25-4・決裂
今の僕は誰が好きなんだろう?櫻花ちゃんとゆっくり話をできれば、誰が傍にいてくれると楽しくて、僕らしく頑張れるのか、解るような気がする。
「やっぱり智人の所にいたんだね」
「ああ、戦場に駆り出されていた彼女を、俺が保護をしてやった」
安心をした反面、櫻花ちゃんが目を合わせてくれないことに違和感がある。普通なら、クラスメイトに会えれば嬉しいんじゃないの?僕じゃ役不足でガッカリしたってこと?
「おーちゃん!」
おーちゃんに駆け寄ろうとするんだけど、トモが手を広げて「通せんぼ」の仕草をする。
「なんで?」
「俺は、必ず織田を見付け出して君に提供するって言ったぞ。
だが、君は聞かずに去った」
「提供ってなに?」
確かに、智人のところに残っていれば、おーちゃんとは別の形で会えていた。でも、それがなんだって言うの?おーちゃんは物じゃない。おーちゃんには意志がある。トモが「どうぞ」と言って、僕が貰うなんてありえない。
「鈍い奴だな。全部言わせて、織田に恥をかかせる気か?」
「・・・恥?」
「織田は俺に身を委ねた」
「・・・え?」
「俺と織田は、そう言う関係になったんだ」
目の前が真っ暗になるような錯覚がする。年相応程度の知識はあるから解る。想像したくは無いけど、「おーちゃんが誰かを好きになって、いつかは・・・」ってこと。その資格は欲しいけど、心のどこかでは「もう追い付けない」と諦めていること。
「・・・トモが?」
「学園のアイドル様も、一皮剥けば、ただの女ってことさ」
なんでだろう?智人のことは良い友達って認めてるのに、おーちゃんの相手がトモって考えたら、納得できない気持ちが込み上げてきた。内心では、相手がトモだったら負けない」って思ってたってこと?
自分の感情の置き所が解らなくて、おーちゃんを見ることができない。
「君がいれば遠慮をして君に提供したかったんだがな。
俺から離れた君が悪いってことだ」
ただ、ハッキリしていることは、おーちゃんは物じゃない。
おーちゃんと関係を持ったことを「僕の所為」みたいに言うトモに腹が立つ。
「最終警告だ。藤原達と手を切って戻ってくれば、織田はくれてやる。
まぁ・・・もう“新品”じゃないけどな」
握った拳に力が籠もる。おーちゃんに好きな人がいるなら、どうにか気持ちに整理を付けたい。だけど、それは「物扱い」をするトモではない。
「わぁぁっっ!」
「なにっ?」
僕はワケが解らなくなって、トモを殴っていた。トモは2~3歩後退をする。
「おーちゃんは連れていくっ!トモには任せられない!」
おーちゃんは藤原組に参加してもらう。トモの仲間になれば「くれる」って言われてるのに、仲間になることは拒否して「連れ帰る」つもりなんだから、僕の本性は、もの凄くワガママなんだろうな。
「あっそう・・・なら、ここまでだ。
富醒・イメージ!ウリエル!!」
僕の真上に巨大な火の玉が出現する!僕を殺すつもり!?
「トモっ!?」
「先に手を出したのは君だ。
親友すら過去の思い出にして葬る。
これも、勇者に昇華する為の試練と言うことか」
智人が手を振り下ろすと同時に、火の玉が落ちてきた!拙い!急展開すぎて避けられない!
「よく言ったな、尊人!ちっとは男らしくなったんじゃねーのか!?」
「えっ!?」
後ろ襟を掴まれて、力任せに引っ張られる!
「テメー(チート)まで焼かれる技を撃つわけが無ーからな。
このくらい退かしておけば、大丈夫だろう」
直後に、目の前に火の玉が落ちて、地面を抉った!
「確かに先に手を出したのは尊人だが、先に殺そうとしたのはチートだ。
俺等がオマエに同じことをしても文句は言えねーよな」
青ざめながら振り返ったら、後に藤原くんが立っている。
「やっと、おうかっちに会えたね!」
真田さんが隣に立って構える。
「おーちゃんは連れ帰るよ!」
「もちろん、寺坂と蓮田もな」
「学園のアイドルに良いとこ見せるチャンスだ!」
土方さん&近藤くん&鷲尾くんが両翼に並ぶ。白騎士の軍団は藤原くんの特殊能力で共倒れをして、みんなが防衛戦を突破したのだ。
最後に、ルーラーの干渉下にある白騎士達が駆け付けてきてトモを囲む。
「ここから先は俺等に任せろ!」
藤原くんが前に出てトモを睨み付ける。
「藤原っ!」
「変わってねーな、チート!
そんなんじゃ、唯一の親友からも置いて行かれて、ぼっちになるぞ!」
「俺をスクールカーストの下層に落としたカスがそれを言うかっ!?」
「意図的に落としたつもりは無いが、縁を切った結果、オマエは底辺に落ちた。
元々、その程度の中身しか無かったってことだろ?」
「君の自己満足な言い訳を聞く気なんて無い!」
「俺だって、ツベコベと言い訳をする気は無ーよ!
だがな『親友』と思っている奴の言葉にすら耳を傾けないオマエは、
もう終わってんぜ。
そんなんだから、なんも変われねーんだよ」
「俺は何も変えることなく、最高の力を手に入れた!変わる必要は無い!」
「なんの努力もせずに、たまたま転がり込んできた力な」
「潜在されていた才能だ!」
「だったら、その『素晴らしい才能』とやらを、現実世界で発揮してみろよ!」
「リアルワールドなんて下らない!
俺は、モーソーワールドで正当な地位を得たんだからな!」
「自分以下だらけの、どうでも良い世界で得た地位な。
オマエのやってんのは、高校生が小学校でイキってんのと同レベルなんだよ。
イキリたきゃ、同レベルと争って、頭1つ抜けてイキれってんだ!」
トモが可哀想になるくらい、藤原くんの言葉は容赦が無い。だけど、説得力はある。藤原くんのキツい諫言に必死で付いていった結果、少なからず自分に自信が持てるようになったから解る。
「確認する必要も無さそうだが、一応、聞いておく。
『現実世界に帰る』か『この下らねー世界に残る』か、オマエはどっちを選ぶ」
「言うまでも無く『下らないリアル』を捨てて『モーソーワールドに残る』だ!」
「だろうな。・・・これで決まった。
チートから織田と寺坂と蓮田を解放する!」
望んでいた展開じゃない。もっと平和的に進めたかった。だけど、トモが何一つ受け入れてくれないなら、実力行使をするしかない。




