16-3・沼田さん
目を覚ましたらベッドの上だった。このパターンは2度目かな?1度目は真田さんのニードロップを喰らって・・・え~と、今回は・・・?
「尊人くんっ!」
枕元では、椅子に座った真田さんが僕の顔を覗き込んでいる。そんなにマジマジと見詰められると、なんか恥ずかしい。真田さん、目の代わりが少し腫れてるみたいだけどどうしたんだろう?泣いていたのかな?
「目覚めたの?良かった~」
体中が痛くて、直ぐには動けない。顔だけ動かして声のする方を見たら、この世界の質素なドレスを着た、セミロングヘアのクラスメイトが寄って来た。
「あれ?沼田さん?どうしてここに?」
「10日くらい前からテーレベールに住んでるよ」
「そっか・・・僕、帝都に来たんだっけ?」
沼田縫愛。出席番号23番。音楽部。クラス内では、多分一番穏やかで優しい子。でも男子と喋るのはちょっと苦手。勉強の成績は上の中くらい。
クラス内で、容姿トップスリーの真田さんが人気トップスリーに入っていない代わりに、誰からも好かれる沼田さんが「お嫁さんにしたい候補」として男子人気トップスリーに入っている。
真田さんが会いたがっていた真田さんの親友。多分、一番仲が良い。
「良かったね、真田さん。会えたんだね」
顔を真田さんの方に戻したら、真田さんは僕に背中を向けている。
「この子ってば、さっきまでずっと泣いてたんだよ」
「もうっ!言わないでよっ!」
「・・・ん?なんかあったの?」
「えっ?源くん、覚えてないの?
早璃ちゃん、大泣きしてたのに?」
「縫愛、言わないでってばっ!」
「・・・え~~~~と」
脳内を整理して、今に至る経緯を思い出す。
藤原くんと近藤くんがトロールと戦っていたので、援護をする為に真田さんと一緒に突撃して・・・真田さんが叩き潰されそうになったから盾で防いで・・・代わりに僕が叩き潰されて・・・
「あ~~~そっか・・・僕、死んだんだっけ?」
「・・・はぁ?」
真田さんが、やっとこっちを向いてくれた。
「死んでないでしょ!」
「源くん、まだ寝てる?」
真田さんの冷たいツッコミと沼田さんの呆れ気味のツッコミが、ほぼ同時に入る。
「あたしの代わりに攻撃を受けて、脳震とうを起こして気絶しちゃったの!」
「早璃ちゃんは源くんが死んだと思っちゃったみたいで・・・」
「そっか・・・僕、全然役に立てなかったんだ?」
「そうでもないよ。
尊人くんが隙を作ったおかげで、近藤がトロールを倒せたんだよ」
隙を作ったのは僕じゃなくて真田さん。僕は判断ミスをして慌てていただけ。ゴブリンくらいなら単独で倒せるようになって、少し強くなったつもりになってたけど、まだ全然ダメみたい。
「藤原くんと近藤くんは?」
「冒険者ギルドにモンスターやっつけた報酬を貰いに行って、
そのあとはご飯屋さんに行ってる」
当然なんだろうけど、帝都にも冒険者ギルドがあって、様々な依頼が入る。藤原くん達は「街道付近に出没するトロールの討伐」を請け負っていたらしい。
「他の人達も一緒だよ」
「他の人?」
「土方仁美と、吉見と、隣のクラスの鷲尾くん」
「凄い。そんなにいるんだ?」
予想してた通り、帝都には一定数の仲間達が集まっていた。
「おうかっち(織田櫻花)はいないみたい」
「・・・そっか」
「早璃ちゃん、その情報は要らないでしょ」
「一応、教えておかないとね」
僕は櫻花ちゃんに会えず、真田さんは親友と会えて、僕等のコンビは解消されるらしい。少し寂しい。「おーちゃんには会いたいし、真田さんとのコンビは続けたい」なんて変な欲張りを考えてしまったから、罰が当たったかな?
「でもさ、帝都広いし、合流してないけど帝都のどっかにいるかもしれないから、
探してみようよ」
「早璃ちゃん、なんでわざわざ自爆してんの?」
「縫愛、うるさい!」
何が自爆なのかは解らないけど、真田さんがドスの利いた声で沼田さんにツッコミを入れる。僕と2人だった時には聞かなかった声。・・・あれ?でも、たまにドスを利かせていたかも。
「真田さんと沼田さんはご飯行かなくて良いの?」
「早璃ちゃんはこんな調子だし、藤原くんが私にも『残れ』って言ったの」
「心配しすぎっ!付き添いなんてあたし1人で大丈夫なのにさ」
「どこが付き添い?泣いてただけでしょ」
「黙れ縫愛!」
現実世界で頻繁に見た「周りと比べてちょっと子供っぽくて雑」な真田さん。やっぱり、近くに親友がいてくれると、安心して素が出せるんだね。
「僕達もご飯に行こっか」
日は既に暮れている。僕は半日くらい寝ていたらしい。
「うんっ!行こうっ!なに食べるっ!」
「帝都に来たお祝いで、ちょっと美味しいの食べたいな」
「多分、美味しいのは高いよ。
あたしの夕食は尊人くんのおごりなんだけど、奮発しちゃって大丈夫なの?」
「・・・・・・ん?」
なんで僕がおごるの?「看病のお礼をしろ」ってことかな?
「気絶してて近藤におんぶされてたから解らないだろうけど、
あたしの方が先に帝都の門を潜ったからね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」
何か思い出してきた。トロールと遭遇する直前に、僕の負けが確定しているような競走を挑まれたんだっけ?
「え゛!?あの勝負、生きてんの?」
「もちろんっ!」
「ヒドクね?」
「勝負は勝負!」
「ホントに早璃ちゃんが先に帝都に入ったの?」
「もちろんっ!」
「家に来た時には、源くんを背負った近藤君の後を泣きながら歩いていたのに?」
「しゃべるな縫愛!」
藤原くんと近藤くんに聞けば、真田さんと沼田さんのどっちの証言が正しいかは、直ぐ解るだろう。だけど、そんなのはどっちでも良い。真田さんが僕を心配して泣いてくれたのが嬉しいから、お礼に夕御飯はおごります。
「・・・ただし、『凄い豪華』とかじゃなくて、
美味しさは平均的で、価格的にあんまり高くないご飯にしてね」
起き上がってみたら、まだ体中が痛い。だけど、ダメージによる痛みではなく、筋肉痛に近い。多分、盾でトロールの攻撃を受け止めた時に、全身の筋肉をフル稼動させたのだろう。
ダメージによる痛みは左腕だけ。袖を捲って確認したら痣になっていた。あとで道具屋さんに行って湿布用の薬草を買おうと思う。
「ありゃ~~~・・・これはダメだな。」
部屋の隅に立て掛けてあった革の盾は、真ん中が凹んで大きな亀裂が入っていた。長い間お世話になったけど、もう再利用はできそうに無い。僕の必殺技(?)はシールドアタックなので、盾が無いのは困る。新しいのを買うか、モンスターから強盗するか、どちらにしても新しい盾が必要だ。
「沼田さん、ご飯が終わったあとで良いから、
道具屋さんと武器屋さんを教えてもらっても良い?」
今日中に新しい盾を買うかどうかは決めてないけど、帝都の相場は知っておきたい。
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