26-3・スキルシール
櫻花ちゃん達の近くにいた白騎士のうちの2人が前進をして構えた!掌から吹雪が発せられる!
「尊人くんっ!あたしの後に隠れてっ!」
真田さんが僕を追い越して前に出て、掌から魔力の熱を発しながら突進を続ける!熱の盾と、真田さんが装備する胸当ての防御力で、後を走る僕は吹雪魔法の余波を「少し涼しい」程度にしか感じない。
「真田さん、来たよ!」
魔法では足止めできないと判断した白騎士2人が、剣を装備して向かってきた!
「真田さんは下がって!今度は僕がっ!」
接近戦まで真田さんに任せるわけにはいかない。真田さんの後ろから飛び出して、追い抜こうとする!
「1人くらいなら大丈夫!」
だけど、真田さんは突進速度を弱めることなく、白騎士の1人に立ち向かう!白騎士が振り下ろした剣を回避して魔石のダガーを打ち付けた!途端に白騎士が全身を硬直させ、悲鳴を上げて卒倒した!十八番の電流麻痺を喰らわせたっぽい!
「すごいよ、真田さん」
真田さんは、転移者の中で誰よりも魔法を上手く扱い、且つ、魔力補正がある銀の鎧と魔石ダガーを所持している。臨機応変も利く。前線に出る機会は少ないけど、藤原組でトップクラスの戦闘能力を持っているかもしれない。
「負けてられないっ!」
先生の剣の柄に縛り付けた魔石を握り、もう1人の白騎士が振るった剣と切り結ぶ!
「ぐぉぉっ!」
剣を伝って白騎士に電流が流れるが、僕では真田さんみたく一発で失神させるような強烈な電流は操れない。だから、鉄の盾で硬直した白騎士の顔面を殴って体勢を崩し、剣で思いっきり・・・
「尊人くんっ!危ないっ!うしろっっ!」
「えっ!」
剣を振り上げた我田さんが真後ろに迫っていた!今朝のブラークさんの戦いで革の鎧が壊れちゃったので装備していない!慌てて飛び退いて回避をしたけど、切っ先が背中を掠る!
「痛っ!」
振り返って体勢を整える前に足を引っかけられて転倒!立ち上がろうとしたら、眼前に切っ先を突き付けられた!
「くっ!」
背中に生暖かい血が流れる。傷は致命傷ではないけどハッキリとした痛みは感じる。
「尊人くんっ!」
真田さんが援護に来ようとしたけど、僕が撃ち損ねた白騎士に妨害されてしまう。
櫻花ちゃんまでの距離は30mくらいなのに、すごく遠く感じる。
成り行きでおーちゃんに背を向け、視界に50mくらい離れた藤原くんや智人が入ったことで、ショッキングな光景を目の当たりにした。
「・・・藤原くん」
智人が掌から放った火炎弾の直撃を受けた藤原くんが、仰向けに倒される。
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逃げの姿勢になった智人が攻勢を立て直すことを、藤原くんは許さなかった。藤原くんと土方さんと鷲尾くんの波状攻撃で、智人は間違いなく追い詰められていた。
「富醒!ルーラー!!」
智人を射程圏に入れた藤原くんが、強制支配を発動させた。土方さんと鷲尾くんが動きを止めて様子を見る。誰もが「これで、智人は動けなくなって、決着が付いた」と思っていた。・・・だが
「なに?」
藤原くんの特殊能力は発揮されない。慌てて距離を詰めて剣を振るおうとしたが、余裕を取り戻した智人が発した火炎弾に弾き飛ばされてしまう。
異常はそれだけではない。
「バカな!」
近藤くんが横凪に振るった剣が脇坂くんに着弾したが、鎧に防がれてしまう。近藤くんの特殊能力ならば、剣の射程圏の全てが防御無視で切断されるはず。
「富醒発動!グリップストレングス!!」
脇坂くんが近藤くんの右腕と胸を掴んだ途端に、骨が砕ける生々しい音が響いて、近藤くんが仰向けに倒れた!
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なんで?藤原くんがルーラーの発動をミスった?近藤くんのアーマーファンブルが通用しない?
智人が、倒れている藤原くんを見下ろして嘲笑う。
「そう言えば、さっき『俺にはできないことを見せ付ける』とか言ってたっけ?
はははっ!無理みたいだな。
無能が徒党を組んでも、俺を超えるのは不可能」
智人が藤原くんと近藤くんの特殊能力を攻略した?
「フィニッシャーを無力化すれば、ザコ集団の勝ち筋は消える。
だから俺は、追い詰められるフリをして君等のフィニッシャーを見極め、
スキルシールで君等2人の富醒を封じさせたんだ」
スキルシール?藤原くんと近藤くんは、特殊能力を使えなくなった?
「つまり・・・無能の元には、凡俗しか集まらない。
そして、才能がある者の元には、才能がある部下が集まるってことさ」
誰がスキルシールを使った?智人は「富醒・イメージ」を使っていて、脇坂くんは「富醒・グリップストレングス」って叫んでいたから、スキルシールは我田さんの能力?
「近藤くんっ!」
脳内は混乱中だけど、ハッキリと解ることが1つある。近藤くんの敗北は拙い。彼は既に沼田さんのヒールを使っていて、もう回復ができない。近藤くんの命が奪われる前に退避させなきゃならない。
「いかなきゃっ!」
尻餅をついたまま後退をして、目の前に突き付けられていた我田さんの剣から離れる!
「オマエに、他人の心配をしている余裕なんて無いっ!」
我田さんが踏み込んで刺突を放ってきたので、退きながら盾で弾く!だけど、尻餅をついたままでは踏ん張れずに盾を弾かれ、且つ、背中の傷の痛みで退避が遅れて我田さんの刺突から逃げられない!
「尊人くんっ!」
真田さんが、悲鳴に似た声で僕の名を叫ぶ。
「ヤバいっ!」
もうダメだ。僕は確実に貫かれる。
即死だけは免れたい。即死じゃなければ、沼田さんのヒールで全回復してもらえる。だけど、既に3回使用していて、僕と藤原くんに使わなきゃならない。6回がヒールの使用限界で、全て使うと沼田さんは卒倒してしまう。つまり、ヒールの干渉下にある残る1人=真田さんはダメージを負うことが許されない。
これが有効な思考なのか、パニックになって余計なことを考えているのか解らない。僕は、逃げられない切っ先を見詰めながら、そんなことを考えていた。
「ぐはぁっ!」
我田さんの悲鳴が聞こえ、切っ先が僕に届く前に我田さんが仰向けに倒れた。
「えっ!?」
我田さんの肩に、深々と矢が突き刺さっている。
「尊人っ!」
背後から声が聞こえた。幼かった頃に、僕を助けてくれた頼もしい声。
「・・・櫻花ちゃん?」
「来てくれてありがとう」
振り返ると、30m先で弓矢を構えた櫻花ちゃんが、凜とした表情で僕を見詰めていた。
「でも、これで貸し一つね」
おーちゃんへの借りは、1つでは済まない。何個返せば良いのか解らないくらいたくさんある。
目が合って、おーちゃんは安心した表情をしてから、遠い目をして智人を睨み付けて鏃を向けた。




