21-1・それぞれの報告
藤原くん達が帰ってきたのは、僕達が帝都に戻った2日後の昼過ぎ、つまり予定より1日遅かった。
僕と真田さん、居残り組の吉見くんと沼田さんは小遣い稼ぎの為に、冒険者ギルドで簡易な依頼を受注していたので、夜になってから屋敷の広間に全員集合をする。皆、一様にトロールやオーガの討伐をしたことに驚いてくれた。
「尊人くん、トロールの時はあたしが戦いやすいようにフォローしてくれたし、
オーガなんて1人で瞬殺しちゃったんだよ!」
僕としてはあんまり追求して欲しくないんだけど、真田さんがアピールをしまくっている。
「あの・・・真田さん?オーガを倒したのは事実だけど、瞬殺はしていないよ。
それに、ブラークさんのおかげだし・・・」
トロール討伐ではブラークさんが地の利を確保した上で、僕と真田さんが攻めるタイミングを指揮してくれた。オーガ討伐では、ブラークさんが最初のヘイトを引き受けてくれたおかげで、容易に接近をできた。
「その人って何者?信用して良い人なのか?」
吉見くんが疑問を呈してきた。
「私もそこはちょっと疑問だね」
「源くんは心酔してるみたいだけど、大丈夫なの?」
土方さんと沼田さんも同調する。
「悪い人じゃなさそうだけど、全部を信用できるって感じじゃないんだよね」
真田さんが警戒心を示す。真田さんは智人や目黒くんの危険な発想も言い当てたことがある。だから、真田さんに指摘されると、ちょっと不安になってしまう。
「・・・大丈夫だと思うんだけど」
ブラークさんは無償で何度も助けてくれた。だから信じたい。
「オマエさ・・・そのブラークって奴が、オマエ以上のマヌケだと思うか?」
藤原くんが呆れ顔で追及をしてきた。
「ブラークさんは間抜けな人なんかじゃないよ」
「だったら、あきらかにおかしいだろ。
オマエほどアホではないのに、無償で西の宿場町まで同行して、
3つの達成報酬や洞窟で獲得したお宝は全てオマエに提供したのか?
何か魂胆があると考えるべきじゃねーのか?」
「ふーみん、尊人くんはマヌケじゃないよ!お人好しって言ってよ!」
「早璃ちゃん、フォローになってないよ」
真田さんがフォローしてくれるんだけど、そこは聞き流してしまうくらい藤原くんの主張には説得力がある。ブラークさんのことは信頼してるけど反論ができない。
「オマエが1人で騙されんのは構わねーけどさ、
中坊(早璃)まで巻き込んでんだぞ」
「ちょっと待ってよ!あたしはちゃんと警戒してるよっ!」
「無警戒の奴と一緒になってれば変わんねーだろ!?」
「ふーみんは余計なこと言わないで!
あたしが尊人くんのぶんも警戒するから大丈夫!」
「オマエはマヌケの母親かよ!?
おい、源!なんか言えよ!中坊にバカにされてんぞ!」
「あたしはバカにしていないっ!」
真田さんのフォローはありがたいんだけど、ここは藤原くんの言ったことに賛成かな。同級生の女の子に保護者になってもらうのは、男としては、ちょっと情けない。・・・ってゆーか、なんでいつの間にか真田さんと藤原くんが喧嘩してる?
「うん解った。これからは、もう少し警戒するね」
全部を納得できたわけではない。でも、僕自身が「優しすぎるブラークさん」に疑問を感じていたのは事実だ。疑うわけじゃないけど、今後はもう少し「隣に立とうとしてくれる人」の安全を優先させて対応しようと思う。
「仁美ちゃん達はどうだったの?なんか収穫あった?」
ちょっと空気が重いので、沼田さんが気を遣って話題を変えてくれた。
「多分、東都市の騎士の中に同級生がいるっぽい。
『絶対』とは言えないけどね・・・」
東遠征組(藤原くん&近藤くん&土方さん&隣のクラスの鷲尾くん)の帰宅が一日遅かったのは、東の宿場町では何も情報が得られず、東の都市アーズマまで足を伸ばした為。
「一泊して町の散策をするつもりだったのにさ、
朝になって宿から出た途端に青騎士達に囲まれちゃって」
サファイ騎士団の秘境者狩りに遭遇したらしい。
「騎士の中に同級生がいたの?」
「いや、それっぽいのはいなかったよ」
東遠征メンバーはサファイ騎士団に正体がバレていない。それなのにピンポイントで秘境者狩りに出会したのは、藤原くん達を知る人がサファイ騎士を差し向けたから。本人が接触をしなかったのは、藤原くんや近藤くんを恐れたから。東遠征メンバーは、そう判断したのだ。
「ふーみんとこーちゃんは、おっきくて歩いてるだけでも目立つもんね」
「腹立つ!俺等に用があるなら、本人が顔を出せってんだ!」
交戦状態になって先鋒は蹴散らしたけど、後続が押し寄せてきてキリが無かったので、藤原くん&土方さん&鷲尾くんが軍馬を、近藤くんは2頭立てのチャリオットを奪って逃走をしたらしい。
「ああ・・・なるほど。それでお屋敷の前に馬と戦車があったんだ?
旅の為に買ったのかと思ってた」
トロール&オーガ討伐より凄いんじゃね?さすがは、運動神経トップクラス&武闘派の4人。行動が肉食すぎると言うか、やることが豪快すぎて、僕と真田さんの頑張りが霞んでしまったよ。
「さすがに4人では青騎士共の制圧はできん。今の倍の戦力は欲しい」
「近藤くん・・・趣旨が変わってるよ」
やっと近藤くんが喋ったと思ったら、凄く物騒なことを言ってる。藤原組の目的って、東都市を乗っ取ることだったっけ?
いずれにせよ、アーズマでの仲間集めは簡単にはできそうにないことが判明した。




