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22-4・僕に足りないもの

 夕食後、屋敷の外に出て、芝生に腰を降ろして夜空を見上げる。

 今まで何回「追放」宣告を受けただろう?北東村ペイイスで安藤さんに1回と、帝都テーレベールに来て直ぐに藤原くんから1回。そのたびに、必死で「僕に何ができるか?」を考えてしがみついた。


「・・・僕に足りないもの」


 藤原くんが僕に嫌がらせをしてるわけじゃないのは解る。彼が言うんだから、間違いなく何かが足りない。

 戦うための技術はブラークさんから学んだ。ブラークさんからはオーガ討伐でダメ出しはされていないので、多分、それなりに認めてくれたのだろう。戦闘能力が一朝一夕では上がらないことくらい、藤原くんだって解っているはず。つまり、足りないのは技術ではない。


「尊人くん」


 真田さんが隣に座る。


「もし追放されるなら、あたしも一緒に追放してもらうからね」

「ありがとう。・・・でも、僕は追放される気はないよ」


 智人トモと口喧嘩してセイの町を飛び出した時は、「このあとどうなるんだろう?」と思った。藤原くん達と合流した直後は「ここには僕の居場所が無い」ように感じた。だけど今は、帝都に来て良かったと思っている。僕は藤原くんの「ぶっきらぼうだけど実はちゃんと考えてくれている」ところが好きだ。


「もちろん、斬首されるつもりもない」

「あたしがさせない。

 尊人くんは、喧嘩っ早いふーみんとは違うってのにさ。

 アイツ、自分以外の種類の人がいることが解んないほどバカなのかな?」


 いつ頃からだろうか?女の子と話すのが苦手な僕だけど、真田さんが一緒にいてくれることが苦痛ではなくなった。


「・・・まぁ、確かに僕と藤原くんは価値観とかは全然違うね」


 オーガの時と藤原くんとの模擬戦の明確な違いは、真田さんからピークエクスペリエンスを借りていないこと。トロール戦の場合は戦闘目的が「討伐」ではなく「真田さんが戦いやすい状況を作る」だったので、あまり参考にはならない。「真田さんには怪我をさせない」ってつもりで戦えば不足しているところが埋まるのかな?でも、真田さんと共闘をするわけじゃないから、その感情を作るのは無理。


「・・・あれ?ちょっと待てよ?」


 トロール戦と今の差が心の中に引っ掛かる。


「真田さん、ありがとう。君のおかげで、もしかしたら解ったかもしれない」

「・・・へ?あたし、なんかアドバイスしたっけ?」

「うんっ!してくれたっ!」


 答えは、南宿場で藤原くんと特訓した時に、既に教えてもらっていた。それができないから藤原くんは呆れたんだ。僕は、真剣を持つことで無意識にビビっていた。今は「藤原くんとは価値観が違う」で済ませちゃダメなんだ。



 翌日も朝食の直後から、沼田さんの特殊能力を発動してもらって特訓が始まる。だけど、僕が3回くらい剣(鞘付)を振るったら、藤原くんが剣を引いて「待て」と制した。


「足りなかったもんに気付いたみてーだな」

「多分・・・ね」

「本物かどうか試してやる」


 いつもなら日没頃なんだけど、今日は早々に藤原くんが抜刀をした。


「うん!」


 呼応して、鞘から剣を抜いて構える。


「わぁぁっっっ!」


 藤原くんの横凪の剣を盾にぶつけてしのぎつつ柄を握る手に力を込めて剣を振るった!


「まだ遅いっ!」


 しかし、回避をされて蹴りを喰らって尻餅をつく!


「・・・くっ!」


 今のは自分でも解った。1秒くらいだろうけど、真剣を振るう直前で戸惑ってしまった。それじゃダメなんだ。


「もう一回っ!」

「実戦で『もう一回』は無ーけどな!」

「次で証明するからっ!」

「言ったなっ!だったら、やってみろっ!」


 僕に足りなかったもの。藤原くんにあって、僕には無かったこと。それは相手に真剣を振るう度胸。喧嘩慣れをした藤原くんは最初から「戸惑ったら負ける」を知っている。

 オーガ戦やトロール戦ではできたのに、昨日までできなかったのは、モンスターなら割り切れるようになったけど、相手が人になった途端に尻込みをしていたから。


「うんっ!」


 騎士団同士の武力衝突が起きた場合、僕の選択肢は「無関係を決め込む」か「参戦をする」のどちらかになる。智人トモには傷付いてほしくない。櫻花おーちゃんには泣いてほしくない。僕の希望を満たすためには、怖いけど「参戦をする」しかない。その時になって、尻込みをして無関係側に逃げずに済むように、ちゃんと守りたい人を守る勇気が持てるように、藤原くんは特訓の方向性を「対人」に切り替えたんだ。


「わぁぁぁっっっ!」


 僕が勢い良く剣を振るうと、藤原くんは必要以上に踏み込めなくなる。わざわざ自分から剣に突っ込んでダメージを負うワケにはいかないんだから当然だ。

 前に藤原くんは「当たらなくても攻撃をすれば、相手は前に出られずに切り返しが遅くなる」と教えてくれた。鞘有りではしていたのに、真剣だとできなかったから、藤原くんをガッカリさせたんだ。


「まだ甘い!剣を大振りしすぎだ!」


 僕の剣に藤原くんの切っ先をぶつけられる!腕を伸ばしすぎて戻せないうちに蹴りが飛んできて胸に喰らって数歩後退をさせられる!


「盾が遊んでるぞ!今のは盾で防げたはずだ!」

「そ、そうだね」


 藤原くんは、簡単には懐に踏み込ませてくれない。だけど、いつもなら蹴り1発で尻餅をつくのに、今は後退しただけで済んだ。原因は、僕の牽制が効いて、藤原くんがあと一歩を踏み込めないからだ。


「いいか、源!富醒は有効な武器になる!

 だが、所詮は他人に与えられた“棚ぼた”の力だ!

 最後の最後で一番アテになるのは、オマエが自力で得たオマエの内側に有る力!

 オマエを最も裏切らないのはオマエ自身だ!」

「・・・うん。ありがとう、藤原くん」

「勘違いすんな!オマエのためじゃねー!オマエに足を引っ張られないためだ!

 前にも言っただろーが!」

「うん・・・そうだね」

「解ったらサッサとかかって来い!」

「うん」

「・・・・・・・・・・・ん?オマエ、泣いてんのか?」

「・・・えっ?」


 指摘されて気付いた。僕は眼に涙を浮かべていた。

 藤原くん、口は悪いけど、僕を強くしてくれる。この世界では、ヘタレの平和ボケじゃ何もできないことを教えてくれている。そう考えたら泣いていた。


「勘弁してくれよな!早璃に見られたら、また俺がケチを付けられるじゃねーか!

 興醒めだ!少し休憩させてやる!

 まだやる気があるなら、その涙目を何とかしろ!」

「うん、ごめんね」


 藤原くんは頻繁に「隣に立ってくれる奴くらい守れ」と言う。藤原くんが僕を鍛える理由は、僕のためではなく真田さんを守るためなのかもしれない。だけど、僕を排除して自分で真田さんを保護するのではなく、僕に任せようとしてくれている。

 以前、僕は真田さんを守れず、青騎士団に殺されそうになった。智人トモがいなかったら僕は死んで、真田さんは捕まっていた。あの時は非力な自分を恨んだ。強くなりたいと思った。

 藤原くんは、その時の僕の思いを叶えようとしてくれている。

 ブラークさん・・・そして藤原くん。2人は、僕にとっての師匠だ。


 恥ずかしいんだけど、そう思ったら泣けてしまった。




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