18-1・アーマーファンブル
近藤くんと沼田さんの特殊能力の凄さが解ったところで、新たな疑問・・・と言うか、メッチャ怖い疑問が湧く。
「藤原くんが『脇坂くんと我田さんを返り討ちにした』って言ってたよね?
近藤くんが真っ二つにして、沼田さんが直したの?」
隣のクラスの脇坂くんは近藤くんよりも大きくて、近藤くんよりも老け顔で、筋肉質な近藤くんと比べると、ちょっと太っている。我田さんは脇坂くんと同じクラスで、いつも一緒にいる。
2人とも藤原グループとあんまり仲が良くない。・・・と言うか、「同学年のボスは藤原くん」って空気を不満に思っているみたい。遠藤くんと加藤くんがちょっかいを出してボッコボコにされて、藤原くんがやり返したって噂もある。
だけど、この世界に来てまで、協力する気一切無しで啀み合ってるとは思ってなかった。
「俺が斬ったら即死させちまうからな。奴らが近付かないように牽制をしただけ」
近藤くんなら容赦なく真っ二つにすると思っていたので、比較的穏やかに済ませたのは意外に感じる。
「小うるさい連中など、後腐れ無く叩き切ってやりたかったんだが、
史弥に止められたんだ」
「・・・真っ二つにするつもりだったの?」
全然穏やかじゃなかった。近藤くん見た目通り怖い。
「直接ダメージを与えて追い払ったのは土方だ。
意図的に急所を避ける攻撃で戦意を喪失させてな」
元々、土方さんのことは、クラス内では櫻花ちゃんと同じグループってこと以外はよく解らないんだけど、この世界に来て「武闘派&肉食なんじゃね?」と印象が変わってしまった。
「早速、俺の特殊能力を使ってみろ」
「ありがとう。でもちょっと待ってもらって良い?」
近藤くんが倒したリザードマンの装備品を回収する。武器は1本がへし折られたので2本、盾は1枚が割れたので2枚、鎧は2領が切断されたので1領を獲得できた。
「何をしている?」
「持ち帰って売るの」
「セコいな」
「力石先生からの直伝だよ。
セコいかもしんないけど、僕はこうやって食い繋いできたんだよね」
「・・・そうか」
革の盾がひび割れちゃったから新しい盾が欲しいんだけど、この亀の甲羅みたいな盾はちょっと重い。鎧は僕が使っている革の鎧と比べて軽い代わりに軽装。・・・ってゆーか、ちょっとヌルヌルしていて装備したくない。
「盾、一つもらっても良い?」
「何で俺に聞く?」
「だって、近藤くんがモンスターを倒したんだから、近藤くんの稼ぎだよ」
「好きにしろ」
「剣、借りるよ」
リザードマンから回収した剣を装備する。
ところで、モンスターって、どうやって武器を仕入れているんだろ?お店で買うってのは有り得ないから、冒険者を倒して奪ったり、商人を襲って強奪すんのかな?そう考えると、前の持ち主に申し訳ない気持ちになってしまう。
「よし!準備完了。
特殊能力、貸してもらっても良い?」
「ああ」
「富醒発動!レンタル!!」
目の前に「Armor fumble」の文字と「剣で砕かれた鎧」が描かれたカードが出現して、リターンのカードと並んでいる。
「アーマーファンブル発動!」
刀身が僅かに輝いた。さっき近藤くんが発動させた時には気付けなかったから、多分、発動者しか「剣が特殊な力を持ったこと」に気付けないのだろう。
僕の熟練度と効果に制限がかかった状態で、どの程度の攻撃力が得られるのか解らない。いきなり、モンスター相手に実践をする度胸は無いので、大木を仮想敵にして剣を振るった!
「わぁぁっっ!」
まるで「おでんの大根を箸で切ってる?」って勢いで剣が太い幹を通過!大木は枝葉を揺らしながら倒れた!
「すごっ!大根みたいに切れちゃった」
「源、料理をしたことあるのか?」
「無いよ。なんで?」
「『大根みたいに切れた』と言ったからだ」
なんだろう?近藤くん、気にするところがちょっと変。
「解りにくくてごめん。僕が表現したのは良く煮た大根のことね」
「そうか。大根は美味いよな」
「・・・うん」
なんだろう?近藤くん、興味を持つところがちょっと変。とりあえず、近藤くんは大根が好きっぽいことが解った。
「僕、ニンジンは苦手」
「俺もだ」
「昆布巻き美味しいよね」
「ああ、美味いな」
近藤くんとは、ちゃんと話せば気が合うかもしれない。
この程度で打ち解けたとは思っていないけど、近藤くんの特殊能力を見せてもらってから疑問に感じていたことを聞いてみることにした。
「藤原くんは、近藤くんの特殊能力の凄さを知ってるのに、
僕に使わせてくれるんだよね?」
「ああ」
「なんで敵に塩を送るの?」
「知らん。俺は、史弥の希望通りにしているだけだ」
「藤原くんは自分が負ける可能性は考えないの?」
「何か史弥なりの考えがあるんだろうな。
奴は勉強は不得意かもしれんがバカではない。
そこは見間違うな」
「・・・うん」
近藤くんの回答は、明確に「藤原くんは負けない」と伝えている。
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