14-5・さよならセイの町
浅い眠りを何度も繰り返して朝になった。部屋から出たら、既に身支度を終えた真田さんが、壁に寄りかかって待っている。
「遅いっ!」
「・・・ごめん」
いつも朝食の時は、もっとラフな格好のはず。朝食が終わってから部屋に戻って支度を調える。だけど、真田さんは女神の胸当てまで装備していた。
「もう食べちゃったの?早いね」
今日は冒険者ギルドには行かない。僕は町を出る。その話をしなきゃなんだけど、どう説明すれば納得をしてもらえるだろうか?
「尊人くんが寝てるうちに、ホーマン家にはお別れの挨拶してきたよ」
「・・・ん?」
「安藤も誘ったんだけどさ、お屋敷で居候生活するってさ。
お気楽な感じが、あんちゃんらしいよね」
「なんの話?」
真田さんが言ってることが良く解らない。
「帝都テーレベール?南西村?どっちに行く?
それとも、北西村と北都市を経由して、
北東村に戻る?
ノスだと秘境者狩りがあるかもしれないから、
ペイイスに行くとしても帝都経由になっちゃうのかな?
あたし達の手配書とか回ってるのかな?
写真は無いから、時代劇みたいな人相書き?
ノスの町のあちこちに貼ってあるパターン?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「もうっ!じれったいなぁ~~~!
この町から出るんでしょ!?ぜーんぶ知ってんだからっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
寝惚けていた脳が、ようやく覚醒してきた。
「あの・・・真田さん。もしかして昨日の口喧嘩、聞いていたの?」
「・・・ゴメン。全部聞こえたわけじゃないけどね。
アレだけ大きな声で言い合いしてれば聞こえちゃうよ」
何を聞かれた?昨日の会話内容を必死になって思い出す。ヤバい。櫻花ちゃんの話題を聞かれた?僕が櫻花ちゃんを好きなのがバレたかも。
「あ・・・あの・・・いったいどんな会話が聞こえて・・・・?」
「バクニーさんからの伝言、『またこの町に来ることが有ったら遊びに来い』。
シリーガルさんからの伝言、『ご武運を』。
あんちゃんからの伝言、『バーカ』と『死ぬな』。
メッチャあたしを睨んでた徳川くんからの伝言、『泣いて土下座したら許す』。
徳川くんから無視されまくりで、やっと伝言もらったんだから感謝してよね」
「う・・・うん・・・・ありがとう。
『泣いて土下座』しないで済むように頑張らなきゃね」
「それからね・・・ありがと」
真田さんが可愛らしく微笑む。
「ん?今のは誰からの伝言?」
「ヒミツ」
「ホーマン夫人?執事さん?僕なんか感謝されるようなことしたっけ?」
「・・・気付けよ、超鈍感男っ!
ほら、早く行くよっ!さっさと準備してきてっ!」
「ああ・・・うん、でも朝食は?」
「強行軍になるんだからノンビリ食べてる時間なんて有るわけ無いでしょ!
あたしが何の為に早朝から挨拶回りしてきたか解ってないの!?」
やっぱりパーティーのパワーバランスは「僕<真田さん」。リーダーは真田さんらしい。
「そ、そうだね」
「ボウィンさんからパンもらったから、歩きながら食べよっ!」
「うん」
部屋に戻ってレザーアーマーを装着して、先生の剣と革の盾を背負い、小さい斧を腰布の挟んで、忘れ物が無いか確認してから、道具袋を持って宿を出る。
「どこに行くの?」
「真田さんはどこに行きたい?」
「現実世界。・・・もちろんみんなで一緒にね」
「それは僕も同じ。その為に、先ずはどこに行きたい?」
「尊人くんに任せる」
「だったら、帝都に行ってみよっか?
そこからなら、どの町やどの村でも、道一本で行けるからさ」
「うん、なら帝都テーレベールに行こう!」
街道と町を隔てる大門のところまで来て振り返り、頭を下げて西都市に別れを告げた。
「智人・・・これで絶縁をするつもりは無いからね。
僕は、仲間を集めて『帰る』を多数派にして、みんなで現実世界に帰りたい。
もちろんトモも一緒だよ。
現実世界には、辛いことがいっぱい有るけど、楽しいこともいっぱい有る。
だから助け合っていこうよ。僕達は友達なんだからさ」
チーム真田(?)の向かう先は、帝都テーレベール。その地に明確な目的があるわけではないけど、この世界で一番大きな町なんだから、仲間達の何人かは居ることを期待している。




