22-2・ブラークさんへの質問
宿に押し掛けてブラークさんを呼び出したら、部屋に通してくれた。お金持ちっぽいから豪華な部屋を借りているのかと思ったけど、質素な部屋だった。
「今日は冒険者ギルドに行かないんですか?」
「毎日、暇潰しをしているわけではないからな」
ベッドを進めてくれたので真田さんと並んで座り、ブラークさんは簡素な机から意思を引っ張り出して腰を降ろす。
「紅茶でも飲むか?」
「いえ・・・大丈夫です」
「2人揃って血相を変えてどうした?」
真田さんとアイコンタクトをした後、僕が口を開いた。
「あの・・・オブシディア騎士団に転移者っているんですか?」
「藪から棒になんだ?」
「友達が参加しているって噂を聞いたので・・・
弓使いの女の子で、オウカって名前って・・・」
「ああ・・・そのことか。
守備隊に凄腕のアーチャーが加わったという話は聞いた。
確か、オマエ等がノスの町を去って直ぐのことだ。
俺は遊撃隊。その者とは部署が違うから詳しくは知らぬ。
ここがノスの町ならば、直ぐに確認をして面会を求めることも可能だがな」
「そうですか」
万能なブラークさんでも知らないことはあった。残念だけど当然か。
「まぁ、主(ゴククア公爵)に会った時に素性を尋ねておこう」
「よろしくお願いします」
「だが、素性を知ってどうする?」
「どうするったって・・・友達なので・・・」
「我が騎士団の所属した秘境者を引き抜くわけじゃなかろうな?」
もちろんそのつもりです。ダメなんですか?
「オマエ等の存在は俺が見ぬフリをしているだけ。
秘境者を抱えれば騎士団の戦力が上がる。それを引き抜けば、騎士団を・・・
いや、ゴククア公爵を敵に廻すことになるぞ」
言われてみれば当然だ。テンパってて忘れてた。騎士団に追い回されたけど未だにフリーでいられる僕や真田さんの方が珍しいのだ。
ブラークさんのツテで面会して引き抜けば、ブラークさんに迷惑を掛けてしまう。
櫻花ちゃんに会いたい。タイミングを待ってツテを使えば会うのは可能。でも、その先で完全に詰んでいる。
「・・・敵に廻さずに合流する方法」
もし「迂闊な行動をすれば真田さんを危険に巻き込む」「既に藤原くん達と合流済み」という前提が無くて単身だったら、僕はブラークさんに頼んでオブシディア騎士団に入れてもらったのだろうか?
「尊人くん、なにをボケッとしてるの?」
「ああ・・・うん」
つい、情けないことを考えてしまった。こんな相談したら、真田さんには呆れられて、藤原くんからは怒られるだろうな。
「もう一個の疑問はどうする?」
ホーマン公爵が暗殺された件。聞くのが怖い。あの日、偶然に馬車と擦れ違っただけで、ブラークさんは無関係と思いたい。だけど、「関係者だ」と言われたら、どんな反応を返せば良いのか解らない。
「とりあえず、そっちはいいや」
気になるけど、直接的には関係無い。櫻花ちゃんの情報の方が大事だから、余計なことを聞いてブラークさんから距離を空けられたくない。やや言い訳くさいけど、そう判断することにした。
「ありがとうございました。弓使いの女の子のことが解ったら教えてくださいね」
ブラークさんに礼を言って退室をする。
だけど・・・後に後悔をすることになるんだけど、ホーマン公爵暗殺の件は有耶無耶にするべきではなかった。
翌日の朝、帝城に出仕しようとしたゴククア公爵(ブラークさんの主君)の暗殺未遂事件が発生する。狙って返り討ちに合ったのは西都市の騎士団長。つまり、智人の上司。トモは、主と上司を立て続けに失った。
僕達の知らないところで、この世界の平穏が崩れていく。
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帝都の空気が物々しい。近藤くんと吉見くんが帰ってきたのは、そんなタイミングだった。2人はノスの町に入って調査をするつもりだったが、断念をしたらしい。
「町中を黒騎士達が動き廻っていて、セイの軍隊と戦争になるって噂になってた。
そんな状況じゃ、さすがに情報収集できなくてね」
「・・・戦争?」
智人の所属する軍隊と、ブラークさんの所属する軍隊が戦う?櫻花ちゃんは、黒騎士団に所属してるかもしれないんだよ。もし本当だったら、おーちゃんが巻き込まれるってことだよ。
「嘘でしょ?吉見くん・・・なに言ってるの?」
「僕だって、ただの噂って思いたいよ。
だけど、あきらかに空気がおかしくて、早く伝えなきゃって思ったから、
夜通しで戻ってきたんだ」
質問を先送りにしてしまったこと。以前から、智人の主とブラークさんの主が一触即発の状態だったなら・・・それが原因でホーマン公爵の暗殺にブラークさんが関与していたなら・・・
「僕達が何も知らなかっただけで、この争いは必然?」
脳内で、今まで経験したことや聞いたことが繋がっていく。
ただでさえ、各騎士団は力尽くでで転移者を得ようとしている。ただでさえ、智人がホーマン旗下に加わったことでパワーバランスは崩れている。
目黒くんが僕と真田さんを追って来て、トモと青騎士団が交戦したのは、ただの小競り合いではなく前哨戦だった?




