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24-4・ブラークさんを妨害

 早めの朝食をシッカリと食べて、西宿場ミドオチスを発つ。馬の乗り合わせは昨日と同じ。真田さんが「僕と沼田さんを入れ替える(僕が真田さんの後)か?」と提案してきたけど、それは格好悪いので断って、藤原くんの馬に乗せてもらった。


「ねぇ、藤原くん」


 馬の手綱を握っている藤原くんの背中に声を掛ける。


智人トモと会ったら、最初は僕に話をさせてもらって良いかな?」

「ん?急にどうした?」

「まだ、昨日の宿題の答えは出ていないんだけどさ、

 トモとちゃんと向き合ってみたいの」

「そうか。だったら、やってみろ。

 チートが話を聞く可能性がある奴なんて、

 転移者では尊人くらいしかいないだろうからな。

 ただし、奴が一切聞く耳を持たない状況なら、容赦無く割って入るからな」

「聞く耳を持たないって?」

「調子に乗りすぎていれば、アイツは誰の意見も聞かない。

 苦言なんて、全て敵意で返す。・・・俺の勘はそう言ってんだ」


 割って入ってどうするつもりだろうか?聞き返そうとしたら、一番後で馬を駆っていた真田さんが叫び声をあげた。


「尊人くんっ!ブラークさんが来たっ!」

「えっ!?」


 振り返ったら、ブラークさんが馬を駆って、後方から猛スピードで突っ走ってくるのが見える。

 僕を・・・いや、安藤さんを追ってきた?そんなはずは無い。安藤さんは、直ぐに火事場から遠ざかったし、安藤さんが智人トモの関係者ってことは、僕達しか知らないはず。


「ブラークさんっ!」


 ブラークさんは僕を認識したものの、恐い表情のまま、呼び止める声を聞かずに追い越していった。目的地は西都市セイってことになるのだろうか?


「藤原くんっ!ブラークさんを追ってっ!」

「はぁ?急に何だ!?」

「止めなきゃっ!智人トモが危ないっ!」

「なんだか、ややこしいことになってきたみてーだな!」


 藤原くんが手綱で馬を叩いて速度を上げる。こっちは2人乗りだけど、ブラークさんの騎馬は鎧を着けているから同じくらい重い。ずっと走らせ続けていた為、ブラークさんの馬の方が疲れている。藤原くんの駆る馬が徐々に追い付く。


「追いかけてどうする気だ?

 まさか、このまま西都市セイまで突っ走る気じゃねーだろうな?」

「横に並んでっ!」

「声を掛けて止められるような状況じゃねーだろ!」


 藤原くんは、文句を言いながら要求に応じてくれた。僕等とブラークさんが並走をする。


「ブラークさんっ!何をする気ですか?止まって!」

「ミコトっ!オマエには関係無いっ!」

「関係あります!智人トモと争う気ですよね?」 

「関与するな!邪魔をするならば、いくらオマエでも容赦はできない!」


 やはり、智人トモと争うつもり・・・いや、多分、トモを殺すつもりだ。そう考えた次の瞬間には、僕は自分でも予想できない行動をしていた。


「おい、尊人っ!正気かっ!」

「尊人くんっ!無茶だってっ!」


 時々キレて自分にも理解できない行動をしちゃうのは、心のキャパが狭いからかな?藤原くんと真田さんの止める声が聞こえた時には、僕は馬の背を蹴って並走するブラークさんに飛び付いていた!


「なにっ!」


 想定をしてなかったブラークさんは、僕と絡みながら落馬をする。ブラークさんがクッションになったので、僕には大きなダメージは無い。さすがは騎士様と言うべきか、ちゃんと受け身を取ったので、ブラークさんにもダメージは無いっぽい。

 先ずは、藤原くんが手綱を思いきり引いて馬を止めた。


「オマエはアホか?『正面からぶつかる』ってのはそう言う意味じゃねーんだぞ」


 搭乗者を失ったブラークさんの馬が惰性で数十mくらい駆けてから止まり、後方から来た真田さんや土方さんが、転がっている僕等の手前で馬を止めた。


「・・・くっ!どういうつもりだっ!」


 上半身を起こしたブラークさんに怒鳴りつけられる。目を大きく見開いて、怒ってると同時に驚いている様子だ。でも、ブラークさんより僕の方が驚いている。まさか、こんな豪快な手段でブラークさんを止めるとは思っていなかった。


「『どういうつもり』たって・・・邪魔をするつもりです」


 我ながら「ムチャをした」とは思っているけど、後悔は無い。ブラークさんが智人トモと話し合いをするつもりならいいんだけど、殺そうとしてるなら意地でも止める。 


「本気なのか!?」 


 ブラークさんが僕を払い除けて立ち上がって恐い顔で睨む。気圧されそうになるけど負けてられない。


「ブラークさんが智人トモと戦うつもりならっ!」

「愚かなっ!」

「言われなくても解っています!

 ブラークさんが怒る理由だって解ります。

 でも、ブラークさんがホーマンさんの暗殺を手引きしたのが原因ですよね」


 僕はブラークさんから視線を逸らさずに立ち上がる。


北都市ノスの公爵の死因・・・トモが指示をしたって証拠はあるんですか?

 もしあったとしても、これでお相子なのに、

 トモを目の敵にするのは違うんじゃないですか?」


 トモから危険を遠ざけたい。安藤さんを重要参考人から外したい。その一心でブラークさんに意見を言う。


「オマエには、この世界の中枢の権力闘争なの無縁だと思っていたのだがな。

 そこまで言うのならば教えてやろう」


 ブラークさんの顔は厳しいままなんだけど、少しだけ優しくなった。僕が信頼をするブラークさんの表情だ。


「帝都の帝皇政権を中心とした内地には、ハメツ教とゴツゴー教がある」

「前に智人トモに教えてもらいました。

 ホーマン公が信仰するゴツゴー主義と、

 ゴククア公が信仰するハメツ主義があって、

 ゴククア公はハメツ教で帝国を塗り替えたいと考えているんですよね?」 


 ゴツゴー主義は、あるがままの自然体で生き、発生したことは都合が良い方向で受け止める考え方。ハメツ主義は、外地への武力遠征を強行する考え方。どっちの思想も頼り無いけど、保守的なゴツゴー主義の方が「まだマシ」と感じられる。


「それは、西都市セイ側の一方的な見解だ。

 ゴツゴー主義は視野を内地側に向けた思想。必然的に権力の内部に意識が向く」


 秘境者の介入前は、まだ大きな火種は無かった。だが、均衡が崩れたことで、内部での権力闘争が始まる。


「同族同士の争いを認めず、視野を外部に向ける教えがハメツ教なのだ」


 直接的な武力衝突ではなく、外地から持ち帰った成果で国力を上げ、その功労で権威の順列を決める。だから、北都市ノス東都市アーズマは、秘境者狩りに躍起になっている。


「ゴツゴー主義に特殊な武力を渡さないためにな」


 しかし、極端に攻撃力が高く、且つ、その力を隠そうともしない秘境者が、西都市セイに与して、パワーバランスが大きく傾いた。ホーマン公は、帝皇をカイーライ・アングを傀儡として操るどころか、追い落として自分の帝国を作ることを画策するようになる。


「モーソーワールドを揺るがす思想には、

 ホーマン公の盟友であるヒョリミー公も付いていけなくなり、

 我が主の元に『ホーマン公排除』の相談を持ち掛けてきた」


 オポチュニ・ヒョリミー公爵とは、南都市サウザンの領主であり、ホーマンさんと同じゴツゴー主義者。同盟者が西都市セイを見限ったのだ。


「更には、ホーマン公の側近達も、かなりの不満を持っていたようだ。

 ホーマン公が西の英雄チートばかりを頼りにして、

 後継ぎに据えようとしていたからな」


 前にブラークさんが言った「ホーマンさんを暗殺が可能な絶好のタイミングを内通した者がいた」に繋がってきた。


「・・・僕が聞いていたのと全然違う」


 ホーマン公の暗殺後は、ホーマン側近が「事勿れ」で体裁を整えて騒動は終わるはずだった。その確約は整っていた。しかし、最初のゴククア公暗殺未遂で対応が遅れ、且つ、想像をしていた以上に智人チート西都市セイの権力を掌握しており、新体制の一手を打つ前に北都市ノスが侵攻をされた。そして、北都市ノス西都市セイに怨恨が発生して、修復の難易度が極端に上がってしまった。


「それでも、有能な指導者がいれば、体制は落ち着くと思っていた。

 だが、ゴククア公が失われた今、もはやそれも叶わない」


 南都市サウザンのオポチュニ・ヒョリミー公爵と、東都市アーズマのノーキン・クレジー公爵には混乱を治める求心力は無い。

 このままでは、間隙を突いて西都市セイ勢力が急拡大をしてしまう。


「恨みが無いと言えば嘘になるが、

 俺は恨み1つで西の英雄を討とうとしているわけではない。

 モーソーワールドの大義のためには、

 西の英雄がこれ以上の力を行使する前に排除せねばならぬのだ」

「トモは僕の親友なんです!」

「それは知っている。だが、奴はやりすぎた。

 もはや引き返せぬほどに、モーソーワールドに浸かってしまった」

「それは、トモなりに、この世界で生きるために・・・」

「器に合わぬ攻撃力を持ってつけ上がり、実力と誤解をしてその力に溺れ、

 情勢をロクに知らぬまま、自分の都合の良いように解釈をする。

 オマエにも、その危険性は解るだろう!

 もう、放置をできる段階ではないのだ!」


 正論すぎる。僕自身、トモの危うさには気付いているから反論が難しい。

 

「だからって、いきなり討伐は乱暴すぎます!先ずは話し合いを・・・」

「軍事侵攻をしてきたセイに対して、ノスは僅かな手勢で話し合いを望んだ。

 だが、それを一方的に葬ったのが西の英雄だ。

 そんな奴と、どう平和的に話し合いをすれば良いのだ?」


 拙い。このまま引き下がったら、智人トモの討伐を認めてしまうことになる。そんなの、できるわけがない。


「だとしても・・・僕はブラークさんの邪魔をします」


 反論にすらなっていない反論を蚊の泣くような声で搾り出す。それが、僕にできる精一杯だった。


「そうか・・・残念だ。ならば、力で示せ」


 ブラークさんが抜刀をして構える。



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