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20-2・宿場町の夜

 ・・・で、盾の使い方をマスターして、「どんな敵でもかかって来いやっ!」なんて都合の良い展開になるわけがない。

 ブラークさんが7割引くらいの手抜きをして剣を振るっていた時は「剣の動きを良く見て、盾で弾いて懐に飛び込む」ができたんだけど、5割引きくらいの本気度になったら、盾で剣を弾いたつもりなのに体勢を崩され、最後にちょっと本気を出してもらったら、剣を弾くために盾を翳すのに、剣が盾を避けて振られる。・・・訂正、いくら鞘に収めたままの剣とは言え、ブラークさんが本気になっていたら、今頃、僕の顔は原形が無くなっている。全部、寸止めをしてくれたので、ブラークさんは本気を出していない。


 ブラークさん曰く「剣に盾を当てすぎ」「表面のわん曲を利用して刃先を滑らせて受け流せ」らしい。・・・ってゆーか「わん曲を利用」とか言われても、まだちょっと意味が解らない。いや、意味は解るんだけど、どうやれば実践できるのか解らない。

 まぁ、ブラークさんが「初日から上手くできるわけが無い」「相手を良く見て、徐々に慣れろ」と言ってくれたので、幾分かは気持ちが救われた。


「ねぇねぇ、尊人くん、見てよっ!」


 真田さんの掌から火の玉が発せられて、5mくらい離れた大木に着弾して樹皮を黒焦げにした。真田さんが魔力を発すると銀の鎧の真ん中に埋め込まれた魔石に集まって増幅されて、真田さんが呪文を唱えると胸の魔石から腕輪の魔石に魔力が伝達され、魔法になって掌から発せられるらしい。最初に聞いた時は、ちょっと意味が解らなかった。聞き直して理解はできたけど「真田さんの鎧がハイスペックすぎてズルい」って思っちゃった。


「こんなのもできるよ」


 真田さんが大木に触れて「やぁ!」と気合いを入れたら、軽い爆発音がして、魔法の電流で樹皮を吹っ飛ばした。今までの数倍の威力でモンスターを麻痺させることができるらしい。そんな電流を流したら真田さんも感電しそうだけど、銀の胸当てが魔法ダメージを軽減するので、真田さんは「ちょっとピリピリするだけ」らしい。


土方ひとみんみたく、連射したり、木をヘシ折るのは、まだ無理っぽい。

 ちょっと悔しいな」

「いきなり土方さんの特殊能力並みの魔法を使ったら、土方さんが泣くってば。

 ・・・てゆーか僕が悔しすぎて泣きたい」


 僕は「初日から上手くできるわけが無い」なんだけど、真田さんは「初日だけで大幅に戦力アップ」をしやがった。ちなみに、火の玉を飛ばす以外の魔法は使用不可能なわけではなく、暗記をしていた呪文が火の玉しかなかっただけ。火を龍の形にして撃つ魔法は呪文が長すぎたので忘れてしまったらしい。つまり、呪文を覚えれば、もっと色んな魔法を使えるようになる。


 創作物全般あるある(再々確認)

 美少女キャラは優遇され「露骨なキャラ補正」という神スキルを発動させる。「何故、そんなに優遇されるのか?」の理由は、「作者が贔屓しているから」としか説明できない。



 部屋は、ブラークさんが「明日に備えてゆっくり休め」と個室を3つ手配した。しかも、宿泊費はブラークさんが負担をしてくれた。さすがに申し訳ないので断ったんだけど、「これも何かの縁だから気にするな」で済ますんだから凄すぎる。騎士様ってそんなに給料が良いのだろうか?


「・・・落ち着かない」


 1人部屋でゆっくりできるのはありがたいんだけど、明日のトロール討伐&オーガ討伐を考えると居ても立ってもいられない。ぶっつけ本番すぎる。付け焼き刃にすらなっていない盾の技術で、どう戦えば良いのだろうか?


「ブラークさんに相談したい」


 だけど、部屋に行って「明日はどうしましょう?」は情けない。


「よし、お風呂に誘ってみよう!」


 前回の滞在時には、アンさん達の所為でのんびりできなくて利用しなかったが、西の宿場町ミドオチスには露天風呂がある。ブラークさんと一緒に湯に浸かりながら、それとな~く話を切り出そう。

 早速、ブラークさんの部屋に行って、扉をノックする。


「・・・ありゃ?」


 反応無し。外出中?それとも、もう寝ちゃった?仕方が無いので、1人で露天風呂に行く。


「・・・マジか?」


 男性用の狭い室内風呂があり、その先に大きな露天風呂があった。ただし、混浴だ。いきなり混浴に行く度胸は無いので、とりあえず室内の狭い浴槽に入る。


「こ、これって・・・絶対“あるある”が発動するパターンだよね?」 


 ラブコメあるある

 混浴と知らずに露天風呂に行って、ほぼ100%の確率でヒロインと鉢合わせる。同姓と思って「いい湯ですね」と声をかけたらヒロインだったり、互いにモロに裸を見るなど、お約束パターンは数種類ある。普通ならしばらくは口も聞いてもらえなくなりそうだが、「主人公が大量の鼻血を出しながら失神をして露天風呂に沈む」という荒技を使えば、裸を見た罪はチャラにしてもらえる。


「せっかく露天風呂があるんだから行きたいけど・・・

 ホントに真田さんがいたらどうしよう?

 不可抗力で許してもらえるかな?」


 一応は年頃の男子なので興味が無いわけがない。室内風呂から出て、身を隠しながら露天風呂を眺める。


「・・・・・・あれは?」


 女の子達が「きゃっきゃ」とはしゃぐ黄色い声が聞こえる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 アンさんとその他の6人。計7人の御令嬢が入浴をしてるっぽい。湯煙の影響でよく見えないってのもあるけど、個性を表す色違いのドレスを着ていないと、誰が誰だか解らない。

 一応は年頃の男子なので、もちろん興味はある。だが、この状況で露天風呂に行くのは、肉食動物7匹の中に飛び込む自殺行為に等しい。あっという間に骨だけにされてしまいそうだ。


「・・・露天風呂はやめよ」


 明日に備えてさっさと寝ることにして、浴室から出る。


「・・・あ」

「尊人くん、お風呂終わったところ?」

「・・・うん」


 ちょうどお風呂に入りに来た真田さんと鉢合わせる。


「ねぇねぇ、露天風呂どうだった?」

「混浴だから行かなかった」

「げっ!マジで?混浴なの?なら、行くのやめよ」

「うん、その方がいいね」


 内心では「真田さん、来るのが遅いよ」「いや、僕が早すぎた?」「これからお風呂に入ると言うべきだったか?」「いやいや、7人の令嬢がいるんだから、どのみち混浴には行けないだろ」等々、訳のわからない自問自答と若干の後悔をしながら、浴室に入る真田さんを見送って自室に戻った。



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