25-5・開戦
離れたところで、非戦闘要員の吉見くんと沼田さんと安藤さんが見守っている。
「吉見くん、ブラークさんを安全なところまで連れて行ってもらっていい?」
動けないブラークさんが巻き添えになってしまうから、吉見くんに頼んで安全圏に連れて行ってもらうことにした。
「尊人、早璃、オマエ等も退避をして良いんだぞ!」
「トロールをやっつけたあたしを、ザコ扱いすんな!」
藤原くんが戦線離脱を進めてくれたけど、真田さんは即座に拒否をする。
「僕だって・・・
1回は瀕死になっても大丈夫なんだから僕にできる戦いをする!」
真田さんと藤原くんと近藤くんと土方さんと鷲尾くん、そして僕は沼田さんのヒールの恩恵を受けているから、即死以外は体力とダメージの全回復がしてもらえる。
「見ているだけなんて嫌なんだ」
何よりも、智人と櫻花ちゃんのことを他人任せにはしたくない。仲間達のおかげで少しは変われた僕を、トモに見せ付けたい。守られてばっかりじゃなくなった僕を、おーちゃんに見てほしい。
「だったら割り切れ。戦いの中で迷ったら何も手に入らないからな」
「うん」
「隙を見て、織田達を連れ出せ」
「うん」
目的は智人を倒すことではない。櫻花ちゃん達を連れ帰ること。だけど、トモが妨害をしてくるなら戦闘は避けられない。それが藤原くんの思考だ。
「尊人・・・君も藤原の舎弟になっちゃったのかよ。
遠藤や加藤と同レベルのザコだったってことか。・・・俺は悲しいぞ」
智人に言われたくない。トモは僕を一人前と認めず、真田さんをオマケ扱いや邪魔者扱いして、櫻花ちゃんを物扱いしている。
「ザコにだって意地はあるんだからね」
「だったら、見せてもらおうか」
智人が右手を僕と藤原くんに、左手を近藤くんに向けて伸ばし、掌を広げる!
「富醒・イメージ!カグツチ!!」
智人の攻撃が、戦いの火蓋を切った!
「火柱が来るっ!」
「後退しろっ!」
火柱が上がったけど、素早く後ろに下がって回避!「カグツチ」は以前に見たから知っている。地震を起こす「ゲブ」、剣を降らせる「ヘパイストス」、地面を液状化させる「アスフォデルス」は、仲間達に伝えてある。
「富醒!ファイヤーウインドミル!」
土方さんが智人に向かって無数の火の玉を飛ばす!
「富醒・イメージ!ガイア!!」
智人の周りの土が迫り上がって火の玉を防いだ!この防御方法も仲間達には伝えてある!
鷲尾くんが土壁の無い方向に廻り込んだ!
「富醒・イメージ!カグツチ!!」
「富醒!アジリティ!」
火柱が鷲尾くんを飲み込むが、それは残像だった!3人に分身をした鷲尾くんが智人に突撃をする!
「富醒・イメージ!ゼウス!!」
智人が天に向けて人差し指を向けると、3人の鷲尾くん目掛けて空から雷が落ちた!2人の分身は消え、本人はバックステップで辛うじて回避するものの、地面に雷が墜ちた衝撃波で弾き飛ばされ、地面を転がる!
「富醒・イメージ!ゲブ!!」
「地震が来るっ!トモの正面から逃げてっ!」
智人が拳で地面を叩くと、トモの正面に地割れが発生して、鷲尾くんに向かって広がっていく!
「うおぉぉぉっっ!!」
近藤くんが智人の背後から突進!接近に気付いた智人は、地震を中断して、火柱を発生させて近藤くんの接近を止める!
地割れが消えたため、倒れていた鷲尾くんは飲み込まれずに済んだ。
「織田さんに良いところを見せられずに、いきなり脱落するかと焦った。
フォロー、サンキューな、近藤!」
鷲尾くんの感謝に、近藤くんは軽く手を振って応えた。
智人の攻撃は全てが一撃必殺。足を止めたまま狙い撃ちをされれば、ほぼ間違いなく脱落をさせられるだろう。だから、波状攻撃を仕掛けて、一方向に集中させない作戦だ。
「カグヅチ、ゼウス、ゲブ・・・全て回避。大したもんだな。
・・・と言ってほしいんだろうけど、君達、全然解ってないな。
周りを見てみろよ」
智人に言われて周囲を見廻す。周りにいる真田さん&藤原くん&近藤くん&土方さん&鷲尾くん、西側にいる櫻花ちゃんと寺坂さんと蓮田先生、東側で離れて見守っている吉見くんと沼田さんと安藤さん、安全圏に運ばれたブラークさん、全員が無事だ。・・・だけど
「・・・あっ!」
藤原くんの特殊能力で支配されて智人を囲んでいた白騎士達が全滅をしていた。
「本命は、邪魔な奴等を全排除すること。君達への攻撃は“ついで”だ」
「仲間達を真っ先に・・・?」
「さっきも言っただろ。
俺を裏切ったカス共は目障りだから真っ先に処分したんだよ。
俺を裏切った君も同罪だからな。覚悟をしておけよ」
「フン!相変わらずのチートクオリティーだな」
智人が警告と威嚇をするが、藤原くんは鼻で笑う。
「誰も倒せなかった言い訳はそれでいいか?」
「なにっ!?」
「鷲尾を含めて野郎の数人は消すつもりだったが、
思い通りにはならなかったんだろ?
土方に対して、攻撃意思を見せなかったのは、
生かしてオマエのコレクションにでも加えるつもりだったのか?」
「何を根拠にっ!」
「オメーの引き攣った表情だよ!
都合の良い言い訳ばかり並べて、ミスを認めず、失敗から学ぼうとしないから、
何も成長できねーんだ!
失敗だらけの中で無様に藻掻いている奴と価値観が合うわけがない!
つまり、尊人とは“お友達”にはなれないってことだ!」
「ふーみんっ!なんでこの状況で尊人くんをディスってんのっ!」
「褒めてるんだよ!」
真田さんが文句を言って、藤原くんが否定をする。だけど、今のは僕にも「褒めてもらってる」ようには聞こえなかった。
まぁ、僕をバカにしたいわけじゃなくて、僕を引き合いに出して意図的に智人の神経を逆撫でしているのだけは把握できる。
智人は口が達者だけど、藤原くんには勝てない。1年生の時に、トモの取り繕う言葉が全く相手にされず、藤原くんにそっぽを向かれた理由が解ったような気がした。




