26-1・脇坂くんと我田さん
「無能の集まりにしては上手く纏まっているようだな。
だが、尊人の役割は無さそうだ。
使い物にならない富醒じゃ仕方無いか?
君は数合わせの弾除け要員か?」
藤原くんが「尊人は頑張ってる」と褒めてくれたばっかりなんだけど、頑張ってるワリには実績を残せていないのも事実。無い実績を有るように捏造したり、他人の手が実績を自分の手柄みたく話す人がいるけど、僕はそ~ゆ~のは超苦手。
「随分と背伸びをしているようだが、役立たず・・・惨めだな」
「役立たずなりにできることは増えてるよっ!」
「君が努力して会得したことなんて、才能が有る者なら簡単にできることだろ。
こんなふうにさ。・・・富醒・イメージ!ウルッ!!」
智人が掌を翳した途端に、氷の矢が出現して飛んで来た!
「くっ!」
相殺をするような炎の魔法なんて使えない。慌てて盾で受け止めるが、衝撃を抑え込めずに弾き飛ばされて尻餅を付く。
「俺が片手間でできることすら、君は努力してもできないってか?」
悔しいけど、智人の嫌味に何一つ言い返す術が無い。
「尊人っ!オマエは1人じゃないっ!
自称『才能が有る者』ができねーことを、俺達が見せ付けるんだっ!」
藤原くんの檄が飛ぶ!
「フン!徒党を組まなきゃ何もできない。集団で個人を攻撃して潰す。
相変わらず、カスのクオリティーにブレが無いってことでいいかな?」
「否定をする気は無ーよ!」
「見せてもらおうかっ!徒党を組んだザコ共の薄っぺらな壁をっ!
富醒・イメージ!ヘパイストス!!」
トモの頭上に出現した無数の剣が、僕と仲間達に向かって一斉に飛んで来た!
「浩二は土方を守れっ!土方は特殊能力で牽制!
早璃は浩二の後ろで小さくなって、状況を眺めとけ!
鷲尾は、チートに突入しろっ!」
「なんで見学?あたしも戦えるってばっ!」
「んなことは言われなくても解ってる!勝ち筋を観察しろと言っているんだ!」
藤原くんは僕の前に立ち、近藤くんは土方さんと真田さんの盾となって、剣を振り回して飛んで来た剣を弾く!しかし、向かってくる全てには対応できず、致命的な直撃は無いものの、腕や足に掠り傷が増えていく!
「逃げるな!立ち向かえ!ダメージを恐れるなっ!」
「富醒!ファイヤーウインドミル!」
土方さんが盾になっている近藤くんから半身を出して、火の玉を連射!智人が回避に意識を集中させたために、飛んでくる剣の狙いが曖昧になる!
「富醒!アジリティ!」
鷲尾くんが智人に突進!分身で撹乱をする!
「君達は、俺の攻撃を必死になって凌いでいるだけ!
君達の攻撃は、俺には届かないっ!」
智人は大きく後退をする!トモが回避に専念したので、剣の放出が止まる!
「はぁぁっっ!」
鷲尾くんが突撃を続ける!智人は掌を鷲尾くんに翳して火の玉を放出!狙い撃ちをされた鷲尾くんの突進力が鈍る!
「浩二っ!今だっ!!」
「おうっ!」
藤原くんが、鷲尾くんとは別の方向から智人への突撃を開始!鷲尾くんの役割はトモの懐に飛び込むことではなく、あくまでも撹乱だ!
「うおぉぉぉっっっっ!!」
智人が掌から火の玉を発して牽制をしながら、藤原くんのから遠ざかる!その退路に近藤くんが飛び込んだ!
「富醒!アーマーファンブル!」
フィニッシャーは藤原くんと近藤くん。近藤くんが防御無視の斬撃で仕留めるか、藤原くんが強制支配力を発揮して動きを止める!
「・・・トモ」
友達が真っ二つにされる光景は見たくない。近藤くんが剣の射程圏に智人を入れるより先に、藤原くんが特殊能力の有効範囲にトモを捕らえることを願う。
「バーカ!俺の目は節穴ではない!
土方が火の玉で俺の足を止め、鷲尾が撹乱して隙を作り、
藤原か近藤がフィニッシャーってこと・・・とっくに気付いてんだよ!
ザコでは越えられない“選ばれし者”の壁を見せ付けてやる!
富醒・イメージ!アポロン!!」
智人を中心に、眩しい半球の高エネルギー体が放出され、地面を捲り上げながら全方位に向かって広がる!
「マズい!浩二、退けっ!」
「ぬぉぉっ!」
智人に最も接近をしていた近藤くんが光の球体に飲み込まれた!
「わぁっ!」
「くっ!」
智人から20mくらい離れていた僕と、退避をした藤原くんが、土砂と一緒になって弾き飛ばされる!
「尊人くんっ!ふーみんっ!・・・きゃぁぁっっ!」
僕達のフォローに駆け付けようとした真田さんと鷲尾くんが衝撃波に押し戻され、30m以上離れていた土方さんが体勢を崩して尻餅をつき、光の半球は効力を失って消えた。
「藤原くんっ!真田さんっ!みんなっ!」
地面に墜落した痛みはあるけど、大きなダメージは無い。起き上がった僕は、周囲を見廻して仲間達の安否を確かめる。
真田さんと藤原くんは、僕と同様に弾き飛ばされただけなので無事。直ぐに立ち上がった。
爆心地で直撃を受けてしまった近藤くんは、全身火傷のような状態で倒れている。胸が動いているので息はありそうだけど、大ダメージで動けないようだ。
「きゃぁぁっっ!!」
悲鳴がした方を見て青ざめた。大柄で太マッチョな男子が、土方さんの右腕を掴んで持ち上げていたのだ。白騎士の鎧とマントをつけているが、隣のクラスの脇坂くんだ。
脇坂脇太郞。隣のクラス。学年で一番背が高く、横幅も大きい。藤原グループを目の敵にしている。勉強は苦手で、この世界に転移をした当日は追試を受けていた。
全く話したことが無いのでどんな性格か解らないけど、威圧的な見た目でメッチャ恐い。
「富醒発動!グリップストレングス!!」
「いやぁっっ!痛いっっっっ!!」
土方さんの悲鳴と同時に、骨が砕ける生々しい音が響き渡った!
「このっ!離してっっ!!」
土方さんは苦し紛れに、左腕を回して火の玉を発しようとしたが、その前に左手首を掴まれて怪力で砕かれてしまう!
「うわぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!」
「腕をもぎ取らなかっただけでもありがたく思え」
これで土方さんは特殊能力を封じられてしまった。
「ぎゃぁぁっっ!!」
今度は鷲尾くんの悲鳴が聞こえたので視線を向けたら、背の高い女子=隣のクラスの我田さんが、サーベルで鷲尾くんの太股を貫いていた!脇坂くんと同様に白騎士の鎧とマントを付けている。白騎士団に混ざっていたので、存在に気付かなかった。
我田我歌。隣のクラス。背が高くてロングヘア。勉強は苦手で、この世界に転移をした当日は追試を受けていた。
去年は同じクラスだったけど、話す機会は無し。目つきが悪くて怖い人ってイメージしか無い。
「フィニッシャーの1人(近藤)は戦線離脱。
スターター(土方)は火の玉を封じられ、
バンガード(鷲尾)は自慢の足に深手を負って、もう走れない。
これで、君達の勝ち筋は消滅したな」
智人が、勝ち誇った笑顔で藤原くんを見下す。
グリップストレングス
使用者:脇坂脇太郞
強力な握力を発揮して、触れた物全てを握り潰す。




