26-4・真実
櫻花ちゃん達を護衛していたホワイって名前の白騎士は、寺坂さんに倒されている。寺坂さんがホワイから弓矢を奪って、おーちゃんに渡したっぽい。
「私は徳川くんを・・・いや、人間の皮を被った獣を・・・許さない!」
「おーちゃん?」
どういうこと?智人を憎んでいる?2人は両想いになったんじゃないの?
「何を血迷っているんだ?
君は俺に身を任せ、俺達はあんなに熱く愛し合っただろうに。
尊人や他のザコ共を見て情に流されたか?」
智人が少し呆れた視線で櫻花ちゃんを睨み付ける。僕以上に驚いている様子だ。
「我田を撃ったことは『幼馴染み(尊人)の危機に動揺した』で流してやる。
だから、気持ちを落ち着けて武器を降ろせ」
「私は動揺していない!」
櫻花ちゃん、弓矢を降ろそうとしない。
「おいおい、俺の傍にいれば一生贅沢をさせてやるんだぞ。
それなのに、絶対的勝ち組の俺に歯向かう気か?」
「アンタの言う『傍にいる』はお互いに尊重できる恋人や友達ではなく、
尊厳を無視して、力で従わせて、一方的にアンタの色で汚すこと!」
「・・・けがす?トモが?おーちゃんを?」
僕には櫻花ちゃんの言ってることが直ぐには理解できなかった。
「尊人くん。これが理由で織田から目を背けたら、絶交するからね」
僕が理解をするより先に、白騎士を倒した直後の真田さんに注意をされる。
「『けがす』ってなに?
真田さんは何のことか解ってるの?」
真田さんは真剣な表情で小さく頷いた。
改めて考えると、僕が「おーちゃんとの合流は後回し」と提案したのに、いつの間にか最優先事項になっていた。藤原くんは「真田さんが真っ先に『おーちゃんとの合流』に賛成した」と言っていた。僕が居ない間に、どんな打合せがあった?安藤さんは仲間達に何を説明した?
「アンタに好きなようにされて、私は心を殺していた。
特殊能力を奪われ、部屋に閉じ込められた状況では、
他の手段を思い付かなかった。
アンタの信頼を得て、奪われた能力が帰ってくる時を待っていた」
「俺を騙したのか!?従順だったのは演技だったのか!?
『俺と離れたくない』と言ってここまで付いてきたのは芝居なのか!?」
「転移者との交戦状態になれば、そのスキルを奪うために、
私のスキルを解放する可能性がある!」
今までの櫻花ちゃんは、特殊能力を奪われていた。だけど、藤原くんと近藤くんの特殊能力を奪うために、おーちゃんの特殊能力が開放された。
「私は、その可能性にかけたの!
私の手でアンタを撃つために!」
「トモ・・・おーちゃんになにをしたの?」
少しずつだけど、櫻花ちゃんに何が有ったのかを理解する。心が「おーちゃんは汚された」を拒否するけど、真田さんに言われたように「目を背けるな」と言い聞かせる。
「最強の俺は、どんな女からも受け入れられた!
皆が俺の力に縋って、俺を愛し、俺の要求を受け入れた!
何故、君は俺の価値に気付かない!?」
「バカじゃないの!?私を、この世界の住人と一緒にするなっ!
ただの勘違い野郎を受け入れるのは、この世界の住人だけ!
現実の人間は、都合の良い妄想の中で生きているアンタなんて相手にしない!」
櫻花ちゃん、メチャクチャ怒ってるけど、眼に涙を浮かべている。僕は、こんなおーちゃんを見たことが無い。
これまで生きてきた中で、そして、この非日常世界で生き抜いた中で、初恋の子が親友を撃つ光景なんて全く予想したことが無かった。
だけど、櫻花ちゃんが言っているのが事実なら、もう僕には、智人が僕の知っているトモと同じ人には見えない。藤原くんがトモを討とうとしていた理由を否定できない。
「俺の作戦とはだいぶ違うが・・・形勢逆転だな。
人望ゼロの、自称『才能がある者』さんよぉ」
藤原くんが立ち上がって、智人を睨み付ける。藤原くんから50mくらい離れたところで、沼田さんが掌を翳していた。沼田さんのヒールで、藤原くんが回復をしたのだ。
「私は都合の良い妄想と勘違いで私の意思を無視したアンタを許さない!
富醒発動!アーチャー!!」
櫻花ちゃんが番えて射る矢に光が宿る。
「自動追尾の矢!
私が射た瞬間に、アンタがどんなに逃げて、必ずアンタを貫く!」
智人は露骨に苛立っている。
「君がそんなにバカだとは思わなかった!
俺の傍にいれば一生贅沢をさせてやるんだぞ!」
「そんなもの、私は望んでいない!
こんな世界での贅沢になんて価値は無い!
アンタを倒して、尊人達と一緒に現実世界に帰る!」
櫻花ちゃんが精一杯引きしぼった弓から矢が放たれ、智人に向かって飛んで行く。・・・だけど
「受け入れよう。君が、俺の傍にいる器の無い愚か者だったってことをな」
矢は智人に届く前に勢いを弱めて、楽々と回避されてしまった。
「えっ?なんで?」
櫻花ちゃんの特殊能力が発揮されていない。
「バカだな、君は。
もう一度、君の富醒を封じたこと・・・気付かなかったのか?」
櫻花ちゃんが、悔しそうな目で智人を睨み付ける。
「富醒・イメージ!ヘパイストス!!」
腕を上げて掌を空に翳した智人の真上に、無数の剣が出現する。
「ずっと養ってやるつもりだったのにさ・・・
学園のアイドルを手放すのは惜しいけどさ・・・
心が広い俺でも、ここまで無下にされたら笑って見過ごすことはできない。
そこまで特別扱いをしてやったら、部下達に示しが付かない。・・・死ね」
智人は櫻花ちゃんを串刺しにするつもりだ。
「おーちゃんっ!下がってっ!!」
背中の痛みなんて忘れていた。僕は櫻花ちゃんに向かって突っ走る。
アーチャー
使用者:織田櫻花
標的を追尾して必ず中る矢を射る。熟練度が上がると、同時に番える矢の数が増え、射程圏が広がる。




