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22-3・真剣な模擬戦

 北と西の政情不安により、帝都の門が全て閉鎖された。気は焦り、「何かしなきゃ」とは思うんだけど、町中に閉じ込められて何もできないまま2日が経過した。


「わぁぁっ!」


 藤原くんに蹴り飛ばされて地面を転がる。


「ヘタレに戻ってるぞ!集中しろ!」


 藤原組としての調査だけでなく冒険者ギルドの仕事もできないので、僕は藤原くんに稽古を付けてもらっていた。訓練なので鎧は着けていない。


「ウジウジと悩んだところで、今は何もできないだろう!

 動けるようになってから精一杯なにかをできるように力を付けておけ!」

「・・・うん」


 怒鳴りつけられて立ち上がり、剣と鉄の盾を構える。


「オマエが気にしなきゃならないのは、織田じゃない!オマエの隣に立つ奴だ!」


 藤原くんは心が強い。強すぎる。僕は、そんな簡単には割り切れない。ずっと、櫻花おーちゃんの顔がチラついている。


「織田に何かがあったとしても、俺等が多数派を取って現実世界に戻れば済む!

 他の連中の犠牲は、そうやって割り切れたんだろう!?

 なら、今回も割り切れ!」


 藤原くんの言う通りだ。焦れていても不安になるばかりで何もできない。動けるようになってから「弱い僕」に後悔したくない。


「わぁぁっっっっ!!」


 藤原くんが剣を横凪に振るう。縦に振られた剣なら盾で受け流して懐に飛び込めるけど、横凪だとどうしても正面から受け止めるしか無い。藤原くんはそれを理解して剣を横に振っている。

 だから僕は、バックステップで回避をする。


「ちっとは脳ミソを使っているようだが、まだ甘いっ!」


 後退中の僕のお腹に強烈な蹴りが飛んできた。まともに喰らって踏ん張りきれずに尻餅をつく。


「人間は脳筋なモンスター共とは違う!それを考えながら戦えっ!」


 不安なのは僕だけじゃない。土方さんは櫻花おーちゃんと仲が良い。鷲尾くんは「おーちゃんが好き」と言った。だけど、2人は今できること(それぞれの特殊能力の精度を上げる)をやっている。


「うんっ!」


 櫻花おーちゃんの危機に間に合って助けられるかもしれない。今はそう考えて、少しでも強くなっておきたい。



 隙を見せれば、容赦無く拳や蹴りが飛んできて、鞘付の剣で叩かれ、全身が痣だらけで痛いんだけど、こんなのは甘い方だ。


「日が落ちてきたな。やるぞ!」


 沼田さんを呼んで立ち会ってもらい、藤原くんが抜刀をして構える。


「・・・う、うん」


 緊張をしながら僕も鞘から剣を抜く。文字通りの真剣勝負なんだけど、引き続き鎧の装着は禁止。


「ふーみん、むちゃくちゃだよ。危険すぎる」

「危険だからこそ価値が有る」


 沼田さんに付いてきた真田さんが口を出そうとするけど、近藤くんが止める。


「タイミングを間違えないでね、沼ちゃん」


 土方さんや吉見くんや鷲尾くんも、成り行きを心配して集まってきた。


「源っ!腰が退けてるぞっ!」

「・・・う、うん」


 今から、ガチの斬り合いをする。鞘や拳で殴られるのとはワケが違う。僕にしてみれば、腰が退けていない藤原くんの方が異常だ。


「わぁぁぁっっっっっ!!!」


 気勢を上げて突進をしたけど何もできず・・・硬直した体では、藤原くんの突き出した剣を満足に回避することもできずに、腹に喰らってしまった。あとで聞いたんだけど、近藤くん曰く「自ら刺さりに行った」ようにしか見えなかったらしい。

 藤原くんは僕の腹を抉った剣先を素早く抜き、僕は大量の流血をしながら仰向けに倒れる。


「ヒール発動っ!源くん!」


 僕の全身がキラキラと輝いて傷が塞がる。痣も全て消える。痛みが無くなったので上半身を起こした。


「沼田さん・・・ありがとう」


 朝一で沼田さんの特殊能力を発動させておき、どんなに傷を負ってもダメージ0の状態に戻す。だから、模擬戦の仕上げは真剣を使う。即死以外は何でも有りってことだ。


「オマエさ、本当にオーガやトロールと戦ったのか?」


 藤原くんが呆れ顔で見下ろす。


「そん時は、今みたくビビって体が動かなかったわけじゃねーんだろ?」

「・・・うん」

「だったら、なんで今はできない?

 オーガやトロール戦と比べて何が足りないのか、明日までに考えておけ」


 宿題が出て今日の特訓は終わり、真田さんが寄って来て、尻餅をついたままの僕に手を差し出して、引っ張り起こしてくれる。



 藤原くんの宿題の答えが出ないまま2日が経過。真剣の袈裟斬りを喰らって倒れ、沼田さんのヒールで回復してもらう。


「オマエ、強くなる気あんのか?なんも変わってねーじゃん!」

「・・・え?」


 藤原くんの振るう切っ先には集中している。真剣勝負に緊張はしているし痛いのは嫌だけど、回復してもらえる安心感があるので少しは慣れてきた。一昨日よりは昨日、昨日よりは今日の方が藤原くんの攻撃を凌げるようになった。

 だから、「変わってない」って評価はショックだった。


「明日もそんなヘタレな戦いしかしねーなら、首を飛ばすぞ」

「・・・それって」


 藤原組からリストラするって意味?それとも、即死させるって意味?


「両方だ!」


 クビはかなり嫌だけど、斬首はもっと嫌だ。だけど、オーガやトロールを討伐した時と比べて何が足りないのか解らない。



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