21-3・由井さん
「あの・・・なんで、僕の櫻花ちゃんへの気持ち知ってるの?」
「そりゃ解るでしょ。
源くんってば、おーちゃんが話しかけると、緊張しながらイキるじゃん」
マジか?「好きです」感がバレないように、落ち着いた雰囲気で「君には興味無いですよ」感を演出していたつもりだったのに真逆の演出になってた?
「そんなふうに見えてたの?」
「解りやすすぎ」
「今度からもう少し気を付けます」
「バレてるのに今更?」
「・・・だよね」
ヤバい。もしかして、櫻花ちゃんにもバレてた?僕の気持ちを知ってるのに何のリアクションも無いのが答えってことなのかな?
だけど・・・ずっと、おーちゃん一筋のはずだったのに、最近、自分の気持ちが解らなくなっている。真田さんと一緒にいると、凄く気持ちが落ち着く。同時に頑張らなきゃって気持ちになる。吊り橋効果なのか、明確な好意なのか、良く解らない。こんな世界ではなく、ちゃんとした現実世界で、僕の本当の気持ちを確かめたいと思ってる。
「僕と真田さんがくっつくなんて・・・真田さんに申し訳ないよ」
ちゃんとした自分の気持ちが解らない僕にとって、「真田さんが僕を好きなわけが無い」を遠回しに言うことが精一杯の回答だった。
「・・・はぁ?本気で言ってる?」
「うん」
「ダメだこりゃ・・・お気の毒」
土方さんの言いたいことが全く解らないほど、僕は朴念仁ではない(・・・多分)。「もしかして真田さんは僕を?」と期待しそうになったことは何度もある。だけど、泣いたり、負けたり、情けないところばっかり見せている。数日前には呆れられて絶縁されるかと思った。僕は、何の根拠も無いまま、物事を自分の都合の良いように考えるほど楽観主義じゃないんだよね。
「そんなんだから、櫻花ちゃんとの差がドンドン広がるんじゃないの?」
「・・・うん」
土方さん、言うことが厳しい。でも、言われなくても、櫻花ちゃんに追い付けないくらい差が付いてることは解ってる。おーちゃんは高値の花すぎて無理だから、身近な真田さんにするの?自分でもよく解らない。そーゆーいい加減なのが嫌だから答えが出せない。
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馬のおかげで移動は楽になったけど、ノンストップってわけにはいかない。所々で馬を休ませつつ、馬の負担を分散させるために僕は、藤原くんや鷲尾くんの馬に乗せてもらい、南宿場に到着した。
西宿場と同じで、帝都と町を中継するのが目的の小さな町だ。
「最初は冒険者ギルドか酒場で情報収集かな?」
「チゲーよ!身1つのお気楽な旅じゃねーんだぞ。
先ずは宿を手配して馬を預けんだ」
町の真ん中くらいにある宿に決めて、僕と土方さんで宿泊手続きをする為に宿に入る。
「んぉぉっ!土方と源くん!?」
「ゆいゆい?」
「えっ!?いきなりっ!」
受付にいたのは、クラスメイトの由井さんだった。
「新婚旅行?」
「違うよ」
「2人ゎいつの間にそんなラブラブな関係になったのぉ?」
「違う!」
「モーソーワールドに来てお互いの愛に気付いた的な?」
「違うってば!」
由井優衣。出席番号37番。音楽部。普段は甘えた感じのアニメ声なんだけど、歌唱力は高い。トレードマークはツインテール。容姿は織田櫻花&真田早璃と並ぶクラス内3大美少女の一角。不思議ちゃんで、背はクラスで1番低く(2番目は真田さん)て幼児体型。勉強は得意とはいえない。
真田さんと2人で「ローティーンコンビ」と呼ばれたり、ツインテールと相まって「小坊」と呼ばれることもある。
「お部屋ゎ大きいベッドのお部屋1つでいいですね!」
「違うっつーの!私と源くんはそんな関係じゃないよ!」
スクールカーストってなに?そんなのあるの?おいしいの?ってレベルで、校内順列の外側で生きており、誰とでも仲良くできるスキルは、敵を作らない櫻花ちゃんや、おしゃべり好きな真田さん以上。真田さんとは違って、低年齢扱いされることを受け入れ、楽しんでいる。そんな強者だ。
「え?なら1人用のベッドで一晩中ムギュギュ~って感じ?
夜、遊びに行ったら邪魔かな?邪魔だよね?
でも邪魔しないから、ちょっとくらい遊びに行ってもイイ?」
「ち~が~う~!聞けよ、私の話!」
土方さんと由井さんのヤリトリに口を挟めないまま、「土方さんと一晩中ムギュギュ~する僕」を妄想してしまった。
「ラブラブな2人旅じゃないの!宿泊すんのは、外に藤原と鷲尾もいるの!
馬が3頭いるんだけど、どこに預ければ良い?」
「えぇっ!4人で1部屋ってこと?
女の子ゎ土方だけなのに、男子は3人!?
1対3!?辛くね?ひとみんって、そ~ゆ~子だったの?どんだけ肉食!?」
土方さんが「そっち方面」で肉食かどうかは解らないけど、武闘派って意味では肉食なので、ある意味正解かも。
「ちょっと、その部屋には遊びに行きたくないなぁ~」
「・・・コイツはダメだ。話してるだけで疲れる。
源くん、バトンタッチ。部屋の手配して」
僕は、土方さんと由井さんのヤリトリに口を挟めないまま、「土方さん1人に対して、男子が3人とはどんな状況?」と妄想していた。
「えぇっ?僕が手配すんの?4人で1部屋??」
「はぁ?そんなわけないでしょ。
わけの解んないこと言ってると、私か櫻花ちゃんに殺されるよ」
「・・・だよね」
僕と真田さんの2人旅の状態で「宿で受付をする由井さん」に遭遇していたら、由井さんの暴走を覆せずに2人で同じ部屋に押し込められていたかも。2人旅の時にこの宿場町に来なくて良かった。
「え~と、団体部屋でベッド3つと土方さん用の一部屋、
もしくは、個室4つでお願いします」
「部屋分けちゃったら、ァタシゎ誰の部屋に遊びに行けばイイの?
メンドイから、4人一部屋でイイよね?」
「良くないです。そんな雑な理由で部屋割りを決めないでね」
普通に宿の手配をする場合の5倍くらいの時間がかかりました。藤原くんと鷲尾くん「おっせ~なぁ」「アイツ等なにやってんだ?」「宿の手配も満足にできねーのか?」と文句言いながら宿の外で待ってるんだろうな。
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