24-3・トモと藤原くん
夕食は、4人掛けと6人掛けテーブルに分かれた。僕は藤原くんに呼ばれて、同じ4人掛けの席へ。近藤くんと、「僕がお酒を飲まされるのでは?」と心配してくれた真田さんが同席をして、僕等のテーブルは定員になった。
「お子ちゃまに酒を強要する気はねーよ!
尊人、オマエを呼んだ理由、解るよな?」
「うん、藤原くんとトモのこと・・・でしょ」
「話すのか?」
「ああ」
近藤くんの質問に対して、藤原くんが肯定をする。
「言い訳がましいのは好きじゃないが、
話さなきゃコイツは納得しないだろうからな」
僕は、以前から「1年生の時に、藤原くんが智人を虐めていた」と予想している。
「千幸高校に入学したばっかの頃な、
同じクラスになって最初に寄って来たのがチートだった。
妙に馴れ馴れしくて、やたらと中学時代の武勇伝を自慢してきて、
ちょっとウザいとは思ったんだけどな、
俺は『そんな奴もいる』程度に考えて、特に気にしねーで友達をしていた」
高1の夏休み明けくらいになると、藤原くんの周りの雰囲気が変化をしてきた。同学年の腕力自慢や、いかつい先輩から絡まれるようになる。
「まぁ、俺のこの見た目だし、ツレが浩二なんだから、
ある程度、眼を付けられるのは仕方ねーと思っていた。
面倒クセーのに絡まれるのは、中学の時から慣れていたしな」
もちろん、全部返り討ちにした。複数人に喧嘩を売られた時は、近藤くんの手を借りた。これらの経緯があって、千幸高校での藤原くんの知名度が上がる。僕が「同学年にヤバい人がいる」と知ったのは、この時期だ。
「俺はスクールカーストのトップなんて興味は無い。
高校生活を楽しめればそれで良かった」
高校生活を楽しむために「ヤバい人には絡まない」「絡まれても笑って誤魔化す」ではなく、「絡んできたヤバい人は全て叩き潰す」が、僕と藤原くんの価値観の違いなのだろう。その逞しさは羨ましいけど、僕には真似できそうにない。
「なんで周りが敵だらけなのか・・・原因が解ったのは1年の秋頃だった」
イキった徳川智人にケチを付けると「俺に手を出すと藤原が黙っていない」と言って虎の威を借りている。遠藤くんと加藤くんが教えたらしい。
「直ぐには信じらんなかったんだけどな」
智人に聞いたら、最初はあれこれと尤もらしい言い訳をしていたが、その場しのぎばかりで辻褄が合わず理論が破綻をしていた。不審に思って強めの口調で問い質したら、今度は都合の良い自己防衛ばかりを並べるようになり、やがてトモの方が藤原くんに寄り付かなくなった。
「だから、俺も距離を空けた。取り繕う価値が無いと思ったからな」
智人と藤原くんが反目をした途端に、それまでトモに媚びていた連中が一斉に手の平を返した。
「チートみたいな小者を虐める趣味はない。無視をしただけだ」
2年生になってからは会話をすることもなかった。智人が僕と仲良くなった当初、藤原くんは僕を「陰キャの“ぼっち”」と思っていたらしい。・・・まぁ、僕が陰キャってのは否定はできないけど。
「尊人と連んでんのを見て、ちっとマシになったかと思っていたんだけどな、
この世界に来て、チートの性根が全く変わってねーのを知った。
結局は、オメーがお人好しだったってだけだ」
「尊人くんがお人好しすぎるってのは賛成~!
でも、藤原と近藤は、喧嘩以外で解決する方法を考えなきゃダメでしょ」
「今は俺と浩二の素行の話をしてんじゃねーんだよ」
藤原くんは智人のせいでスクールカーストの渦中に捕らわれ、火の粉を振り払っているうちに、望んでもいないのに一軍になってしまったのだ。
「遠藤や加藤もカラッポのままイキるところがあるが、
アイツ等は自力で虚勢を張るだけマシだ。
チートみてーに他人は巻き込まないからな」
智人を庇いたいけど、確かにトモは力におもねるクセがあるので、反論をできない。
「でも、良いところだって・・・」
「オマエさ、本当にチートと友達なのか?」
「・・・え?」
「友達なら、改善するべきところを、面と向かって言えるよな?
耳が痛いと思われても、正面からぶつかれるよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「ダチってのは、ダチのためにキツいことを言えるよな?
俺は、俺と浩二はそう言う関係だと思っている。
浩二からのダメ出しがムカ付く時はあるが、
浩二が言うなら受け入れるようにはしている。
オマエとチートはどうなんだ?」
答えは「言えない」だ。もしかしたら、この世界に来てからの真田さんや柴田くんの方が、遠慮せずに喋れていたかもしれない。
「オマエはチートにダメ出しをできんのか?
チートはオマエの苦言を受け入れるのか?」
智人は僕の意見を聞いてくれない。だから僕は西都市から出奔した。
「もう少し自分に自信を持って意見したらどうなんだ?
自分を信用できねー奴の意見なんて、誰が信用するんだよ?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「尊人の場合は、自己評価が低すぎるんだよ。
だから、土方あたりから『ちゃんとしろ』って言われんじゃねーのか?」
ヤバい。トモのこと、僕自身のダメッぷり、処理しなきゃならない情報が多すぎて、脳ミソが麻痺をしてきた。
「またそうやって、尊人くんにキツいこと言うっ!」
「オマエは、直ぐそうやって庇う。
穏やかで優しい奴と、ロクに意思表示をできない根暗は別物。
オマエにもそれくらいは解るだろう?」
「尊人くんは、ちゃんと意思表示を・・・」
「コイツがハッキリしねーせいで、オマエだって苦しいんじゃねーのかよ?」
以前、柴田くんからも似たようなことを言われて、「聞きたくないこと」として耳を塞いでしまった。ちゃんと受け入れていれば、智人と会った時に変な口喧嘩なんてせずに向き合えたのだろうか?「実は尊敬できる人」と知った藤原くんにも言われたことで、今まで何もしなかった自分が情けなくなる。
「ゴメン、ちょっと夜風に当たってくる」
「キツいことを言った自覚はある。だが言いすぎたとは思ってねー。
ちっと、自問自答してこい」
「・・・うん」
すっかりと食欲が無くなってしまった。席を立って店を出て、ひとけの無いところを探して腰を降ろす。
「尊人くん」
真田さんが付いて来てくれた。隣に腰を降ろす。
「ふーみんが言ったの、気にしないで良いよ。
アイツ、いつもあんなヤツだからさ」
「ありがとう。
でも、藤原くんの言うの・・・僕に『ちゃんとしろ』っての・・・事実だから。
僕は、トモとちゃんと向き合わなきゃなんだよ・・・」
「そっか・・・ふーみんでも、たまには良いこと言うんだ?」
「藤原くんの言葉・・・ちょっと乱暴だけど、結構正しいよ。
いつも、心の真ん中にグサグサと突き刺さっちゃう」
「へぇ・・・そうなんだ?
でも、影響されて、あんな『拳で語る』みたいな奴に似ちゃダメだからね。
尊人くんは、優しい尊人くんのままでいてね」
「うん・・・がんばる」
さっきの今で簡単に「僕の方向性」の答えなんて出ない。だけど、真田さんのおかげで、少し楽になった。
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