22-5・近藤くんへの一太刀
身1つの喧嘩なら藤原くんが強いが、剣を持たせたら近藤くんが一番強い。藤原くんとの模擬戦なら善戦できるようになってきた(一勝もできない)けど、近藤くんが相手だと、全く歯が立たない。
ちなみに、この模擬戦は、お互いに鞘に収めた剣を使っている。理由は「真剣で勝負をしたら、僕が真っ二つにされて、沼田さんのヒールでも修復不可能になるから」とのこと。
一太刀目を剣(鞘付き)で受けたと思った次の瞬間には、次の一撃を肩やお腹に喰らう。盾で受け流そうとしても、剣(鞘付き)の軌道が変わって盾を思いっ切り叩かれて、体勢を崩された次の瞬間に一撃を喰らう。要は近藤くんの剣閃が全く見えない。「さすがは剣道で大学から推薦入学の申し込みが来る達人」としか言い様が無い。
「尊人くん、頑張ってっ!」
仲間達は「今日一日で僕が一太刀でも近藤くんに当てられたら僕が勝ち」という条件で賭けをしていて、「僕が勝つ」に賭けているのは真田さんと藤原くん。なんで藤原くんが「僕が勝つ」を選んだの?僕自身がその賭けに参加をする資格があるなら「僕が勝つ」には賭けないだろうな。
「おい、源っ!剣道の練習をしてるわけじゃねーんだぞ!」
唐突に藤原くんからのアドバイスが飛んだ。
「オマエには、下手クソなりに、他にもできることがあんだろう!?」
「下手クソなりに?」
「たまには良いこと言うじゃん!
尊人くん!ふーみんの言うとおりだよ!」
「『たまに』じゃねー!『いつも』だ!」
「他にもできること・・・そうかっ!」
柄の“魔石が縛り付けられた部分”を握りしめて突進!先生の剣(鞘付き)を水平に構えて、近藤くんが振るった長剣(鞘付き)を受け止める!
「わぁぁっっっっ!!」
魔石を握った掌から発した魔力電流が、僕の剣から近藤くんの剣を経由して、近藤くんに流れ込んだ!真田さんみたく対象を麻痺させる(場合によっては爆破する)電流は操れないけど、驚かせることくらいはできる!
「ぬぅぅっっ!」
僕にも電流は流れる。だけど、僕は電気ショックが来ることを知っていて、近藤くんは想定していない。
「今だっ!」
動きを止めた近藤くんの剣(鞘付き)を弾いて刺突を放った!
「くっ!」
近藤くんは仰け反って回避をする!僕自身が電気ショックを受けているので、万全の瞬発力は発揮できない!だけど、剣先(鞘付き)が近藤くんの胸を掠った!
「当たった!・・・かな?」
「ぬぉぉっっっ!!」
近藤くんが、反った上半身を起こしながら渾身の唐竹を放つ!
「げっ!」
慌てて鉄の盾で防ぐが、力負けをして5~6歩後退!盾を握っていた手がジンジンと痺れるが、辛うじて体勢を立て直して構えた!
近藤くんが電気ショックを受けた状態じゃなかったら、後退どころか2mくらいは弾き飛ばされていたかもしれない。
「ふん!やるじゃねーか。俺の負けだ」
今の一撃を「一太刀当てた」と認めてくれたらしい・・・が、それならそれで、何故、そこで終わらない?何故、渾身の反撃をしてきた?いかにも肉食な「やられたらやり返す」が無意識に発動したのだろうか?
「なるほどな。源には『他にもできること』がある・・・か。確かにその通りだ」
魔力併用の戦闘。今の僕の魔力精度では、2度目は通用しないだろうな。
「浩二、オマエは剣に自信を持ちすぎなんだよ。
あきらかに剣術で劣る源でも、工夫次第ではオマエを初見殺しにできるってな」
藤原くんの言葉を聞いて僕は理解した。この模擬戦は「僕を鍛えること」だけが目的ではない。同時に近藤くんの慢心も諫めていたのだ。藤原くんの「リーダーとしての視野の広さ」を感じずにはいられない。藤原グループが千幸高校でトップに君臨している理由が「怖いから」だけではないと解る。
「ミコト!」
聞き覚えのある声がしたので振り返ったら、ブラークさんが立っていた。
「訓練の邪魔をしてすまんな」
「ああ・・・いえ、ちょうど一区切り付いたところです。
急にどうしたんですか?」
ブラークさんの方から会いに来てくれるのは初めてなので、チョッピリ嬉しい。
「閉鎖されていた北の街道の門が開いた」
「なんで急に?」
カイーライ・アング帝皇が、講和の提案をして、受け入れた西都市の軍隊が北都市から引き上げたらしい。
「戦争が起きていたんですか?」
「ああ。戒厳令が敷かれていたから、民には伝わっていないがな」
50㎞しか離れていない都市で戦争が起きていた。櫻花ちゃんが戦いに巻き込まれていたのかもしれない。だけど、全然知らなかった。情報化社会ではないこの世界の文明を、改めて不便に感じる。
「ゴククア公の指示で、俺はこれからノスに向かう。
オマエが欲していた情報を得られるかもしれん。一緒に来るか?」
僕が欲しい情報は櫻花ちゃんの所在。「黒騎士団に所属しているかもしれない」という情報の真相を確かめ、可能ならばおーちゃんに会いたい。
「町はまだ混乱が収まってはいないだろうから、
オマエを『秘境者』と追及する者は、おそらくおるまい。」
「あたしを連れてってください!」
僕より先に真田さんが返事をする。
「なんで真田さんが率先して?」
「織田の安否を確認したいからに決まってるでしょ!」
「私も行きたい!」
「俺も!」
真田さんに続いて、おーちゃんと仲良しの土方さんと、「おーちゃんが好き」宣言をした鷲尾くんまで立候補をする。
「あまり大所帯にはしたくない。同行はミコトを含めて3人以下にしてくれ。
治安状況が解らないから、少年のフリができるサリは良いとしても、
女性は遠慮をしてもらいたい」
「うわぁ~・・・久しぶりに『男子扱い』きた?」
「状況を把握したい。俺が行く。
ノスに行くのは、俺と中坊(早璃)と源だ」
藤原くんの“鶴の一声”で北都市の視察メンバーが決まる。




