25-3・親友との対峙
「トモっ!ブラークさんっ!」
支配された白騎士達が、防衛線を突き破りってトモとブラークさんが対峙する戦場に雪崩れ込んだ!
間に合ったと思った。トモとブラークさんの間に割って入れると思った。
・・・だけど
「ガハァッ!」
智人が発動した雷を凌ぎきれなくなったブラークさんが、弾かれて宙に飛び、地面に墜落をする。
「富醒・イメージ!ヘパイストス!!」
「えっ!?」
トモの頭上に出現した無数の剣が、ブラークさんの方向と、僕に向かって飛んで来た!
「ひぃっっ!」
慌てて小さくしゃがみ、鉄のシールドを正面に翳して身を隠す(直径50~60㎝くらいの丸盾じゃ隠れられないけど)!
幾つもの悲鳴が聞こえて、血飛沫が飛ぶ。僕は、「死ななければマシ」と、ダメージを喰らう覚悟をしていた。だけど、僕には剣が一発も当たることはなくやがて悲鳴が止む。
「・・・助かった?」
恐る恐る盾の外に顔を出す。僕の周りにいた白騎士さん達は全員串刺しになって倒れていた。10mほど先で、ブラークさんも倒れている。
「ブラークさんっ!」
僕の盾になった白騎士さん達には申し訳ないけど、ブラークさんが優先。駆け寄って両膝を降ろし、体に触れて声を掛ける。
「・・・うぅぅっ」
良かった。肩と腕と太股から血が滲んでいるけど、まだ生きてる。さすがはブラークさんと言うべきか、致命傷を受けないように剣で防いだっぽい。
だけど、消耗してしまって、もう戦えそうにない。この勝負は、智人の勝ちだ。
「・・・ぐぅぅっ。愚か者・・・何故、来た?」
「ブラークさんを死なせないためです」
ブラークさんを庇うようにして、智人の正面に立つ。智人が恐い目で僕を睨み付けた。
「退けよ、尊人」
「退かない。もう決着は付いたでしょ」
「おいおい、久しぶりに会って、いきなり喧嘩腰かよ?
君には腹を立てているけどさ、俺は君と争う気は無いんだぞ」
「僕だって、智人と争う気は無いよ」
「なら退けよ。そいつを倒して、勇者の名は俺がいただくんだ」
「・・・勇者?」
「そいつは“北の勇者様”とかって大層な看板を掲げているイキリ野郎だ」
初耳だ。確認するためにブラークさんをガン見をしたら、ブラークさんは「昔のこと」と言いながら眼を逸らした。
「前々から邪魔だと思っていたから、挑発して誘き出した。
北の勇者は西の英雄に倒され、新たな時代になるんだ」
「・・・新たな時代?」
「勇者は2人も要らない。俺が勇者の称号を手に入れるってことだ」
「トモが勇者?」
勇者なんて称号、ゲームやアニメでしか聞いたことが無い。智人がそれになる?
「解ったら退け」
「嫌だ、退かない!
トモが言ってること、全く解らない!ブラークさんを失うわけにはいかない!」
「散々助けてやった俺よりも、そいつを選ぶってのか?」
「僕は、そんな極端な話はしていないよっ!
2人とも失いたくないっ!トモと話がしたい!・・・でも」
智人の特殊能力で息絶えた白騎士団の亡骸を見ていると、とてもじゃないけど平和的に会話をする気にはなれない。
「みんな、トモの仲間なんでしょ?なのに、なんで?」
「おいおい、アイツ等を盾にした君がソレを言うか?」
「そ、そうなんだけど・・・」
「まぁ、ハナっから君には刺さらないように調整したんだけどな」
「・・・え?どういうこと?」
「部外者だけを処分したってことさ。
まぁ、約一名は、しぶとく生き残りやがったけどな」
智人は意図的に仲間だけを殺害した?
「俺を裏切って牙を剥いたカス共を仕方無く処分した。
道理には反してないだろ?」
「だからって・・・あれは酷いよ」
「俺に歯向かえば容赦はしない。例え君でも例外ではない。
ゴチャゴチャ言わないで、俺に背いて出奔したことを謝罪しろ。
俺と君の仲だ。二度と反発しないと約束すれば許してやる。
俺は心が広いからな」
現実世界にいた頃は、智人は優しくて器が大きいと思っていた。だけど、今の「自分の価値観」ばかりを押しつけて、「何でも思い通りになる」と考えているトモの「心が広い」とは思えない。
「君みたいな穏やかな人間は、あんな下らない奴らと連むべきではない。
アイツ等(藤原達)と手を切って戻って来いよ」
なんでだろう?僕を評価してくれる智人よりも、キツいことばかり言う藤原くんの方が「心が広い」と感じる。藤原くんや真田さんと一緒の方が居心地が良いように思える。
「みんなと仲良くしてくれるなら、謝っても良い。
だけど、藤原くん達と手を切る気は無いよ」
「またそうやって、選択ミスをするんだ?
いるよな。人生の二択で間違った方ばかり選ぶ奴ってさ」
「間違っていたとしても・・・後悔はしない選択だと思っている」
「あっそう。なら、早速後悔してもらおうか。
せっかく君の為に最高のプレゼントを用意してやったのに、無駄になったな」
智人が馬車とテントがある方向に振り返って、テント前で待機をしていた3人の白騎士に手を上げて合図をする。
「ホワイ、姫君達の出番だ」
「はいっ!」
白騎士(ホワイって呼ばれた人)が、テントの中にいた人達を連れ出す。
「チート様の命令だ!さっさと出ろ!」
「自分で出るから引っ張るなっ!」
最初に出てきた大人の女性と、次に出てきた同世代の女の子、ドレスを着ているから少し雰囲気が違うけど、どちらも知っている人だ。
「・・・蓮田先生・・・寺坂さん」
蓮田怜香。隣のクラスの担任。国語の先生。二十代後半(興味が無いので正確な年齢は解らない)。力石先生ほどじゃないけど、ちょっと怖い。
寺坂照代。出席番号19番。ボブカットで、いつもモノトーンのヘアバンドをしている(派手なヘアバンドをすると力石先生に怒られる)。クラスでは、イケてる女子グループに所属(織田櫻花や土方仁美と仲が良い)している。
・・・そして、
最後に引っ張りされた女子は、どんな格好をしていても見間違うわけがない。
「・・・櫻花ちゃん」
胸のところが開いた綺麗なドレスを着ている。そんな露出した格好、おーちゃんには似合わない。
「・・・尊人」
僕の存在に気付いたおーちゃんは、伏せ目気味に目を逸らした。
智人を挟んだ向こう側。僕から100mくらい離れたところに、僕が一番会いたかった人が立っている。
ブラークは智人の後に櫻花達がいることに気付き、巻き込まない為に高火力の攻撃ができなかった。その為、接近戦に拘り、接近ができなかったことでジリ貧となって敗北した。様々な視点で描けるならジックリと描きたかったけど、尊人視点では描けず、単に「智人が強かった」って展開になってしまう。
尊人が、以前は「智人は器は広い」と思っていたのに今は「智人の心は狭い」と感じるのは、智人が変化をしたからではなく、尊人の視野が広がって価値観が変わってきたから。智人は、現実世界に居た頃からそれほど変わっていない。




