ゼミ友の国際結婚を応援する高橋さん
挿絵の画像を生成する際には、「Ainova AI」を使用させて頂きました。
最終面接にも合格して内定を勝ち取った私こと高橋ハヤヒは、学業に専念すべくまた大学に顔を出すようになったの。
卒論は曲がりなりにも目鼻が出来てきたけど、単位が足らないと折角の内定も無駄になってしまうからね。
だけど四回生ともなると誰もが就活やら大学院進学やらの進路に向けて動いているから、顔見知りと会う機会も自ずと限られてくるのが難しい所だなぁ。
「あっ、秋桜さん…」
だからこそ、同じゼミに在籍している台湾人留学生の馬秋桜さんと鉢合わせした時は、何とも懐かしい気持ちになっちゃったの。
「久し振り、高橋さん。先週の火曜の必修科目以来かしら?ゼミは内定式でお休みだったそうね。」
いつもと変わらない端正で理知的な面持ちではあるけれど、声のトーンは普段よりも弾んでいたように感じられたの。
きっと馬秋桜さんもゼミ友との久々の顔合わせを、それなりに歓迎してくれていたんだろうな。
だからこそ、秋桜さんは私をキャンパス内の喫茶コーナーに誘ってくれたんだと思うの。
「第一志望の出版業界に行けたなんて、良かったじゃない。無事に内定式も済ませて、後は卒論を書きながら残りの学生生活を悠々自適に満喫って感じかしら?」
「もっとも、私が受かったのは編集じゃなくて営業職だけどね。私に営業が務まるか、今から気がかりだよ。」
そう言って熱いカモミールティーで温められた息を軽く吐き出した私だけど、「残りの学生生活を悠々自適に満喫」って所に関しては正しく「我が意を得たり」という思いだったの。
後期には秋の大学祭とかテーブルマナー講習会とか色々ある訳だし、悔いなくやっておかなくちゃね。
「そう言えば、秋桜さんは就職どうするの?菊池君もいる事だし、やっぱりこっちで?」
この菊池君というのは、私や秋桜さんにとって共通のゼミ友である菊池八千夫君の事なの。
菊池君と秋桜さんは一回生の基礎ゼミで知り合った仲で、国際カップルとして学科内でも広く認知されていたんだ。
だけど秋桜さんの返事は意外な物だったの。
「ううん、私は卒業したら帰国して台湾で就職するよ。お父さんのコネがあってね。こないだの帰省で面接もしたんだけど、その時に上手く話が纏まったんだ。『留学経験もあるし日本語能力検定もある』って言ったら、先方さんも喜んでくれてね。」
「えっ、それじゃ秋桜さんの方が先に内定していた事になるじゃない!?」
上には上がいるとは、正しくこの事だよ。
「それはまた驚いたなぁ…じゃあ、菊池君はどうなるの?秋桜さんが関係を保とうとするなら遠距離恋愛になるけど…」
「そんな面倒な事はしないわよ。彼も一緒に台湾へ来て貰うわ。結婚するのよ、私達。」
この突然のカミングアウトには、私も絶句するしかなかったよ。
「け、結婚?!」
「こないだの帰省で菊池君を両親に引き合わせたんだけど、お父さんもお母さんも菊池君の事を気に入ってくれたわ。『うちは女の子しかいなかったけど、これで良い息子が出来たよ』ってね。神戸にお住まいの菊池君の御両親には半月前に挨拶へ行ったけど、鉄観音茶とマンゴーケーキを挨拶にお持ちしたら喜んで下さったわ。『色々至らない所はありますが、息子をよろしくお願いしますよ。』って、御両親の方が私に頭を下げる位よ。」
互いの実家への挨拶回りなんて、まるで一人前の婚約者じゃない。
次のライフステージへの移行を早々に意識しているゼミ友の堅実さには、全く頭が下がる思いだわ。
「私とは別口だけど、菊池君の就職も無事に決まりそうなのよ。菊池君が自由選択科目で語学関連の講義を色々と履修していたのは、高橋さんも知ってたでしょ?日本語と台湾華語の翻訳や通訳が出来る人材を、会社経営者の知人も欲していてね。『それなら…』って事で。」
「はあ…そこまで話は進んでるんだ。だけど菊池君の身の振り方も決まっているなら、もう安心だね。」
最初は随分と面食らったけど、帰国後の将来を語る秋桜さんの嬉々とした様子を見ていたら、なんだか私まで嬉しくなっちゃったの。
日本での留学が秋桜さんにとって実り大きい物になったなら、ゼミ友としても日本人としても喜ばしい限りだよ。
「だから高橋さんにも、私と菊池君の結婚をお祝いして欲しいのよ。」
「そりゃ勿論よ、秋桜さん。ゼミ友でしょ、私達?」
だけど秋桜さんと菊池君の結婚式は、果たして何処で行われるのだろう。
二人の新しい生活拠点である台南市で行われるのなら、参列する為に海外旅行をしなくちゃいけないよね。
新社会人になって早々、そんな纏まった休みが取れると良いんだけど…