サンセイの1
主要人物
・前野 縁……前世の記憶が濃い美女。25歳小学校教師。近寄りがたい雰囲気の美人だが、不思議な魅力があり、生徒達に人気がある。生徒の一人、今田に対しては少しキツい。何かにイライラしているようだ。
・今田 一 (いまだ はじめ)……前世の記憶は全くない。少しぶっきらぼうな小学6年生の少年。縁先生がハジメにちょっかいを出すようになってからは、クラスメートに距離をおかれるようになってしまった。
・双葉 未来……女子中学生。ハジメと縁の子供だと言い、ハジメを困らせる年上のお姉さん。
一・流転創始
ひとけの無い小学校校内……。
縁がハジメに詰め寄っていた。
「いつになったら思い出してくれるの?」
縁の迫力に、小学生のハジメはタジタジだ。
「な、なんなんだよっ。ワケ分かんねぇ」
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「縁先生って美人だし、憧れるよねー」
盛り上がっている女子。
男子も。
6学年の教室内は、いつもこんな感じだ。
お年頃な子供達にとって、美人で色気のある縁先生は、注目の的だった。
「今田ぁー、お前、縁先生とイイ感じなんだってぇー?どぉーなんだよ?」
「……興味ねぇよ」
「おおー、今田くんてば大人ー!」
イラっとしたハジメは、教室から出て行ってしまった。
「アイツ、最近変だよな」
クラスメートは、白けた具合でハジメを見送った。
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「なんなんだよアイツら。あの女のどこがそんなにイイんだか……」
校舎内を歩いていたハジメは、男性教師ともめている女子中学生を認めた。
「関係者以外立ち入り禁止だ!」
「えーーっ!アタシ、めっちゃ関係者です!」
少女はそう言うと、教師の横を通り過ぎようとする。
が…、
「いいから、今すぐ出て行きなさい!」
と、男性教師が道を阻む。
遠くから冷ややかに眺めていたハジメは、女子中学生と目が合った。
「あーーーーー!!」っと、少女は大きな声を出す。
教師・「なっ何だ!?」
ミク・「お父さんだっ!!」
ハジメ・「……。」「は?」
走って駆け寄ってくる女子中学生。
ハジメ・「うわっ!なんだよコイツ!」
逃げるハジメ。
教師・「おい!待ちなさい!」
教師も走る。
ミク・「待ってよぉ!、お父さーーーんっ!はあはあミクだよーーーっ?アタシ、ミクーー!はあはあ。やっやっと……うっみっみづげだぁ~~。うぇっはあはあ。まっ待ってぇ~~」
教師に追いつかれる。
教師・「いいかげんにしろ!」
ガシッ!
女子中学生を捕まえた。
ミク・「はぁーーぜぇーーはぁーー」
フルフルフルと必死に首を振って抵抗する。
苦しくて声が出ない。
教師・「もう観念するんだな。今から中学校に連絡するからな!来なさい!」
縁・「なんの騒ぎですか?」
走ってくる縁。
既に騒ぎになっていたので、人集りも出来ていた。
生徒が縁を呼びに行ったのだ。
教師・「この女子中学生が……」
縁をじーーっと見つめるミク。
そして目を見開いて驚いた顔をする。
縁・「なっ何?」
ミク・「……お母さん」
縁・「えっ?」
ミク・「おかーーさんだーーっ!!」
泣き出すミク。
“!!! ”
その場にいた全ての者が驚く。
教師・「ゆ、縁先生こんな大きなお子さんが……?」
縁・「……。いえ、ふざけているのでしょう。この子は私がなんとかしますから、田中先生は他の生徒達を落ち着かせて下さい」
教師・「……あ、え、えぇそうですね。お前達、教室に戻るんだ!」
生徒達を誘導する田中先生。
ハジメも教室に戻ろうとする。
縁・「今田くん」
声をかけられたハジメは無視をする。
縁・「今田くんも一緒に来て下さい」
なおも無視する。
しかし、
ガシッと掴まれる。
ハジメ・「なんだよ!」
縁・「この子を指導室に連れて行くので、手伝って下さい」
ハジメ・「なんでオレがっ……って、おい!」
ミクもハジメの腕を掴む。
そして二人でハジメを引きずって行く。
ハジメ・「ちょっちょっと、おかしい!おかしいって!なんでオレになっちゃってんだよ!」
「違うでしょ?ちょっ、離せよ!」
引きずられて行くハジメ。
ハジメ・「なんなんだよっ!!(怒)」
二・常世事変
生活指導室に鍵をかける。
縁はほっと息をつくと、
「これでゆっくり話が出来る。」
「あなた、お名前は?」
と、ミクに尋ねた。
「双葉ミクです」
ミクが答えると、縁はハッとする。
縁・「双葉……」
ミク・「お母さんは大丈夫みたいだね。お父さんは……」
ハジメを見る二人。
そしてため息。
ハジメ・「な……なんだよ。つーか、何、お父さんて……」
「い、いや、いい!やっぱ言わなくて!オレは戻るぞ!」
部屋出ようとするハジメの両腕を、それぞれ掴む二人。
ハジメ・「ぐっ!」
ハジメはイラつきながら怒鳴る。
「あ、あんた!縁先生さ!ぜってーおかしいよ!それでも教師かよ!授業、始まるじゃねぇか!」
縁はハジメの言葉に傷つき、少し悲しそうな顔で見つめる。
ハジメ・「……。」
ハジメは眉間に皺を寄せたまま、黙ってイスに座り直した。
ガタンっ
ハジメ・「で!?どうすればいいんだよ!」
大声で訊ねる。
イライラは尚も継続中だ。
ミクはハイッ!と、大きく手を挙げると、
「アタシ!来世から来たから、前世にも行けるよ!ていうか、アタシ的にはここが前世なんだけど、まぁ、それはおいといて、きっと前世に行けば、なんか思い出すよ!」
縁&一・「???」
ハジメ・(コイツ、何言ってんだ……!?)
すごく嫌そうな顔をするハジメ。
そして、いきなり立ち上がるミク。
ミク・「よし!それで行こう!」
言いながら、二人の手を掴む。
キィンっ
突然過ぎるし、なんの説明も無しに前世に飛ばされた。
・
・
・
・
一つの場面がみえる。
二人の美しい男女が手を握りながら、
「また、いつの日か……添い遂げると……ここに誓う……」
・・・・
しかし、すぐに現実に戻される。
縁&一・「?」
ミク・「走り過ぎたせいで、体力が……」
縁&一・「(汗)」
ミク・「この体の子、体力なさすぎだよぉ~…、モヤモヤするぅ~」
縁・「あなたの特技はなんとなく分かったけど、今つかうのは良くないと思う。日常生活に支障がでない方法はないの?」
三人は体ごと移動していた。
しかし、それでは縁の言う通り生活に支障が出てしまう。
ミク・「え?あるよ?」
ハジメ・「あんのかよ!」
ミク・「ちょっとコーフンして……アハハ」
ハジメ・「……。」
縁・「それはどういう方法?」
ミク・「寝てる時に、精神だけとばすの」
・
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・
・
ミクは幽体だけでも行動できる。
ハジメと縁が、夜、就寝する時に、ミクが各家へ赴き、精神をとばすことに。
しかし、ハジメはずっと反対していた。
そして寝ないように頑張るも、結局寝てしまう。
先にハジメを前世に送り、次に縁を送る。
先に縁を送ってからハジメを送ると、ハジメがいつ寝るか分からないので、先に行った者と時間差が出来て危険だからである。
三・昔時平安【1】
とうとう三人は前世へと行く。
第三者の目で前世の自分を見に来た。
前世の世界を歩く三人。
実際は浮いているのだが……。
ミク ・「おとーさん、なんか思い出さない?!」
現世とは違う匂いの空気。
驚いたことに、今いるところは人の賑わっている場所にもかかわらず、
森林の中にいるようなのだ。
幽体でも感じる…その匂いにすぐさま既視感で心がざわついている縁とは裏腹に、感受性の乏しいハジメは、
「なんも」
と、素っ気なく答える。
ミクの質問に反応し、期待と心配の眼差しで見つめた縁は、その答えに落胆してしまった。
普通の子供でもはしゃぎそうな空間にいるのに、ハジメといったら、無関心で、「…はやく帰りたい。なんなんだ、ここ。どーせならゲーセンの方がいい」など、ぶつぶつ不満ばかりを口にする。
縁 ・「……………今日はここまでに…」
見かねた縁が提案している時だった。
突然、目の前を歩いていた若者が意識を失い、勢い良く倒れてしまった!
なんと、そこへ馬が駆けて来る!
このままでは、倒れた若者が轢かれて死んでしまう!
馬上の人物は、余所見をしながら、馬を勢いよく走らせていた。
ハジメは慌てて意識を失った若者の体の中に入る。
ミクから事前に幽体について説明を受けており、意識のない人間の中に入って動くことが出来ることを知った。
普段は人助けなどしないが、幽体だから死なないと言われたので、少し気が大きくなったようだ。
そして無事、若者を助けたハジメ。
気を失っていた若者が目を覚ます。
この出来事で若者は、ハジメ達の幽体姿を見ることが可能になった。
幽体といえども落ち着く場所が欲しいので、この若者の家をこちらでの拠点にさせてもらうことに。
若者は気の付くよい気性の持ち主だった。
拠点として利用させてもらう代わりに、若者のサポートを時々することにした。
異人に絡まれた時は、英語の得意な縁が中に入り助けたり……。(この時代では、異人は鬼と言われて恐れられていた)
ここはハジメの前世のひとつ。
平安時代のようだ。
一瞬みえた美しい男女の着ていた服装と、よく似た服装の人間もちらほらいる。
綺麗な着物をまとっていたあの男女。
あの映像はなんだったんだろう?
ハジメは、あの映像が頭から離れなかったが、しかし、さほど重要でもない気がした。
四・昔時平安【2】
4人で行動するようになり、平凡な若者に目を付ける貴族。
英語を話せるだけで貴重だ。(そのことにお抱えの陰陽師は面白くない顔をしていた)
そして、召し抱えられることに。
喜ぶ若者。
実は縁が若者の中に入って話す度に、文法や発音などを理解し、身に付いていたので、簡単な英語なら話せるようになっていた。
これは、誰でも修得出来る訳ではなく、若者は吸収しやすい脳のつくりをしているようだ。
仕える事になった貴族の家は、前世の縁の家だった。
若者は前世の縁に一目惚れしてしまう。
幽体の縁は複雑な顔を見せる。
そう言えば……
これって歴史を変えたことにならないのだろうか?
若者はあの時、死ぬ運命だったのでは?
ミクは、気にしすぎだよ~と言うが、まぁ、気にしてもしょうがねぇか、とハジメ。
縁だけ神妙な面持ちだ。
前世の記憶が濃い縁。
五・平時変調
一体いくつの夢をこえただろうか。
前世を知る為に、多くの夢を渡った。
そんなハジメの周りでは、不思議なことが起こり始めていた。
周りの人たちが、前世の夢を見るようになったのだ。
必ず人間というわけでもなく、前世が動物だったりする。ハジメの隣の席の少年。
ハジメによく茶々を入れるいじめっ子気質の少年だが、この少年も最近、時代劇みたいな夢をみるという。
話の内容がハジメの耳に入ってくる。
徐々に顔色を変えるハジメ。
驚いた顔で隣の少年の顔をまじまじと見る。
それに気づき、
「なんだよ?今田」
「い、いやなんでもない」
席を立ち、廊下へ出る。
「あいつは、アイツだ……」
あの若者、名を彦一と言ったが、彦一は同級生の一人だった。
ハジメの周りでこのような現象が起こり出したのは、ミクがつくりだす気の影響のせいだ。
だが彼らは、ハジメ達のように前世に行けるわけでもないし、夢に出て来る人間が自分の前世だとは知らない。
六・時代長途
来世から妨害が入る。
それは、もともと人間や生き物は、前世の記憶があってはならないことが関係している。
前世の記憶は消去され、来世、生まれ変わる時は真っ白な状態になっている。
生物は基本、皆そうなのだ。
しかし、希に覚えている人間がいる。
それが縁だ。
ハジメは悪くなく、むしろ縁の方がかなり変わっている。
ミクの勝手な行動をとがめる為に“時代の調停人”がやって来た。
ミクとハジメの間を仲介し、問題を解決するのが仕事だ。
しかし本当の目的は、ハジメに“前世の記憶を思い出させない”為にやって来た。
ハジメは危険人物に指定されていた。
ハジメが全てを思い出したら何が起こるのか。
七・狂気索漠
縁は生まれ変わる度、死ぬ運命にあった。
現世でも、縁の死は……近づいていた。
平安時代の元は、大正時代の創まで転生する度に縁を助けようとする。
しかし縁は何度も死んでしまう。
創は頭を抱える。
そして、考える。
「縁の前世を一番古くまで遡れば、何か分かるかもしれない…」
大正に転生した創は、時代を…本気で遡ると決意し、方法を模索し始めた。
・・・・・
何度も何度も生まれ変わっても、助けることが出来ない。
それなのに…巡り会う。
つらくてたまらなかった。
創は幾年のストレスが蓄積され、人格が徐々に歪み始める。
大正に転生した創は、狂気に近かった。
・・・・・
噂話や魔術、奇術を調べるため、出版社をつくり、取材を装って虱潰しに調べた。
創の出版社で働く記者たちは、創のそういった考えを知らない。
雑誌はきちんと毎月出版され、娯楽の少ない人々に受け入れられ、人気を博していた。内容は、噂話や占いなどを社会風刺を交えて紹介したものや、化粧やファッション、人気の店など多岐にわたる。
創は部下を巧みに操り、情報を集めていく。
創は、見た目は笑顔の爽やかな青年だが、内には鬼のような人格が潜んでいた。
人を50人殺し、悪魔に捧げると願いが叶う…と言われれば、50人もの人を殺した。しかし、誰も創が犯人だとは思わなかった。彼は用意周到だった。
彼一人では難しく、悪友のような人物達の協力があったからこそ成しえた。
そんな事を繰り返し、大正の街は…平安時代のような、鬼がはびこっていると噂が蔓延する。
「死にたくない」と、呪い(まじない)などに頼る人々が急増した。
街は、お札などの神の力が宿る道具で溢れかえる。
帝都は…、神の力で包まれる…。
その、神の力を一点に集める。
五ぼう星の中心。
そこで創は…神の力をその身に受ける。
狂気の男が手に入れた、強大な力。
三世の行き来が、容易くなる。
時代の監視者達は、震撼した。
この男が力をふるえば、世が滅茶苦茶になり、全てが破滅しかねない。
彼は女を生かすためならば、全ての世を壊すことも厭わないだろう。
時代の調停人達は、それを恐れ、創を封印することにした。
それを察知した創は、封印される前に、幼かった自分と縁の子供の双葉に、術を施し、来世へと飛ばした。
創は神に近い力を手に入れたため、そのようなことが可能だった。
この時、大正時代の縁は、創の自宅の屋敷の奥深くに、監禁されていた。
そして、様々な延命処置をされていたが、その容態は虫の息だった。
創は双葉を、自分の記憶を呼び起こす鍵として、飛ばした。
そして、時代の調停人達は、ずっと双葉を追っていたのだ。
自分が封印されても、記憶が…自分の生まれ変わりに入れば、力を取り戻すだろう。
例えそれが虫だったとしても…。
来世も必ず、自分と妻は巡り会う。
・・・・・
現世のハジメは何も覚えていなかった。
双葉が少しバカっぽいのは、幼さゆえである。
八・永劫死呪
縁は…一番古い縁は一体何をしたのか?
一番古い縁は、平安時代に遡る。
貴族の娘だった縁は元と恋仲であった。
縁は元に心を奪われていたが、元には他にも女性がいた。
平安時代の貴族にはよくあることで、女にも男が多くいるのが当たり前だった。
しかし、縁は元を自分だけのものにしたかった。
使用人…つまり彦一と恋仲になった風を装い、元にやきもちを妬かせようとしても徒労に終わる。
そして縁は、陰陽師の力を借りて、元と相思相愛になり、結婚して双葉が生まれる。
しかし、陰陽師に言われた月日がやってくる。
呪い(まじない)の代償を捧げる時がやってきたのだ。
それは……“死”だ。
しかも何世にも続く呪い(のろい)。
なぜ…こんなにも重い呪いなのか?
それは…縁は気持ちがはやってしまい、きちんとした陰陽師に頼まず、お抱えの陰陽師から聞いた…悪名高い陰陽師に依頼してしまったのだ。
これが縁の呪いの正体だ。
このままでは現世の縁もいずれ死ぬ。
しかし、未だに縁への愛情が戻らないハジメは、困っていた。
縁が死ぬのは双葉が生まれてからだ。
自分は今小学生だし、恋とか愛とか分かんないし、自分の子供とかって……(汗)
縁に対してなんの感情もないのに、結婚して子供が生まれるなんて、全く想像出来ない。
別にこのままでも大丈夫なんじゃないの?
前世に行き、全てを知っても、彼の狂気は目覚めなかった。
それは、戻ったのは平安の記憶だけだからだ。
九・恩愛決河
双葉は縁を…母を助けたかった。
双葉には二つの人格がある。
父と母のことが好きな幼い双葉。
そして…
創によって術でつくられた双葉。
本当の双葉が、もう一人の双葉を押さえ込み、無理やりハジメを未来へと連れていく。
7年後の未来へ-…。
・・・・・
ハジメは驚いた。
「う…嘘だろ……」
その後の言葉が出てこない。
「………っ!」
ここはマンションの一室。
目の前には、幸せそうな夫婦が、赤ちゃんをあやしている。
父親は少し若い容姿で、母親の方が年上のようだ。
母親の顔に見覚えがあるし……父親の方には面影がある……。
これは……
認めるしかないようだ……。
自分と縁は……結婚していた。
あの赤ちゃんは…双葉か…。
「……7年で何があったんだよ…」
頭を抱えるハジメ。
頭を上げて視線を戻すと、突然、12歳のハジメに19歳のハジメの記憶が入ってきた。
ハジメは目を見開くと、固まったまま何かを考えるように瞳を動かして…暫くすると、顔つきが変わった。
真剣な顔でミクに、
「縁を助ける…!」
と、強い声音で告げた。
・・・・・
ハジメ、縁、ミクは…今日も平安に飛ぶ。
しかし、いつもと違う雰囲気だ。
約1名、やる気オーラが半端ない少年、ハジメが燃えている。
縁は、嬉しいけれど…複雑な面持ちで、苦笑い。
ミクは満面の笑みで、縁を見つめた。
ハジメ達は、あれこれと貴族の元と縁をくっつけようと努力する。
しかし、上手くいかず…業を煮やした縁は、あの陰陽師の所へ行こうとするが…それを何度も阻止した。
だが、そのかい虚しく…縁は巧みに屋敷を抜け出してしまった。
ハジメ達はそれに気づき、先回りをして陰陽師と交渉する。
全く話が通じず、戦いになってしまった。
こちらが有利に事が運ぶが、陰陽師は何かに気づき、術をミクに向けて放った。
・
・
・
ミクの様子がおかしい。
何やら苦しみだし、「お…抑えがきか、な…」
と、呻くと…。
それが悲鳴に変わった。
ミクは虚ろな目になり…もう一人の双葉が目覚めてしまった。
双葉は、ハジメを連れ…何世も渡り歩く。
ハジメの精神は崩壊寸前になり、時代の調停人が恐れていたことが起ころうとしていた。
調停人は縁と協力し、ハジメ達を追いかける。
十・現身魂身
縁達がたどり着いた時代は、大正時代だった。
早くも、創の封印が解けそうだ。
封印された創に現世のハジメ(全ての記憶の戻った)が入り込み、封印されたばかりの鍵が解除される。
鍵は双葉ではなく、ハジメだった。
・
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創の体は、様々な世が入り混じった混沌の世を創り出す。
そこへ、あの陰陽師が現れた。
悪名高い陰陽師ではなく、縁の屋敷にいた陰陽師だ。
どうやって大正にやって来たのか?
「これ程かかるとは思わなかった。1000年先はこうなっているのか」
興味深そうに大正の世界を見渡す。
「すぐに無くなるからな。しっかり見ておこう」
不敵な笑みを浮かべる。
「アイツらは何をやっている!」
怒っている調停人。
「……コイツのことかな?」
陰陽師の、何もなかった手の中に…数人の男女の生首が現れた。
陰陽師を監視していた調停人達だった。
「くっ!」
陰陽師は何らかの方法で、調停人の力を抜き取り、自身の中に取り込んだようだ。そして、平安から大正に来ることが出来た。
事態は……
「最悪だ……」
調停人は唸る。
調停人は実体のまま三世を行き来できる。
大人しくしていた縁は、おもむろに口を開く。
「あなたの体をお借りします」
「え?」
幽体状態の縁は、調停人の中へと入り込んだ。
この時、調停人は意識があったが、動揺していた事もあり、縁を追い出すことが出来なかった。
(なぜ、追い出せない!?)
尚更…動揺は深まり、縁に主導権を握られてしまう。
縁は調停人の力を使い、空間を歪ませ、平安時代の縁の所へ行った。
元と出会う前の縁だ。
「双葉……ごめんなさい……ハジメ君も……私のせいで……許してくれとは言わない……この先も、私は呪いと罪を受け入れる」
そう言うと、
縁は、
平安時代の縁を、
殺した。
「!!」
悲鳴が上がる。
調停人の姿の縁は、すぐに空間を歪ませ、姿を消した。
現場を目撃した使用人は、
「お、鬼だ……!!」
と、腰を抜かせてその場にへたり込んだ。
平安時代の縁は死んだ。
死んだ人間は、転生する。
先祖ではないので、縁は来世できちんと誕生するが…呪いは再び現れる。
それは、
縁が望んだのだった。
十一・創始流転
双葉は存在しなくなる。
・
鍵は外れる。
・
ハジメは縁を知らない。
・
神の力もなくなる。
・
陰陽師は…ハジメが創り出した混沌に飲み込まれ、五体がバラバラになり…消滅した。
縁の意識は遠のいていく……。
・・・・・・・・・
そして、
現世。
ハジメは今日も元気だ。
小学生なのに女好き。
美人な担任の先生のスカートをめくり、怒られた。
美人教師は怒ったあと、涙をこぼした。
ハジメは慌てるが、目にゴミが入っただけと、縁はその場を去る。
一人になり、呟いた。
「……双葉…」
その時、声が聞こえた。
「呼んだ?」
そこには、時代の調停人になった双葉がいた。
「お母さんを助けに来たよ。呪いで必ず死んでしまう体に戻ってしまうけど、それでも良かったら…一緒に来て」
双葉は縁に手を差し出す。
縁は笑顔でその手を握る。
空間が歪み、消えかける二人。
「ちょっと待てー!」
ハジメが走ってやって来た。
縁に謝ろうと、探していたのだ。
全速力で走るハジメだったが、誰かの足に躓き、(誰の足でもいい。大人のハジメでも、何世かの縁でも。調停人でも。)その勢いのまま…二人と共に空間に入ってしまい、三人は消えた。
・・・・・・・・・
縁は…偽りの愛でも、ハジメと一緒にいたかった。
暮らしたかった。
愛して欲しかった。
だから……
双葉ミクの手を握った。
彼女の苦しみと、
幸せは……
何世も巡り続ける。