26-2・総攻撃
「はははっ、君の期待を裏切ってすまないな。
才能が有る者は崇拝を集める。俺は“ぼっち”じゃないんだ」
「姿を見ないと思ったら、チートと連んでいたのかよ?」
藤原くんが、近付いて来る脇坂くんに対して構えた。
「利害の一致ってやつだ」
脇坂くんの言葉に違和感を覚えた。脇坂くんと我田さんが、白騎士みたく「智人の部下になった」とか「トモを勇者にする為に協力をしている」とは思えない。彼等3人に共通していることなんて、「藤原くんは敵」しか思い浮かばない。
「藤原くん、マズいんじゃないの?」
「慌てるな、尊人。
ヤツらに誘い出されちまったってのは認めるしかないだろうが、
俺等のやることが変わるわけじゃない」
状況変化に動じない藤原くんが頼もしい。
「奴等の参戦で俺等が不利になるとは限らない。
むしろ、チートだけじゃ対応できずに、手札を切ってきたと判断するべき。
要は、『退く理由は無し』『このまま押し切れ』ってことだ」
藤原くんが手を上げて合図をしたら、離れて見守っていた沼田さんが前進をしてきて手を翳した。倒れてた近藤くん&手首を砕かれた土方さん&足に傷を負った鷲尾くんの体が輝いて、戦闘前の状態に戻って立ち上がる。
「浩二は脇坂を抑えてくれ!」
指示を受けた近藤くんが、脇坂くんと対峙をする。
「他の連中は、チートに集中だ!
ただし、初見殺しは無いだろうが我田への警戒は怠るな」
以前、脇坂くん達と戦った時、我田さんは特殊能力を使わなかったらしい。彼等みたいな「力をひけらかすタイプ」が「今日の戦いに備えて我田さんの能力を隠した」とは思えない。だから、我田さんの特殊能力は戦闘系ではないと判断できる。
「あたしはっ?また見学なの!?」
「オマエも参戦だ!」
真田さんにも突撃の指示が出た。
「尊人、解ってるな!?」
「うんっ!」
僕に与えられた役割は、隙を見て櫻花ちゃん達を連れ出すこと。トモに警戒しつつ、おーちゃん達をチラ見する。
「来るぞっ!集中しろっ!」
智人の頭上に手の平サイズの人玉が幾つも浮かんで、僕達目掛けて飛んで来た!恐怖で足が竦む!だけど、それなりに修羅場を潜り抜けてきた自信は有る!
「わぁぁっっ!」
気勢を上げて恐怖心を抑え込み、飛んで来た火の玉を回避!避け切れない火の玉は、落ち着いて軌道を見極めて鉄の盾で防ぐ!着弾の衝撃が全身に伝わるけど、ダメージは無い。
「この調子なら凌げそう」
気持ちに少し余裕ができたので周囲を見たら、土方さんと鷲尾くんは、火の玉を器用に回避している。さすがはスポーツ万能コンビ。動体視力も優れているっぽい。
藤原くんは、グラディウス(刀身がやや短くて幅広の剣)で火の玉を弾きながら、智人への接近を試みている!
「藤原っっっ!!」
我田さんが剣を振り上げて藤原くんに飛び掛かる!
「わぁぁっ!」
僕は、藤原くんの脇に飛び込んで、我田さんが振り下ろした剣を盾で弾いた!
「尊人っ!」
「藤原くんは智人に突っ込んでっ!」
与えられた役割以外は何もしないわけにはいかない!今の僕にできることは、フィニッシャーを前に進めること!
「ナイスフォローだ!だいぶ解ってきたじゃねーか!」
藤原くんは、僕に向けてサムズアップをしてから智人に突進をしていく!
「やぁぁっっっ!!」
一番アクティブなのは真田さんだ!一定の距離を空けて分身で撹乱している鷲尾くんとは違って、全ての火の玉を紙一重で避けながらグングンと智人に近付いていく!特殊能力で火の玉の軌道を先読みしながら動いているのだ。
「チィ!すばしっこいヤツめっ!」
智人がムキになって真田さんに向けて火の玉を飛ばす!逃げ回る真田さんと鷲尾くんの位置が、智人を挟んで、僕や藤原くんと真反対に来た!
「真田さん達が誘導をしている?」
智人の横に移動した土方さんが火の玉を飛ばす!
「富醒・イメージ!ガイア!!」
智人の周りの土が迫り上がって火玉を防ぐ!それは、智人自身が自分の視覚を塞ぐ悪手だ!
そこに、藤原くんが接近をする!智人が半球光を発動するより早く、藤原くんの特殊能力の射程圏に入る!藤原くんの支配力が発動すれば、防御に関係無く、智人は強制的に動きを止められるはず!
「くそっ!」
だが、智人は防御に使った土壁を四方八方に飛ばした!土塊が飛んで来て、藤原くんの突進が鈍る!その隙に、智人は大きく退避をした!
智人が大きく移動したために、僕と櫻花ちゃんの間が開ける!
「尊人っ!」
「尊人くんっ!行ってっ!」
藤原くんと真田さんが同時に叫んだ!智人との交戦は、状況次第で対処する「ついで」であり、今回の遠征の目的は、櫻花ちゃん達を連れ帰ること!
「おーちゃんっ!」
おーちゃん達に向かって走る!僕が一番戦力外だから「おーちゃん担当」なのか、「トモとは戦えない」と判断して離されたのかは解らない。だけど、今は余計なことを考えずに、決められたことを遂行する時だ。僕がおーちゃん達を連れて逃げれば、少なくとも僕から智人に仕掛ける理由は無くなる。
「早璃、オマエも行け!」
指示を受けた真田さんが、僕の真後ろから付いてくる!




