わぁぁぁっっっっっっっ!!!トモぉぉぉっっっっ!!!」


 もう、どうでも良い。智人トモが憎い。トモさえ倒せれば、あとはどうなっても良い。


「尊人くんっ!冷静になってっ!!」


 真田さんが制止の声を張り上げた時には、僕は智人トモに突進をしていた!


「おーちゃんの仇!」

「オマエだけは許せないっ!」


 僕だけじゃない。土方さんと寺坂さんは泣きながら、鷲尾くんと蓮田先生は怒りで震えながら、智人トモに飛び掛かる。


「寺坂と蓮田・・・君達もか?

 やれやれ・・・せっかく助けてやったのにさ、恩を仇で返すとはこのことだな。

 まぁ、君達は、織田獲得の“ついで”だから、

 織田がいなくなった今となっては、ただの穀潰し。

 もうどうでも良いんだけどな」


 智人トモが頭上に出現させた剣が全方位に乱れ飛ぶ!

 剣の雨の影響下にいないのは、戦場から遠ざかっている沼田さんと吉見くん以外では、発動者のトモと、トモに寄り添っている安藤さんと、トモの足元に倒れている藤原くんだけ。


「裏切り者っ!恥ずかしくないのっ!」


 土方さんが、安藤さんに恨みを吐きながら火の玉を飛ばす!


「はぁ?なに勘違いしてんだ?ハナっからオメー等の仲間なんてしてねーよ!」


 火の玉を煩わしく感じた智人トモが、刃の雨を土方さんに集中させた!


「あぐぅぅっっ!」

「きゃぁぁっっっ!」 

「おーちゃん・・・かたき・・・うてな・・・」


 土方さんと、その近くにいた蓮井先生が、凌ぎきれずに刃の雨の餌食になる。


「安藤さんがスキル封じをした所為で、おーちゃんはチートなんかにっ!」


 寺坂さんが、安藤さんに罵声を浴びせながら接近をする!


「人望があって、誰とでも仲良くして、誰も敵を作らない、

 私さ、良い子ちゃんすぎるアイツ(櫻花)が大っ嫌いなんだよ。

 だから無力化して、汚す手伝いをしてやったんだ」

「最低っ!」

「世間は汚ぇことばかりなんだよ!

 1回スキルを返して、そのあともう1回封じた時のアイツの顔見たか?

 笑えたよな~。ざまーみろっての」


 回避の連続で鷲尾くんの息が上がり足が縺れた!そこに「チャンス」とばかりに今まで以上の刃の雨が降る!


「ちくしょぉぉぉっっっっっ!!」

「・・・悔しいよぉ」


 鷲尾くんと、近くで撒き添えになった寺坂さんが力尽きて倒れる。

 目を覆いたくなる光景。土方さんと鷲尾くんと寺坂先生と蓮井先生に何本も剣が突き刺さって、全身から白い靄が発せられる。4人が纏めて終わってしまった。


「・・・みんなっ!」


 だけど悲しんでいる余裕は無い。為す術が無いのは僕も同じ。

 飛んでくる剣の最初の数発は剣と盾で弾いたけど、無数に飛んでくるので対応をできない。回避が後手に回り、肩に掠り傷を受けて盾を翳すタイミングが遅れ、太股に掠り傷を受けて足が止まる。


「おーちゃん・・・ごめん。僕、なんにも・・・」


 一矢も報いることができないまま、串刺しにされることを覚悟した。


「尊人くんっっ!!」


 横から飛び込んできた真田さんに体当たりをされて、絡み合いながら地面を転がる。


スキルシール

使用者:安藤愛美

 転移者のスキルを封じ込める。熟練度が上がると、封じるスキルの数が増える。

 現時点では2人のスキルを封じることが可能。今回は、事前に櫻花と寺坂のスキルを封じて無力化させていた→藤原と近藤のスキルを封じる為に櫻花達のスキルを解放した→スキルが戻った櫻花が反発をしたので藤原達のスキルを解放して再び櫻花のスキルを封じた。

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