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20-1・盾の使い方

 ただでさえ戦いが苦手な僕が、ブラークさんから一本を取るなんて無理に決まっている。ブラークさんは、僕に「戦いから身を引け」と言いたいのだろうか?


「てっきりオマエは『平穏を望む』と思ったからな。

 安全の確保さえすれば良いと思っていた。

 だが、戦いに身を置くなら話は別だ」


 大ハンマーを地面に下ろしたブラークさんに見詰められる。睨み付けるのではなく、蔑むのでもなく、勇ましいけど優しい目だ。言葉は少ないけど、戦い方を教えてくれているのが解る。


「今の交戦で何か気付けたことはあるか?」

「ブラークさんが強すぎるってことくらいしか・・・」

「質問を変えよう。

 シールドを持った三度の突撃で、最も上手く機能したのはどれだ?」


 回避をされた1度目と。盾ごと弾き飛ばされた3度目は論外。消去法で、2度目しか盾が機能していない。


「『シールドの機能』に限定すれば、2度目の突撃だけ。

 しかし、全身をシールドに隠していた1度目以外は腰が退けていた。

 だから、アッサリと足払いにかかり、力業で弾かれた」


 指摘されて初めて気付いた。「完全に盾に隠れている」を放棄したことで、ブラークさんの攻撃が恐くなって、攻めているのに逃げ腰になっていたのだ。


「数日前までは、争いとは縁の無い平凡な日常を送っていたのだろうからな。

 戦いに恐怖するのは当たり前だ。

 だからオマエは、シールドの使い方を解っていない」

「防御の為に使うんじゃないんですか?」

「オマエはサリを前線に出すことしか考えていない」

「・・・・・・・・・え?」


 ちょっと待って欲しい。僕が真田さんを危険に晒しているってこと?その言葉は、僕自身がダメ出しをされるどんな言葉よりもショックだ。


「サリに攻撃をさせる為に盾となって道を開く。そう考えれば勇ましく聞こえる。

 だが、実際にはオマエ自身は盾に身を隠して安全圏にいる」

「でも僕は、ちゃんと真田さんを守って・・・」

「オマエの意思でサリを見捨てていないことは解る。だが結果はどうだ?

 無防備なサリを守る為に対応が遅れるのではないか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 指摘通りだ。西都市セイの近郊で初めてホブゴブリンを倒した時、そして一昨日のトロール戦、僕は慌てて真田さんを庇うことしかできなかった。トロール戦では、藤原くん達がいなければ、僕と真田さんの命運は尽きていた。


「だから『オマエは頑張っていない』『このままではサリも死ぬ』と言ったのだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ショックだった。ずっと、真田さんに危険を押し付けたまま、自己満足な戦いをしていた?


「今まで生き存えたのは、強い敵に遭遇をせずに済んだから。

 シールドアタックが有効なのは、コボルトやゴブリンのような小柄な敵だけ。

 ホブゴブリンすら弾き飛ばせない」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「そんな脆弱な戦闘手段で、トロールやオーガとどう戦うつもりだ?」


 トロールやオーガとの戦闘なんて考えていなかった。成り行きで討伐の依頼を受けてしまっただけ。避けられるなら避けたい。

 だけど・・・「真田さんを危機に晒し続けていた」と言われて、このまま改善をせずに済ませたくない。


「だったら・・・僕はどうすれば?」

「シールドに隠れるのではなく、初手で攻撃をして、サリが攻撃体勢になる前に、

 オマエが敵のヘイト(注目)を買わなければならない」

「シールドを捨てて攻撃に専念する・・・?」

「それでは今まで以上に腰が退けて、オマエの攻撃など当たらないだろうな。

 臆病を敵にするな。慎重はオマエらしさだ。『らしさ』を捨てずに考えてみろ」


 ブラークさんは「盾を捨てる必要は無い」と言っている。もう一度、盾の講釈を考える。ブラークさんとの模擬戦で盾が機能したのは2度目の突撃だけ。盾で剣を弾いたけど、同時に自分で視野を塞いでしまい、且つ、足元がガラ空きになって足払いに対応できなかった。


「・・・あれ?そう言えばあの時も?」


 先ほどのホブゴブリン戦では、ホブゴブリンが振るった大剣の刃先が甲羅の盾の滑らかな表面を滑った。そのお陰で、盾で受けた衝撃の半分が外側に流れ、僕は弾き飛ばされたり足を止められたりせずに突撃ができた。


「そういう・・・ことか」


 ブラークさんへの1度目の突撃が回避されたのは、対戦相手をちゃんと見ない僕への警告。3度目の突撃を弾き返されたのは、「攻撃を受け止める為に盾を使ったら、足が止まる、もしくは弾き飛ばされて、次の動作ができない」という指導。「どうすれば良いか?」の答えは、2度目の突撃と、さっきのホブゴブリン戦にあった。ブラークさんはヒントをくれていたんだ。


「甲羅の盾じゃ、重くて素早く動けないし、僕自身の視野を塞いでしまう」


 僕は、シールドアタックに慣れすぎていた。でもそれじゃダメなんだ。甲羅の盾を捨て、直径50~60㎝くらいの鉄の盾を装備する。


「そうだ、それで良い。

 盾は『受け止める』という防御にも使えるが、それでは攻撃ができない。

 『受け流す』という回避で攻撃に転ずる為の装備だ」


 先ほどブラークさんに「持って来い」って言った鉄の盾、ブラークさん自身がゴブリンから奪った大きなハンマー、どちらも売るためではなく、僕を学ばせる為の教材だったんだ。


「ほぉ・・・顔つきが変わった。いい顔になったな」


 褒められるのは苦手だけど、この褒め言葉はチョット嬉しい。



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