15-4・異世界あるある(能力開花)
冒険者ギルド(兼、酒場)に入って店内を見廻すけど真田さんはいなかった。セイの町やペイイスの村みたく何組ものパーティーで賑わっているわけではなく、ちょっと話し掛けにくそうな厳つい冒険者が数人いるだけだ。
「ミコト様、せっかくギルドに来たのですから、
西宿場町名物の能力覚醒水晶を試してみてはいかがでしょうか?」
「ん?・・・能力覚醒?」
「それは面白そうですわね」
黄色いドレスの令嬢(名前忘れた)が妙な提案をして、黒いドレスの令嬢(名前忘れた)が同意をした。
「あの水晶ですわ」
白いドレスの令嬢(名前忘れた)が奥のカウンターに置いてある水晶を指さす。
「あの・・・そんな悠長なことやってる余裕ないんですけど・・・」
若干興味はあるけど、真田さんを探すのが優先です。
「直ぐに済みますわ」
「数秒触れるだけで潜在能力が顕在化をして、しかも前世が解るのです」
緑のドレスの令嬢(名前忘れた)が勧め、青いドレスの令嬢・・・え~とドゥエさんだっけ?が僕の背を押して強制する。
「西の英雄様が水晶に触れた時は見応えありましたね」
赤いドレスのアンさん(唯一ちゃんと覚えた名前)が興味深いことを言った。
「え?西の英雄?・・・トモが?」
この宿場町は西の都市セイと帝都の間にある。智人が立ち寄ったとしても、何の不思議も無い。
「トモは、この水晶のおかげで、あんなに凄い特殊能力に目覚めた?」
急いでいるんだけど、数秒で済むならやってみても良いか?もの凄くショボい能力だったらどうしよう?でも、まぁ、元々ショボい能力しか持っていないから、今更ショボさが増えたってどうってことないか?興味を持った僕は、恐る恐る水晶に触れてみる。
ぱらららっぱらぁ~~~~~~~~~!!
水晶から軽快なファンファーレが流れた!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
カウンターの奥にいた耳の尖ったお姉さんが、真顔で寄って来た。え~っと、西都市にもいた人間とは別の生物。確か、エルフって種族だっけかな?そのお姉さんが、水晶を見ながらドスの利いた声で喋り始める。
「貴方の前世は、大魔王を滅ぼした古の勇者の42番目の恋人の子。
古の勇者の58番目の落とし胤。
しかし、その人生は順風満帆に非ず。
古の勇者が残した名誉と財産を奪い合う争いに巻き込まれて夭逝した悲劇の子。
貴方は、前世が成し遂げられなかったことを背負う宿命にある」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
とりあえず、「古の勇者」が女ったらしのクズで、子孫のことを全く考えてくれなかったことは解りました・・・が、僕には全く関係無いだろう。だって、僕は、この世界の住人ではない。現実世界の旧時代に、大魔王とか勇者なんて存在しないでしょ。
「貴方は、あくび1つで山脈を粉砕する能力が覚醒しました」
「・・・・・・・・・・・・・ああ・・・そうですか」
なんか、聞いてるのがバカバカしいくらい冷めてきた。現代社会のゲーセンの隅にある100円占いと同レベルの雑な占いみたい。朝の情報番組で公開している星座占いの方が、まだマシなんじゃね?
そう言えば、バクニーさんが「水晶玉に触れただけで才能が開花するような都合の良い儀式は無い」って言ってたっけ。
「あくびをする度に山脈が吹っ飛んだら、
この世界から山脈が無くなっちゃうってゆーか、この世界が滅んでしまうよ」
異世界あるある⑦
何らかの共有アイテムに触れただけで能力が開花する。アイテムではなく神官によるお告げの場合もある。努力をせずに手っ取り早く才能を開花させるのが目的なので、どんな原理で潜在力が開花をするのかは不明。だいたい神頼み(他人依存)。
「・・・あ、ありがとうございました」
鑑定料として銅化1枚を支払いました。ホントに智人はこの水晶に触れたのだろうか?こんないい加減な占いで能力が開花したとは思えないんだけど、なんて言われたのかは少し気になる。
「西の英雄様は、天地開闢神の生まれ変わり。
指先1つで天地を反転させる才能を開花させましたわ」
現実世界は神様が作ったわけじゃないし、神様は死なないでしょ?
「智人は、こんないい加減な“占いごっこ”を信じたの?」
「トモと言う名は存じません。
西の英雄様と名乗る御方は、本名をネヅと名乗っていました」
「・・・・・・・・・・・ん?ねづ??」
ヒーロー物あるある(アニメ、特撮、時代劇)①
話数がある程度進むと、ヒーローの偽者が登場する。
「もしかして、根津くん?こんな雑な占いを信じたの??」
「水晶に触れたら爆発をしたんです。
その際は、『神の生まれ変わり』『天地を反転させる』と告げられます」
「なんで壊れたの?落としちゃったんですか?」
「水晶は消耗品なので、キチンとメンテナンスをしておかないと
100回に1回くらい爆発をするのです」
異世界あるある⑧
能力開花アイテムはたまにブッ壊れる。潜在能力が高すぎて処理できずにブッ壊れるなら、能力は開花しないんじゃね?・・・と疑問を持ってはいけない。「そういうものだ」と思うこと。
「ちゃんとメンテナンスして下さい。
根津くんはどんな反応してましたか?」
「それはもう大喜びしていました」
「・・・信じちゃったんですか?」
「はい、もちろんです。
上機嫌で、『この町は俺が守る』と大変勇ましい表明をして下さったので、
私達7人は英雄様を繋ぎ止める為、英雄様の望み通りに身を差し出したのです」
「・・・・・・・うわぁ~・・・根津くん、英雄の名を語ってタカってたんだ?」
この場に真田さんがいなくて良かった。僕ですらドン引きしているくらいだから、真田さんが聞いていたら根津くんを見る目が変わっていただろうな。
「・・・ってゆーか、あれ?
根津くん、この町にいるんですか?」
「いいえ、いません」
「どこかに行っちゃったんですか?」
「今朝、亡くなりました」
「・・・はぁ?」
「私達7人を伴ってピクニックに出たのですが、
ゴブリンの集団に襲われて・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なんか話が繋がってきた。西の英雄(偽物)を語っていた根津くんは、いい加減な占いを信じて居丈高になり、この地でハーレムを築いた。そして、実際の実力が全く足りていないってことに気付かず、アンさん達を連れて宿場町の外に遊びに行って、ゴブリンに襲われて戦死。僕が合流をしたのは、根津くんを見捨てて逃げてきた直後のアンさん達だったってことね。
アンさん達と宿場町に戻らずに先に進んでいたら、根津くんを救出できた、もしくは、死に目くらいに会えたのかな?ちょっと申し訳ない気がするんだけど、根津くんの所行がショボすぎて、なんか微妙な気持ちになってしまう。
恋人を失った直後なのに、まるで無かったことのようにして僕に付きまとうこの人達(7人の令嬢)が怖い。
根津稔治。出席番号24番。テニス部。ちょっとお調子者だけど、爽やかで、女の子と話すのは平気なタイプ。勉強の成績は中の下くらい。
いい加減なことをするタイプとは思ってなかったんだけど、多分、この世界に来て、生き残る為に価値観を変えちゃったんだろうな。




