16-4・テーレベールの町
休んでいた建物から出て初めて知った。部屋にいて「静かな場所」とは思っていたけど、僕がいたのは、帝都の中心から西側に3~4㎞外れた立地の、少し大きくて古いお屋敷。
「宿じゃなかったんだね?誰かが買ったの?」
質問をしておきながら、「それは無いだろ」と感じる。森の中にある小屋くらいならともかく、この世界に来て数十日程度で町にあるお屋敷なんて買えるわけが無い。
「藤原君達が奪ったんだってさ」
「はぁ?」×2
沼田さんの言っている意味が解らない。どういうこと?・・・いや、まぁ、意味は解るんだけど、どういうこと?前に住んでいた人を追い出した、もしくは、○害して、勝手に住んでいるってこと?いくら異世界だからって、やることが豪快すぎるでしょ?
「詳しくは解らないんだけど、元々は盗賊の隠れ家だったみたい」
吉見くんの作戦で、藤原くんと近藤くんと土方さんで踏み込んで強盗をやっつけて、家捜ししたら財宝が隠してあったから、町を警備してる騎士さん達に通報して、全て主に返却して、その功績でお屋敷に住む権利を貰ったんだってさ。
「吉見くんの発案なんだ?なんか凄い。
そんな発想ができちゃうなら、そのうち起業でもしそうだね」
「私が合流した時には、もう藤原君達はこの家に住んでいて、
土方さんから『女子1人じゃ寂しいから来い』って誘われてね」
沼田さんは「複数の男子(しかも肉食系男子が2人)」と一つ屋根の下で生活することに抵抗があったが、土方さんが「男子が粗相をしたら私が滅ぼす」と言ってくれたので共同生活を決めたらしい。
「土方さんが一番豪快?ちょっと意外」
極悪な所行はしていなかったけど、「前に住んでいた人を追い出した、もしくは、○害」は、ある意味で正解だった。僕がそんなふうに豪快になれるとは思えないけど、少しくらいは見習いたい。
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帝都・テーレベールは帝皇アング(カイーライ・アング)が統治をするモーソーワールドの中枢。黄色い鎧を着た騎士団(トーバス親衛隊)によって治安を維持されており、黒騎士団や青騎士団でも、帝皇の許可を得ないまま戦うことは許されない。
言うまでも無く、全商業&全産業が発達している。北都市や西都市も大きかったけど、テーレベールはノスやセイの3~4倍の広さはある。
20分くらい歩いただろうか?繁華街と表現すれば良いのかな?人通りが多くて騒がしく、魔法の光で煌々と照らされお店が並んでいる。セイの町の中心も「夜でも明るい街」だったけど、ここは規模が別格だ。さすがは世界の中枢と言うべきか?
「あのお店だよっ!
お仕事が当たった時は、いつも、あのお店でご飯食べるの」
ご飯を食べるだけなのに、なんで町の中心近くまで行くんだろ?そこまで行かないとご飯屋さんが無いのかな?と思いながら歩いていたんだけど、沼田さんの発言でようやく理解した。
「藤原くん達がいるの?」
「うん、まだ食べてると思う」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕達は、藤原くん達の居るお店に案内をされていたんだね。
藤原くんと近藤くんは「住む世界」が違う感じがして殆ど喋ったことがない。彼等も、多分、僕のことなんて眼中に入れていない。女子とは何を話せば良いのか解らないので、土方さんとは一切接点無し。隣のクラスの鷲尾くんは、1年生の時に同じクラスだったけど、ちゃんと喋った記憶がない。要は、今から会うメンバーで、僕が普通に喋ったことがあるのは吉見くんだけ。
(帝都に来ればクラスメイト達がいるはずと期待していたけど・・・)
この世界に来て、人見知りなりに少しは成長できていると思う。率先してイニシアチブを取るのは無理でも、輪の端っこに入って助け合うくらいのコミュ力は鍛えられたと思う。だけど、まさか、いきなり校内での知名度トップ、ラスボス格の藤原くんと接触するなんて予想していなかった。しかも、藤原グループ№2の近藤くんまで一緒だ。
僕なんかが顔を出したら「場違い」って思われそう。チョット・・・かなり緊張する。藤原グループに所属している安藤さんのことなら、共通の話題にできそうかな?「安藤さんが会いたがっていた」と会話の取っ掛かりにできるかな?それとも、「しばらく安藤さんと共同生活してた」なんて言ったら殺されるかな?
「あっ!やっぱり、まだ食べてた!」
店の扉を開けて中に入ると、幾つかあるテーブルの1つを、藤原くん&近藤くん&吉見くん&土方さん&鷲尾くんで囲んでいた。
「絶対、まだいると思ったよ。
こーゆー時の藤原君、夜ご飯食べるの遅いんだよね~」
沼田さんが表現した「ご飯を食べるのが遅い」は、「食が細い」とか「のろま」って意味ではない。吉見くん&土方さんの前にはミルクか水の入った小さなコップが置いてある。だけど、藤原くんが持っているのは金属製の大きなコップ。北東村の宿屋や、今までに入ったご飯やさんで、大人が使っているのを何度も見たことがある。あれは、お酒を入れるコップだ。
「藤原くんは未成年なのにお酒を飲んでる?」
「うん、このお店に来ると、いつもお酒飲んでる」
「へぇ・・・凄いね」
お父さんが、時々、お酒を飲みながらノンビリと晩ご飯を食べるみたく、藤原くんは、お酒を飲んで喋りながらご飯を食べるから遅いんだ。
「おっ!新入りが来たぞっ!」
鷲尾くんが僕達の接近に気付いて皆に伝え、吉見くんと土方さんが手招きをする。
「ま~た、大人への背伸び・・・カッコ悪っ。
そんなんで大人になれたら誰も苦労しないっての」
僕は気が進まないけど合流をするつもりだった。沼田さんは合流をさせる為に、僕達をこのお店に連れてきた。だけど真田さんは、ボソッと文句を言って、サッサと空いている別のテーブルに着いてしまう。
「真田さん?」
「えっ?早璃ちゃん、行かないの?」
「あたしはここで良い」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
先ほど真田さんのことは「現実世界では周りと比べてちょっと子供っぽい」「近くに親友がいるから素を出している」と表現したけど、これはお子ちゃますぎる。
「尊人くん、あっちに行きたければ行って良いよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あきらかに「藤原くん達を無視」は違う。それくらい、人付き合いが苦手な僕でも解る。だけど、真田さんだけを放っておくこともできない。僕と沼田さんは困惑をして眼を合わせたあと、僕が「全員が同じテーブルに着くと狭くなっちゃうから」と吉見くんに「お断り」を入れて、真田さんの確保したテーブルに戻った。




