24-1・慌ただしい出動
僕とブラークさんが帝都に戻った時、ゴククア公爵の遺体は火災現場近くの部屋に安置されていた。司法解剖の結果、死因は「胸と腹部の圧迫」。つまり、肋骨と内臓が破壊されていたらしい。それが何を意味しているかは、僕にでも解る。
ブラークさんが、悔しそうに拳を壁に叩き付けたあと、八つ当たり気味に同僚の胸ぐらを掴んだ。
「何者の仕業だ!?」
「わかりません!」
「愚か者めっ!」
いつも冷静なブラークさんが荒れている。伝えるべきではなかったのか?僕は余計なことをしたのか?
いや、そんなことはない。僕が伝えなくても、ブラークさんは知ることになった。それなら早く知ってもらった方が良い。
「今の状況で、首謀者の見当が付かぬワケがあるまい!
西の指図以外には考えられん!」
その言葉を聞いた僕は、親切心で伝えたわけではないことに気付いた。僕は卑怯者かもしれない。僕自身が「智人が怪しいかも」と予想したうえで、ブラークさんに立ち会って「トモを疑うかどうか」を確認したかったんだ。
「証拠を探すのだ!
黒幕は西にいることを前提に考えれば、答えに辿り着くはずだ!
何者か、西の関係者を見ていないのか?」
真っ先に脳内に浮かんだのは安藤さんの顔だった。真田さんに連れられて藤原組の屋敷に行ったはず。ブラークさんに言えるわけがないけど真相は知りたい。
(ブラークさん、ごめんなさい)
貴方には大恩があるけど、仲間を売ることはできない。考えたくはないけど、もし、貴方と智人がぶつかるなら、トモを裏切ることはできない。
僕は罪悪感を抱えながら黙って安置室を出て、屋敷へと向かう。
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屋敷の前で真田さんが待っていて、僕を見るなり「早く来い」と手招きで催促をする。
「尊人くんっ!遅いっ!!どこに行ってたのっ!」
とりあえず、予想通り怒られた。「直ぐに帰ってこい」って言われたのに半日以上帰らなかったんだから、まぁ、仕方がない。
「もうちょっと遅かったら、置いてっちゃうところだったよ!」
「置いてく?どこかに行くの?」
屋敷に入ったら、仲間達が慌ただしく旅の準備をしている。
「おっ!戻ってきたか」
安藤さんの姿もある。
「安藤さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・」
「話はあとだ!」
藤原くんが、怒鳴り気味に話を遮る。
「今から西都市に行く!オマエも行きたきゃ急いで準備をしろ!」
「セイ?なんで急に?」
言うまでも無く納得できない。
「セイは後回しになったはず・・・」
「気が変わったんだ」
「そんな雑な理由で?」
セイ行きの推進派は土方さんと鷲尾くん、それから藤原くん。僕と真田さんと吉見くんと沼田さんと近藤くんがセイは後回し派。安藤さんがセイ行きを進めたとしても多数決では「セイは後回し派」が勝つ。
「勘だ!俺の勘が『セイに行くべき』と言っている!」
「そんなのあり?」
要は藤原くんの“鶴の一声”で多数決が覆ったってことだ。
「今から?もう、昼過ぎだよ?」
「強行になるが、今日中に宿場町まで行ければ明日の行程に余力ができるだろう」
「まぁ・・・そうだけど」
何をそんなに急いでいるのだろうか?やはり、安藤さんがゴククア公爵の暗殺に絡んでいて、事実を知った藤原くんが急いで逃がそうとしてる?
「どうすんだ?行くのか、オマエだけ留守番をするのか?どっちだ?」
状況的には解らないことだらけ。でも、個の感情より集のメリットを優先させていたけど、本音では櫻花ちゃんに会いたかった。
「もちろん行くよっ!」
安藤さんと話がしたかったのに、後回しにされてしまった。煽られながら部屋に戻って、革の鎧とサークレットとトゲトゲの腕輪を装着して、先生の剣を背に担いでベルトで固定して、鉄の盾を剣に引っ掛ける。
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馬は全部で5頭。真田さん、藤原くん、土方さん、鷲尾くん、近藤くんが手綱を握り、沼田さんは真田さんの後に、吉見くんは鷲尾くんの後に、安藤さんは土方さんの後ろに乗った。空いているのは藤原くんの後と近藤くんの後だけ。
「乗るか、源!」
「ああ・・・ありがとう・・・え~と・・・」
近藤くんに後を提供してもらったけど、近藤くんは背が高くて太マッチョなので、1人乗っただけでも馬は辛そうだ。僕まで乗ったら馬が潰れるのではなかろうか?
「尊人、こっちに乗れっ!」
「うん」
戸惑っていたら藤原くんが声をかけてくれたので、迷わずに藤原くんの後を選んだ。
藤原くんの号令で、藤原くんと僕が乗る馬を先頭に、藤原組が出動をする。今まで様々なグループ行動をしてきた藤原組だけど、僕と真田さんが参加をしてからは、全員が一斉に行動をするのは初めてになる。
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