表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/79

16-3・沼田さん

 目を覚ましたらベッドの上だった。このパターンは2度目かな?1度目は真田さんのニードロップを喰らって・・・え~と、今回は・・・?


「尊人くんっ!」 


 枕元では、椅子に座った真田さんが僕の顔を覗き込んでいる。そんなにマジマジと見詰められると、なんか恥ずかしい。真田さん、目の代わりが少し腫れてるみたいだけどどうしたんだろう?泣いていたのかな?


「目覚めたの?良かった~」


 体中が痛くて、直ぐには動けない。顔だけ動かして声のする方を見たら、この世界の質素なドレスを着た、セミロングヘアのクラスメイトが寄って来た。


「あれ?沼田さん?どうしてここに?」 

「10日くらい前からテーレベールに住んでるよ」

「そっか・・・僕、帝都に来たんだっけ?」


 沼田縫愛ぬまた ぬあ。出席番号23番。音楽部。クラス内では、多分一番穏やかで優しい子。でも男子と喋るのはちょっと苦手。勉強の成績は上の中くらい。

 クラス内で、容姿トップスリーの真田さんが人気トップスリーに入っていない代わりに、誰からも好かれる沼田さんが「お嫁さんにしたい候補」として男子人気トップスリーに入っている。

 真田さんが会いたがっていた真田さんの親友。多分、一番仲が良い。


「良かったね、真田さん。会えたんだね」


 顔を真田さんの方に戻したら、真田さんは僕に背中を向けている。


「この子ってば、さっきまでずっと泣いてたんだよ」

「もうっ!言わないでよっ!」

「・・・ん?なんかあったの?」

「えっ?源くん、覚えてないの?

 早璃ちゃん、大泣きしてたのに?」

「縫愛、言わないでってばっ!」


「・・・え~~~~と」


 脳内を整理して、今に至る経緯を思い出す。

 藤原くんと近藤くんがトロールと戦っていたので、援護をする為に真田さんと一緒に突撃して・・・真田さんが叩き潰されそうになったから盾で防いで・・・代わりに僕が叩き潰されて・・・


「あ~~~そっか・・・僕、死んだんだっけ?」

「・・・はぁ?」


 真田さんが、やっとこっちを向いてくれた。


「死んでないでしょ!」

「源くん、まだ寝てる?」


 真田さんの冷たいツッコミと沼田さんの呆れ気味のツッコミが、ほぼ同時に入る。


「あたしの代わりに攻撃を受けて、脳震とうを起こして気絶しちゃったの!」

「早璃ちゃんは源くんが死んだと思っちゃったみたいで・・・」


「そっか・・・僕、全然役に立てなかったんだ?」

「そうでもないよ。

 尊人くんが隙を作ったおかげで、近藤こーちゃんがトロールを倒せたんだよ」


 隙を作ったのは僕じゃなくて真田さん。僕は判断ミスをして慌てていただけ。ゴブリンくらいなら単独で倒せるようになって、少し強くなったつもりになってたけど、まだ全然ダメみたい。


「藤原くんと近藤くんは?」

「冒険者ギルドにモンスターやっつけた報酬を貰いに行って、

 そのあとはご飯屋さんに行ってる」


 当然なんだろうけど、帝都にも冒険者ギルドがあって、様々な依頼が入る。藤原くん達は「街道付近に出没するトロールの討伐」を請け負っていたらしい。 


「他の人達も一緒だよ」

「他の人?」

土方仁美ひとみんと、吉見と、隣のクラスの鷲尾くん」

「凄い。そんなにいるんだ?」


 予想してた通り、帝都には一定数の仲間達が集まっていた。


「おうかっち(織田櫻花)はいないみたい」

「・・・そっか」

「早璃ちゃん、その情報は要らないでしょ」

「一応、教えておかないとね」


 僕は櫻花おーちゃんに会えず、真田さんは親友と会えて、僕等のコンビは解消されるらしい。少し寂しい。「おーちゃんには会いたいし、真田さんとのコンビは続けたい」なんて変な欲張りを考えてしまったから、罰が当たったかな?


「でもさ、帝都広いし、合流してないけど帝都のどっかにいるかもしれないから、

 探してみようよ」

「早璃ちゃん、なんでわざわざ自爆してんの?」

「縫愛、うるさい!」


 何が自爆なのかは解らないけど、真田さんがドスの利いた声で沼田さんにツッコミを入れる。僕と2人だった時には聞かなかった声。・・・あれ?でも、たまにドスを利かせていたかも。


「真田さんと沼田さんはご飯行かなくて良いの?」

「早璃ちゃんはこんな調子だし、藤原くんが私にも『残れ』って言ったの」

「心配しすぎっ!付き添いなんてあたし1人で大丈夫なのにさ」

「どこが付き添い?泣いてただけでしょ」

「黙れ縫愛!」


 現実世界で頻繁に見た「周りと比べてちょっと子供っぽくて雑」な真田さん。やっぱり、近くに親友がいてくれると、安心して素が出せるんだね。

 

「僕達もご飯に行こっか」


 日は既に暮れている。僕は半日くらい寝ていたらしい。


「うんっ!行こうっ!なに食べるっ!」

「帝都に来たお祝いで、ちょっと美味しいの食べたいな」

「多分、美味しいのは高いよ。

 あたしの夕食は尊人くんのおごりなんだけど、奮発しちゃって大丈夫なの?」

「・・・・・・ん?」


 なんで僕がおごるの?「看病のお礼をしろ」ってことかな?


「気絶してて近藤こーちゃんにおんぶされてたから解らないだろうけど、

 あたしの方が先に帝都の門を潜ったからね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」


 何か思い出してきた。トロールと遭遇する直前に、僕の負けが確定しているような競走を挑まれたんだっけ?


「え゛!?あの勝負、生きてんの?」

「もちろんっ!」

「ヒドクね?」

「勝負は勝負!」


「ホントに早璃ちゃんが先に帝都に入ったの?」

「もちろんっ!」

「家に来た時には、源くんを背負った近藤君の後を泣きながら歩いていたのに?」

「しゃべるな縫愛!」


 藤原くんと近藤くんに聞けば、真田さんと沼田さんのどっちの証言が正しいかは、直ぐ解るだろう。だけど、そんなのはどっちでも良い。真田さんが僕を心配して泣いてくれたのが嬉しいから、お礼に夕御飯はおごります。


「・・・ただし、『凄い豪華』とかじゃなくて、

 美味しさは平均的で、価格的にあんまり高くないご飯にしてね」


 起き上がってみたら、まだ体中が痛い。だけど、ダメージによる痛みではなく、筋肉痛に近い。多分、盾でトロールの攻撃を受け止めた時に、全身の筋肉をフル稼動させたのだろう。

 ダメージによる痛みは左腕だけ。袖を捲って確認したら痣になっていた。あとで道具屋さんに行って湿布用の薬草を買おうと思う。


「ありゃ~~~・・・これはダメだな。」


 部屋の隅に立て掛けてあった革の盾は、真ん中が凹んで大きな亀裂が入っていた。長い間お世話になったけど、もう再利用はできそうに無い。僕の必殺技(?)はシールドアタックなので、盾が無いのは困る。新しいのを買うか、モンスターから強盗するか、どちらにしても新しい盾が必要だ。


「沼田さん、ご飯が終わったあとで良いから、

 道具屋さんと武器屋さんを教えてもらっても良い?」


 今日中に新しい盾を買うかどうかは決めてないけど、帝都の相場は知っておきたい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ