15-1・異世界あるある(突然の出会い)
この世界のは、帝都テーレベールを中心にして、北の都市ノス、東の都市アーズマ、南の都市サウザン、西の都市セイがあり、各都市の間に北東の村ペイイス、南東の村トンナン、南西の村ミナーシャ、北西の村ウェスホクがある。
そして、帝都と東西南北の都市の間には、東の宿場町ミドオリエン、西の宿場町ミドオチス、南の宿場町ミドメリデ、北の宿場町ミドセプテがある。帝都~都市間が約50㎞もあって、かなりのハイペースで移動しないと朝一で発っても暗くなるまでに到着するのが難しいので、宿場町で一泊するのが一般的なのだ。
そんなわけで、僕と真田さんは西の宿場町ミドオチスを目指して街道を歩いている。
「僕が把握してるだけでも、もう9人が脱落してる」
力石先生、今川くん、隣のクラスの鰐淵くん、目黒くんの最後は直に確認した。毛馬内さんの脱落はブラークさんと柴田くんの証言から推測できる。二宮くん、橋本くんの脱落は力石先生から聞いた。そして、柴田くんと綿本さんは、目黒くんに内通されて秘境者狩りの犠牲になった。考えちゃうとやりきれない気持ちになってしまうけど、「必ず多数派を得て現実世界に帰還する」と割り切るしかない。
※尊人は遠藤と加藤の脱落は把握していない。
「転移者は全部で51人だから、今残ってるのは42人ってことだね」
「どうだろう?それくらいで済んでれば良いんだけどね。
知らないところでもっと沢山の人が脱落してても不思議じゃないよね」
「そっか・・・そうだね」
かなりキツい話題ってのは解ってる。でも真田さんを怯えさせたいわけではない。僕達は智人の保護下から離れて「クラスメイトを集める」を選択したんだから、現状を把握しなきゃならないんだ。
「尊人くんのリターンで現実世界に戻れば、瀕死者の確認をできるよね」
「うん、まぁーね」
一昨日、真田さんを現実世界に連れて行った時、織田櫻花と沼田さんと長野さんと上杉さんが「瀕死になっていない」ことは確認した。もっと時間を使えば全員の状況を確認できるだろうけど、「現実世界の1分=この世界の約1時間をかけるのが惜しい」ってのと、「確認をするのが怖い」って気持ちがあって、今まではやろうと思わなかった。
「リターンで確認すんのは総数の半分・・・とは言わないけど、
ある程度の人数が集まってからだね」
「帝都なら、きっと何人も集まってるよね?」
「うん、そう思いたい」
帝都を目指す目的は、どの町や村にも行きやすいから。そして、一番大きい都市ならクラスメイトが沢山集まっている可能性が高いから。東西南北の4都市と4村は、各所属の騎士団が躍起になって秘境者狩りをしているだろうけど、「帝都なら4都市の騎士は我が物顔ができない」「実は安全なのでは?」って、ちょっと都合の良い理想もある。
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何のトラブルも発生しなかったので、太陽が真上より少し南に傾いた頃に、西宿場町に到着した。セイの町から西の宿場町までは約25㎞。決して短い道のりではないけど、1日40㎞を歩いた僕等からすれば、楽に感じられる。
「どうする?このまま帝都まで行っちゃおうか?」
真田さんが強気な提案をする。銀の胸当ての補助があるおかげで、真田さんは以前よりも魔法が上手に使えるようになった。ホブゴブリンクラスなら奇襲さえ受けなければ倒せる自信がある。・・・とは言っても、魔法でトドメを刺すんじゃなくて、魔力で痺れさせて戦闘不能にして、僕がトドメを刺すんだけどね。
「うん、行けそうだね」
僕達は、宿場町には泊まらず、軽い昼食だけ仕入れることにした。
「うわっ!これ、ずんだだよねっ!?」
「うん、エダマメだね!」
すり潰された緑色の物体が挟まったパンを見て「もしかして」と思って買ったら、予想通りだった。この世界に元々「ずんだ」の文化があったのか、転移をした誰かが伝えたのかは不明。だけど、知ってる味を食べられてテンションが上がる。
「少しペースを上げなきゃね」
宿場町から出て、帝都を目指す。明るいうちに到着するのは無理だろうけど、何もトラブルが無ければ、暗くなって直ぐくらいには着けるはず。
「きゃぁぁっっ!誰か助けてっ!!」
1㎞くらい歩いたところで、悲鳴が聞こえて、ゴブリンに追いかけられる女の子に遭遇した。
「げっ!」
「マジか!?」
何もトラブルが無ければ、暗くなって直ぐくらいには帝都に着けるはずなんだけど、いきなりトラブルに遭遇してしまった。
「真田さん、荷物預かってて!」
襲われてる女の子を無視するってのは、さすがにできない。
「尊人くん1人で大丈夫なの?」
「ゴブリン1人くらいなら、なんとかなるよ!」
先生の剣と革の盾を装備して突進!女の子とゴブリンの間に割って入って、シールドアタックでゴブリンを弾き飛ばす!
「ごめんっ!ホントはトドメを刺したくないけどっ!」
仲間を呼ぶ習性がなければ、追い散らして終わりにしたい!だけど、それで許してもらえる相手ではないので、倒れているゴブリンに飛び付いて剣で突いた!ゴブリンは小さく悲鳴を上げて動かなくなる!
「助けていただき、ありがとうございます」
助けた女の子が小走りで寄ってきた。僕と同じくらいの歳かな?シリーガルさんやバクニーさんほどではないけど、それなりに綺麗な赤いドレスを着ている。
「無事で良かったです」
「私の名は、この先の宿場町に住むアン・フランと申します。貴方のお名前は?」
「え~~~と・・・源尊人・・・です」
「お礼に、晩餐に招待させてください」
「あの・・・先を急いでるんだけど・・・」
「そんなことを言わずに・・・是非、お礼をさせてください」
困惑して真田さんの方を見たら、真田さんも困惑している。「夕食へのお呼ばれ」は断るつもりだけど、ゴブリンに追い回されるレベルの女の子を放置するわけにはいかない。
「とりあえず、町までは送りますね」
「ありがとうございますっ!」
タイムロスが発生して帝都への到着が遅くなっちゃうけど、真田さんなら解ってくれるよね?
「わっ!何をっ!?」
アンさんが僕にすり寄ってきて、腕に抱き付いて胸を押し当ててきた。急すぎる展開に動揺しつつ「女の子の胸ってこんな感じなんだ」と服越しに感触を楽しんでしまう。僕が困惑してると、ムスッとした真田さんが寄ってきた。
「尊人くん、鼻の下伸びてるっ!」
「いてっ!」
強めの真田さんのローキックが、僕の裏腿に入る。
ちょっと名残惜しいけど、正気に戻った僕は、「歩きにくいので離れてください」と言って、腕にしがみついているアンさんの手を解いた。




