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18-2・土方さんと鷲尾くん

 昼食後、再び町の外に出て、今度は土方さんと鷲尾くんに指南を受ける。


「先ずは、私の特殊能力ね」


 土方さんが森の入口から15mくらい離れて大木を睨み付けた。


「富醒!ファイヤーウインドミル!!」


「ウインドミル?風車?」

「ソフトボールの投法ね。

 特殊能力の名前でウインドミルを指定してるからかな?

 スリングショットやエイトフィギュアでも試したけど、

 ウインドミル以外では発動しなかったの」

「・・・なるほど」


 納得するフリをしたものの、スリングショットとエイトフィギュアが何のことやら解らない。


「よ~く見ていてね」


 土方さんは、お腹の前で両手を組み、右足を引いて両手を胸の位置まで上げながら前傾姿勢になって、駆け出すかのように右足を前に出しながら左腕を後ろ回しで一回転させる!左手が火に包まれ、下手投げで火の玉が前に飛び、15mくらい離れた大木に炸裂!大木が倒れた!


「今の・・・なに?魔法?」

「源くんって魔法使えるんだっけ?魔法って、こんなふうに飛ばすの?」


 僕が使う魔法は、掌に溜めて敵を触って直接攻撃をするレベル。魔法と呼んで良いかどうかすら怪しい。


「魔法、ちゃんと使えないから解んない」


 土方仁美ひじかた ひとみ。出席番号27番。ソフトボール部の2番手ピッチャー。セミロングくらいの髪をリボンで纏めており、髪は染めているわけではなく、地毛がちょっと赤茶けている。赤いリボンが好きなので「ねこ娘」という渾名が付いた。織田櫻花おーちゃんと同じグループ。スポーツ全般が得意。勉強の成績はクラスの真ん中くらい。


「もっと離れても火を飛ばせるの?」

「うん、飛ばせる。

 でも、色々な距離を試したんだけど、今くらいの距離が命中させやすいかな」

「ソフトボールのマウンドからキャッチャーまでの距離くらい?」

「まぁ、そうなんだけど、マウンドじゃなくて、ピッチャーズサークルね。

 そこ、野球とは違うから間違えないよーに!」


 倒れている大木に寄って行って、破壊断面を確認してみる。太い幹が焦げて焼き切れている。触ってみたら熱い。


「左手、燃えてたね。熱くないの?」

「うん、熱くない」

「なんで?」

「よく解んないけど、手から放れてから熱くなるみたいだよ」

「へぇ・・・不思議~」

「てゆーか、木をぶっ壊すくらいの火力が、手にある時点で熱かったら、

 1回投げるだけで大火傷しちゃうでしょ」


 そりゃそうだ。攻撃でダメージを与えるメリットより、自分がダメージを被るデメリットの方が大きかったら、使い物にならない。その辺は都合よく考えよう。


「今のはストレートなんだけど、ライザーやドロップもできるよ」


 ドロップはボールが落ちること?そうすると、ライザーはボールが浮き上がることかな?僕の場合は、狙ったところに真っ直ぐ投げられるかも怪しいのに、駆け引きの投法なんて覚えても使い熟せないだろう。


「近藤くんから聞いたんだけど、土方さんが脇坂くん達をやっつけたの?」

「うん、近藤くんに近付けないように牽制してもらって、こんな感じでね」


 土方さんがグルングルンと何度も右腕を後ろ回しにすると、その度に下手投げで火の玉が発せられて乱れ飛ぶ!


「投球に体重が乗ってないから、威力は落ちちゃうけどね」


 一発で大木を吹っ飛ばす破壊力は無いけど、幹の樹皮が削れ、枝が弾け飛ぶ。


「威力が落ちても凄いじゃん」


 僕にはコントロール無視で乱投できるこっちの方が使いやすそう。


「源、真剣だね」

「うん・・・まぁ・・・ここまで来ちゃったら、ヘタレてられないからね」

「ちょっと意外」

「そうかな?」

「だって、源は、ずっと櫻花おーちゃんが好きだと思ってたからさ」

「え゛!?」


 何でバレてんの?


「だから、真田絡みの駆け引きで闘争心上げてくるとは思わなかった」

「・・・・・・・・・・・・・・」


 なんだろ?僕にも何故なのかよく解らないんだけど、否定をすることもできない。



 続けて、鷲尾くんから指南を受ける。

 

 鷲尾和士夫わしお わしお。隣のクラス。サッカー部に所属。1年生の時は同じクラスだったけど、あんまり話さなかったので性格は良く解らない。勉強は苦手だけどスポーツは万能。


「鬼ごっこをしよう」

「ん?」

 

 急に平和的なゲーム?鷲尾くんは足が速いから捕まえられないってこと?


「富醒!アジリティ!!」


 鷲尾くんがやや腰を落として構え、「俺を捕まえてみな」と合図をした。とりあえず、飛びかかってみる。


「えっ?」


 鷲尾くんが全く動かないので「タッチした」と思った瞬間に姿が消えた!


「えぇっ!?」


 振り返って鷲尾くんを探したら、2人いた。


「分身の術!?どっちが本物?」


 戸惑って足を止めた直後に、目の前に3人目の鷲尾くんが出現して、「わっ!」と大きな声を上げた!


「ひやぁっ!」


 目の前に飛び込まれただけでも驚いたのに、大声で更に驚かされ、動揺で全身を硬直させて2歩後退する。


「わわっ!」


 直後に後から膝かっくんを喰らって、踏ん張りきれずに尻餅をついた。誰に背後に立たれたのか解らずに顔を上げたら、後から鷲尾くんに覗き込まれた。


「これが俺の特殊能力。把握できたか?」

「う・・・うん、なんとなく・・・ね」


 アジリティとは機敏性のこと。柴田くんの特殊能力・ブーストは直線的に急加速をして敵が構える前に懐に飛び込む特殊能力だった。鷲尾くんの場合は、切り返しながら素早く動き回ることで残像を残す能力ってことかな?


「土方さんと鷲尾くんは、僕と藤原くんが争うのをどう思ってるの?」

「どうって言われても・・・何でわざわざ喧嘩すんの?」

「ぶっちゃけ、面倒くせーって思ってる・・・かな」

「普通に仲良くすれば良いじゃん」

「・・・僕も本心ではそう思うんだけどね」


 僕と藤原くんの仲が悪いんじゃなくて、真田さんと藤原くんのギスギスに巻き込まれています。


「でも、どうせ戦うなら、虐殺されて終わりってのはやめてくれよな」

「私達は応援してるから、根性見せてよね」

「うん、ありがとう」


 千幸せんこう高校のラスボスにどんな魂胆や切り札があるのかは解らないけど、戦うって決めたんだから無様な敗北はしたくない。 


ファイヤーウインドミル

使用者:土方仁美

 ソフトボールの投法で火の玉を飛ばす。命中精度と破壊力が落ちるが連射も可能。熟練度が上がると破壊力が向上する。


アジリティ

使用者:鷲尾和士夫

 緩急を混ぜた素早い動きで残像を発生させる。熟練度が上がると残像の数が増える。

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