04話 初戦
扉の向こうは通路になっていた。さらに3つの扉が現れた。それぞれカエル、ウサギ、モグラと書いてある。
「この中からどいつを相手にするのか選べっていうことか。ユウマならカエルを選びそうだな。じゃあ僕はモグラにしよう」
ウサギはなんか相手にしにくいしモグラならきっと倒せる気がする。
扉を開けると試験官らしき人物が待っていた。
「ようこそ。モグラの試練へ。ずいぶん若いのが来たな。教えてあげるけど、今年はどれも厄介なモンスターだけど3匹の中でモグラが一番厄介だよ。気を付けてね」
あ、そう。外れを引いたのか。この試験官の反応からユウマは来てなさそうなのはわかった。
ガッと急に後ろから叩かれて心臓が跳ね上がった。なんだと思って振り返るけど何もいない。
「あ、そうそう。もう始まってるよ。モグラの特性をよく理解して戦うんだね」
部屋に入った瞬間にスタートだったか。油断した。剣を構えて様子を伺うがどうしたらいいかわからない。
「どこにいるんだ」
つい口走ってしまう。そうするとまた後ろから攻撃された。振り向いてみたけどやっぱり何もいない。
モグラ……そうか! モグラだから地面の中にいるのか! モンスターも動物と同じなのか。しかし仕組みがわかってもどうやって探せばいいかわからない。
目を凝らしてみても普通の地面と変化がない。いや、少し土が盛り上がってたりへこんでたりするか。背後から気配を感じて振り返ると今度は正面から叩かれた。
ここでようやく姿が見える。確かにモグラだ。だけど大きい。腰ぐらいまで高さがあるぞ。こんなサイズのモンスターに叩かれたのか。よく見ると爪が布で覆われている。これがなかったら今ごろ八つ裂きだ。
「身体強化のスキルはどうした。冒険者なら必須スキルだろ」
試験官が声をかけてきた。
何? 身体強化? あぁそうか。忘れてた。冒険者の基本スキル。
モンスターに比べて人間の体は弱いんだ。だから戦うときに多少の強化をしておかないとやられてしまう。
「ありがとう。きっとこれで大丈夫」
何となくお礼を言ってしまう。本当は自分で気が付かないといけないんだけどね。
身体強化で多少は食らっても大丈夫なはず。ただ見えないのは変わらない。いや、見える?
そうか、身体強化は単に体が強くなるわけじゃないのか。いつもユウマと練習していた時には気が付かなかった。
じっくり見ると土の中を移動するのが見える。これで倒せるはずだ。
移動の仕方を見ると、こっちの背後に回り込むように動いている。
目線を送って体を回すとひたすらぐるぐる回っていて出てこない。
そうか、こいつ単純なことしかできないのか。
ならば!
シオンは動きを止めた。その瞬間、背後からモンスターが襲い掛かってくる。
「それは、お見通しだ!」
横一閃、モンスターを振り向きざまに真っ二つに斬った。
「やった。倒したぞ」
手が震えている。まだ感触が残っている感じがする。斬られたモンスターは粉のように霧散していた。
「おめでとう。ひとまず試験はクリアだ。さっきのモンスターは背襲モグラっていうんだ。名前が分かっていたらこんなに苦労しなかったね」
背襲モグラ……まんまじゃないか。名付けたやつはセンスが無いな。
「ありがとうございます! 次は助言なしで勝ってみせます!」
「その意気だよ。さぁ、そこの扉を通って先に行くといい。友達も待ってるはずだ」
何だって? なんで2人で来たのが分かっているんだ。……まぁいいや。行ってみよう。
そうそう。背襲モグラの手が布で覆われているのに、どうやって穴を掘れるのか気になったけど気にしたってしょうがないよね。
扉を開けるとまた通路があった。進んでいくとまた扉。開けた先でユウマが待っていた。
「遅かったじゃねーか! ま、シオンも突破したってことだよな! これで冒険に行けるぜ!」
ユウマの顔を見てほっとした。
「当たり前だろう? それより、ユウマはどの扉を選んだんだよ。カエル?」
「そう思うだろ? ウサギにしてみたんだ」
「え? そうなの? こっちはモグラにしたよ。背襲モグラって名前で地面の中にいたから大変だったよ。火が効くかもわからなかったからせっかく練習したけど使えなかったね」
「うわー、めんどくさい奴だな。どうやってやっつけるんだそいつ。俺は刃角ウサギってやつだった。頭の角で突進しながら飛び込んできやがってさ。かなりすばしっこいのな。俺の雷撃でしびれさせて止めを一発だったけどよ!」
お互いの初戦の感想が止まらない。
そういえば、思ったよりも人が少ないな。試験官が言っていたけど本当に敵が強かったのかもしれない。
そうこうしているうちにガレルド軍団長が入ってきた。
「おめでとう諸君。晴れて君たちは冒険者の仲間入りだ。これから先いろんな困難が待っているだろが、初心を忘れずに頑張ってくれたまえ。最後に紋章を授ける。受け取っていけ。これがあればダンジョンに出入り自由だ。疲れた時には街に戻ってよし。冒険したくなったらダンジョンへ挑んでもよし。ダンジョンも広いからな。そこで暮らしてもよしだ」
合格者が順番に呼び出される。最初は部屋いっぱいに溢れていたのに合格者は全部で20人くらいだろうか。順番が来てユウマと一緒に紋章を受け取る。
「これは、始まりの紋章。君たちの魂に刻まれるからよく覚えておいて。これからダンジョンを進んでいくとボスが現れる。ボスを倒すと同じように紋章が授与されるからそれが次の層への通行証だよ」
なるほど、これが無いと先に進めないのか。ボスなんて倒すのはまだまだ先だろうけど、覚えておこう。
「紋章もらったらなんかちょっと強くなったよな?」
「たぶんそんな気がする」
「鋭いな少年たち」
軍団長さん、いやガレルド軍団長。地獄耳過ぎる。
「そう、紋章には加護がある。その加護によって精神と肉体は強化されていく。もちろんスキルにも影響があるから今度試してみるといいさ」
そういうものなのか。これからが楽しみになった。
「まずは街を目指そうぜ。ダンジョンにも人が住んでいるっていうし依頼を受ければ報酬がもらえる。これで生きていくのに困らないはずだ」
「そうだね。でもそそっかしいから油断しないように行こう」
シオンとユウマはダンジョン第1層へと足を踏み入れて行った。
*
「ガレルド軍団長。なんで我々にあの2人に助言をするように命令を出したんですか?」
「それはな、あの2人から大きな力を感じた。1人は一つの才だろうが、もう一人は途方もないような運命を感じた。あいつらならきっとダンジョンを攻略しそうに思ったからこそ、こんなところで躓かせるわけにはいかない。そういう使命が俺にはあると思って助言をするように伝えたんだ。おかしかったか?」
「いえ、けれど、2人ともそんなことを言わなくても自力でクリアしたと思いますよ。だって、見込みがありすぎましたからね」
「それはそうか! 次に会うのが楽しみだな! また会おう、シオン! ユウマ!」
軍団長たちの声は届いていないが、シオンとユウマは背中を押されているような気分でダンジョンを進む。
ダンジョン第1層は草原の世界。まずは街までたどり着いて今後の方針を決めて行こう。
・背襲モグラ(はいしゅうもぐら)
黒い毛並みを持ち、大きな前足が特徴。目が見えない代わりに優れた嗅覚を持つ。土属性の技が使えるが穴堀りにしか使用しない。地面に潜り敵の背後に回り込んで攻撃してくる。回り込んだ後は鋭い爪を前に構えて突撃してくる。背後に回るまでは攻撃してこないので、後ろに気を付ければ撃破可能。