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20-4・オーガ討伐

 集中力を使い果たした真田さんはダルダルでグロッキー状態。ブラークさんは洞窟内を物色している。


「ミコト、来てみろ」


 ブラークさんに呼ばれたので行ってみたら、一角に武器や鎧や宝石が転がっていた。トロールは財宝を集める趣味があるらしい。


「このダガーは使えるぞ」


 柄と刀身に宝石が埋め込んである大きなナイフだ。


「この宝石って?」

「魔石だ。それを使えば、敵の体内に攻撃魔法を流しやすくなるだろう」

「おおっ!真田さんの護身用に使えそうです。

 魔石が埋め込まれた剣とか鎧とかミサイルを撃てる盾とか無いですかね?」

「無いな」

「・・・そうですか」

「オマエはこれを使え」


 ブラークさんが差し出したのは宝石が付いたネックレスだった。


「これも?」

「魔石だ。サリには胸当ての魔石があるから、装身具の類いは不要だからな」

「ネックレスかぁ・・・僕には似合わなそう」


 ネックレスなんてぶら下げて帝都の仲間達のところに帰ったら「急にイキりだした」とバカにされそうだ。


「そうではない。剣に縛り付けておけ。

 そうすれば、今よりは魔力伝達が流暢になる」 

「ああ・・・なるほど」


 高値で売れそうなものを集めて袋に詰め、グロッキー中の真田さんをおんぶして洞窟から出て、獣道の斜面を降りる。


「一度、宿場町に戻って休みませんか?」


 早々にオーガ捜索をしたいんだけど、真田さんがこの状況では、連戦はできそうにない。


「あたし、まだ戦えるよぉ~」

「無理でしょ」

「無理だな。トロールを爆殺したのは見事だが、張り切りすぎだ」

「だぁ~ってぇ~・・・魔法が強くなって嬉しかったから・・・

 でも、まさか太いオッサンが爆発するとは思わなかった」


 トロールのフィニッシャーは真田さん。僕はヘイト集めには成功したかもしれないけど、戦力的にはほぼ役に立っていない。討伐できて嬉しい反面、「これで良いのか?」と感じてしまう。


「・・・待て。身を隠せ」


 ブラークさんが制止をかけて大木に隠れたので、慌ててその後ろに隠れる。


「げっ!マジで?」


 街道付近の森を、ざんばら髪で、赤い肌をして、身長が僕の1.5倍くらいありそうなニイチャンとオネエサンが歩いている。


「食人鬼のオーガオーグリスだ」

「2人もいるんですか?・・・聞いてない」

「聞いていないから『雄だけ倒して雌は放置する』と言う選択肢は無い。

 帝都のギルドに『依頼内容が合わない』と差し戻すか、

 文句は後回しにして纏めて倒すか・・・どちらかだ」


 話していて解った。「片方だけ倒す」って選択肢が無い以前に、「宿場町に戻って出直す」って選択肢も無い。


「2匹を同時に相手にするのは厳しい。オマエが請け負ったのは1匹の討伐。

 そこは汲もう。オーグリスは俺が倒す」


 つまり、真田さんをアテにできない状況で、今から僕がオーガを倒さなければならない。ニイチャンが上半身裸なのは良いとして、オネエサンまで上半身が丸出しなのはちょっと困る。オーグリスを任されたら目のやり場に困って相手をちゃんと見られないだろうから、ブラークさんが担当してくれるのは助かった。


「尊人くん・・・あたしも戦えるから」


 背負っている真田さんが、僕の正面に回した手に力を込める。


「真田さんは無理しないで休んでいて」


 ヘタレな僕だけど、一応、プライドはある。トロール討伐が真田さんの独壇場だった。ドンドンと置いて行かれるみたいでのは悔しい。ちゃんと、隣に立ってもらえるくらいには僕も頑張りたい。


「だけど代わりに・・・特殊能力を貸してもらっても良い?」

「・・・うん」


 真田さんを地面に下ろして、剣を装備して、先ほど獲得した魔石のネックレスを柄に巻き付ける。


「僕はオーガ討伐に集中します。

 ブラークさんなら、真田さんを守りながら戦えますよね?」

「ああ、任せろ」


 昨日の夜の「盾を使った回避」をイメージする。オーガは中華包丁みたいな大きな剣=ファルシオンを持っている。強いんだろうけど、ブラークさんより強いってことはないだろう。


「いいな、ミコト。恐怖心は悪いことではない。

 臆病を慎重さという長所に変え、『自分はできる』と信じて戦え」

「はいっ!」


 ブラークさんと並んで斜面を駆け降りる!ブラークさんは一定の距離まで進んだところで、抜刀をしてマジックソード・旋を発動!渦を巻いた気流が大木の枝や細い木を吹き飛ばしながらオーガ達に襲いかかって、初動を遅らせ、且つ、ヘイトをブラークさんに集める!


「わぁぁぁっっっ!!」


 動きを止めた2人のうちのオーガに向かって突進!渾身の横凪を振るうが回避をされてしまう!


「ガォォッ!」


 オーガが剣を振り上げた!


「ピークエクスペリエンス発動!」


 途端に、「オーガがどう剣を振り下ろすか」を本能が察知する!後に避けたら攻撃が遅れる!退くんじゃなくて、飛び込みながら回避したい!

 振り下ろされた切っ先に鉄の盾を当てる!しかし、ぶつけすぎてしまい、力負けをして蹌踉け、慌てて引いて間合いを空ける!


「盾のわん曲を利用して・・・力を外側に逃がすっ!」


 ただの偶然だけど、昨日のホブゴブリン戦ではできた!あの時の、敵の攻撃を滑らせる感覚を思い出せ!トロールみたいな巨大モンスターが振るう棍棒を受け流すのは無理だけど、身長差1.5倍くらいのニイチャンの剣ならできるはず!真田さんの力が僕を助けてくれる!


「わぁぁぁっっっ!!」


 雄叫びを上げ、勢い良く飛び込んで、オーガが振るった剣と平行に近い角度で盾を当てる!僅かに力負けをしたけど、さっきよりはマシ!オーガの刃は盾の表面を滑り、僕は横に弾かれるけど、直ぐに体勢を立て直してオーガの懐に飛び込み、剣を突き刺した!


「マジックソード・電気っっ!!」


 もちろん、僕が発するのはブラークさんのマジックソードと比べて遥に低次元の偽物。気合いを込めるために、ブラークさんのマネをしただけ。真田さんが扱う魔力電流の超劣化盤なんだけど、剣に巻き付けた魔石が補助をしてくれるおかげで、オーガの体内に届いて麻痺をさせた!


「ひぎゃぁぁっっ!」


 オーガほどじゃないけど、僕も麻痺をして剣を握れなくなった。次の一振りでトドメって思ってたのにカッコ悪っ。真田さんは、銀の胸当てで魔力ダメージが軽減されるんだっけ?忘れてた。

 仕方が無いので、タックルでオーガを倒して、真田さんに渡すつもりで腰布に挟んでおいたダガーを握り締めてオーガの胸に突き刺し、再び魔法の電流を発動した!


「グガ・・・が・・・が」


 オーガの悲鳴が小さくなって、やがて途絶えた。もう動かない。倒したかな?

 真田さんに渡すつもりのダガー、性能が良いみたいで、電気が僕に逆流しなかった。これ、欲しい。


「ブラークさんは?」


 要らない心配だった。オーガの雌は既に炭になっていて、ブラークさんは真田さんの傍に立って僕を眺めている。


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