21-4・宿場町の夜
荷物を部屋に入れたあと、藤原くんに「戦闘準備をしろ」と呼び出された。学校で体育館の裏に呼び出されるノリ?宿の手配が遅かったから文句を言われる?真田さんが予想した「嫌がらせをされる」が当たってる?ちょっと恐いんだけど、指示に従って一緒に町の外に出る。
「ちっとはマシに戦えるようになったらしいな」
「多分、少しくらいは・・・」
藤原くんとの戦いで奇策を使い、オーガ戦では盾で回避する戦いを覚えた。シールドアタックの一辺倒だった時に比べれば「マシになった」自信は有る。
「どの程度戦力としてアテになるか知っておきたい。本気でかかってこい」
藤原くんが、幅広の剣を納刀したまま構える。
「・・・うん」
戦力外扱いの「余り」は嫌だ。ちゃんと役に立ちたい。鉄のシールドを装備して、先生の剣を納刀したまま構え、気合いを吐いて飛び掛かった。
「フン!以前と比べて、ウジウジと迷わなくなったようだな!」
「迷ってる暇がなくなったからね!」
藤原くんが振り下ろした剣を盾に当てて受け流し、懐に飛び込んだ!だけど、藤原くんはバックステップで距離を空けつつ、今度は剣を横凪に振るった!
「くっ!」
慌ててシールドで受け止めるが、突進中だったので踏ん張りが利かずに体勢を崩した。直後にお腹に蹴りを喰らって尻餅をつく。
「マシにはなったがまだまだだな。
もう一度、同じ攻撃をしてやる。
次はもう少し脳ミソを使って、ちゃんと対応してみろ!」
「うんっ!」
仕切り直して再突進をする!振り下ろされた一撃目は盾に当てて受け流す!続けて僕の側頭部目掛けて飛んで来た横凪は、頭を軽く下げつつ盾を上げて、盾のわん曲で滑らせた!
「まだまだだな!全身が縮こまったぞ!」
次の瞬間には右側から返す刀が飛んで来て脇腹に着弾!弾き飛ばされて地面を転がる!藤原くんが寄って来てしゃがんで、引っ繰り返っている僕を見下ろした。
「俺が何を言いたいか解るか?」
「・・・まだ、上手く盾を使えていないって」
「チゲーよ。オマエがやろうとしてることが見え見え。
スキル不足を埋める手数と工夫が足りねーってことだよ」
「工夫と手数?」
「なんで、俺の一撃目を防いだ直後に剣を振るわない?」
「藤原くんが後退したから攻撃しても当たらないと思って・・・」
「当たらなくても、刺突をしておけば、俺は前に出られずに切り返しが遅くなる。
その間にオマエは次の攻撃体勢を作れる」
「・・・・・・・・・・・・・」
「俺の1発目の横凪が、オマエの体勢を崩して次の攻撃をするための
誘いってことに気付かないか?
オマエは上手く回避をしたわけじゃない。俺が回避を誘ったんだ」
言われてみると、藤原くんの横凪は軽かった様な気がする。次の一撃に力を溜めるために、力を抜いていたんだ。
「俺は脳筋のオーガとは違って駆け引きを考えながら攻撃をするからな」
空手が強くて実践慣れをしている藤原くんだからこそできる戦い方だ。
「今後しばらく・・・時間が有る時はオマエを鍛えてやる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「返事は!?良いのか嫌なのかどっちだっ!?」
藤原くんが、僕と真田さんを別チームにした理由が解った。嫌がらせではないけど、真田さんの前で提案をしたら、僕が返事をする前に真田さんが止めてしまう。
「・・・やるよ」
真田さんがいないところで約束をすれば、「既に僕が決めたこと」になって、真田さんは口出しをできなくなる。
「藤原くん・・・ありがとう」
「バーカ!オマエのためじゃねーよ!オマエに足を引っ張られないためだ!」
藤原くんはそっぽを向いて、少し照れ臭そうに笑う。この人、恐いけど悪い人ではない。ちゃんと僕を見て、何が不足しているのか教えようとしてくれている・・・多分。僕はそう感じた。
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夜になって、宿屋のバイトを終えた由井さん込みで、土方さんの部屋に集合する・・・と言うか、男子3人は団体部屋でベッド3つを借りたので、集まれる個室が土方さんの部屋しか無い。
「今日、土方の部屋に泊まってもイイ?
男子を連れ込むから邪魔?」
「男子は連れ込まないけど邪魔」
由井さんは特定の友達がいない代わりに、どのグループの懐にも平気で入り込む。修学旅行では、ちょい恐の武藤さん&安藤さん(藤原グループ)と同じ班&部屋に所属して、対等に喋っていた・・・と言うかずっと喋っていて、武藤さん&安藤さんの方が睡魔に勝てずにギブアップをしたらしい。
「なんでぇ~!?ひとみんのケチっ!
すずちゃんとまおちゃんゎ泊めてくれたよ!」
すずちゃんとは菅原涼華さん、まおちゃんとは前田愛央さんのことだろうか?
「ずっと喋っていたんでしょ?
菅原と前田、『寝かせてくれ』って言ってなかった?」
「言ってた」
「泊めたあとで後悔しただろうね」
いやいや、土方さん、なんかペースが乱されてる。話を広げる場所はそこじゃないよ。
「由井さん、菅原さんと前田さんに会ったの?」
「うん。言ってなかったっけ?」
「初耳だよ」
「ありゃ?渡辺くんに話したんだっけ?」
黙って聞いていた鷲尾くんが反応をする。
「渡にも会ったのか?」
渡っていうのは、隣のクラスの渡辺渡くんのことね。
「うん、お宿に泊まりに来たよ」
「いつ?」
「結構最近だね。
すずちゃんとまおちゃんゎ、帝都に行く時と、南の町に帰る時に泊まったよ。
イケてる赤いマントしててなんか偉そうだったけど、
話したら、いつものすずちゃんとまおちゃんのまんまだったから安心したよ」
「マジで?」
おそらく、菅原さんと前田さんは南の都市サウザンの赤騎士団に所属をしている。菅原さんと前田さんが帝都に来ていたのに接触できなかったってこと?
「渡は?渡も赤マントをしていたのか?」
「渡辺くんゎ源くんよりキッタナイ格好してた」
「僕の格好、きたない?」
「キッタナイし、その鎧(革の鎧)ダサいね」
「・・・マジで?」
「源くん、今は源くんの格好がイケてるかどうかなんてどうでも良いでしょ」
さっきまでペースが乱れていた土方さんに注意される。
「すずちゃんがね、
『東の騎士団に隣のクラスの和田さんがいるっぽい』って言ったの。
それを渡辺くんに教えてあげたら、超慌ててたよ。
だから、もしかしたら東の都市に行ったかもね」
凄まじい情報量だ。処理ができなくてお腹が一杯になってきた。
「もしかして、渡辺くんって和田さんが好きなのかな?
すずちゃんとまおちゃんのことを話した時は『へー』って感じだったのに、
和田さんの話をした途端に、目の色が変わったんだよ」
和田さんっていうのは、隣のクラスの和田和果穂さんのことね。
「そう言えば、渡は和田に頻繁に話し掛けていたな。
渡に会ったら追及してみよう」
「和田さん、美人だもんね。
もしかして、鷲尾くんも和田さんが好きなの?」
「いや、俺は織田櫻花だ」
「お~お~!おーちゃんかぁ!解る解る。超可愛いもんね。
鷲尾くんは、おーちゃんのどの辺が好きなの?」
「可愛いし・・・性格良いし・・・」
「コクらないの?」
「コクりたい。同じクラスになりたかった」
重要すぎる情報が飛び交いまくっているんだけど、また話が逸れて、今度は鷲尾くんのペースが乱れてる。・・・てゆーか、櫻花ちゃんがモテるのは解っていたけど、さらっと爆弾発言が飛び出した。
「源・・・言わせといて良いの?『ちょっと待った』は?」
土方さんの冷たいツッコミが僕に入る。この話題を深掘りするつもり?また、土方さんが由井さんのペースに巻き込まれ始めたみたい。
「・・・そ、その話はあとで」
「もうっ!シッカリしなよ」
ちなみに、これだけ話が逸れまくれば「いい加減にしろ」と話題を戻しそうな藤原くんが一切口を挟まない。もしかして、修学旅行で由井さんと同じ班になった時にペースを乱されまくって、話し掛けたくないんだろうか?
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