03話 選定の試験
武器も選び終わり外へ出た。この家もしばらく見納めだろうから目に焼き付けておく。
見送りはいいと言ったのに結局皆して送り出してくれた。父さん、母さん、近所の子どもたち。期待されているのがよくわかる。きっと強くなるよ。
「よし、行こうぜシオン!」
「あぁ! まずは試験会場へ出発だ!」
見慣れた街並みの中を進んでいく。いつも寄ってたパン屋さん。まだお酒は飲めないけどミルクを出してくれる酒場のマスター。ダンジョンにも街があるみたいだけど、いったいどんな場所なんだろうか。どんなお店があるだろうか。ワクワクが止まらないね。
道を進んだ先にエテルナリス王国の王城がある。僕が生まれ育った城下町から程近い。戦争なんてものはここ数百年くらいは起こってない遠い世界の話だ。それでもダンジョンを監視するために結構な荘厳さの城壁を建てたものだ。見慣れたものだけど中に入るのは初めてだ。
「君たちも試験を受けに来たのかな? ずいぶん若いけど年齢は問題ないんだろうね?」
「もちろんです。これが身分証明です」
「あー、街にある商店の息子さんたちか。ようこそエテルナリス王城へ」
よし、とりあえず通れた。
「いやー、シオンさんよ。ビビってねーよな? 俺はワクワクしてきたぜ」
そんな風に言いながら声は震えているぞ。
「大丈夫だよ。そんなことより、どんなモンスターがいるんだろうね」
通路だろうけど、すごい広い。左右には甲冑が置いてあって今にも動き出しそうだ。通路を進んでいくと試験を受ける参加者の待機場に着いた。
「結構多いな」
「そうだね。見慣れない格好の人とか、年が上の人たちもいるね」
「俺たちみたいないかにも新人って人たちは全然いないじゃねーか。くっそー、やっぱり難しいんじゃねーかな。落ちたらどうしよう」
「大丈夫だよ。落ちたとしてもみどころがあれば寄宿舎に入れるんだから。僕たち2人なら余裕だろ?」
普段のユウマならこんな時でも飄々としてそうだけど、やっぱり緊張しているんだね。
そうこうしているうちに説明が始まった。
「私は王国軍第一軍団長のガレルドだ。まずはよく集まってくれた。今年もダンジョン探索のための登用試験を開催するが、まずは君たちの覚悟を見せてもらう。ダンジョンは常に危険と隣り合わせだ。楽しいこともあれば辛いこともある。時には命の危険だってある。そんな時、助けてくれるのは誰でもない。己自身なのだ。それを証明してもらうために一人ずつこの先でダンジョンのモンスターと戦ってもらう。なに、そんなに強いやつは連れてきていない。第1層のモンスターだから新人でも問題ないはずだ。ただ、新人にも満たない足手まといはここで帰ってもらう。街に戻って出直してくるんだな」
なんとも迫力のある声で脅しをかけるように言っている。ここで帰るような人ならきっとこの先生き残れない。それは皆わかっているはずだ。
「それでは我こそはというものから前へ出ろ!」
しまった。そういう順番か。出遅れてしまった。
「ビビってねーよな? 俺は大器晩成型なんだよ。ゆっくりいこうぜ」
ユウマ。その使い方は間違ってるぞ。
「この人数を試験するには入り口が一つしかないのは効率が悪い。何か理由があるんじゃないかな」
「こぞう、よくわかってるじゃないか」
地獄耳か、あの軍団長さん。
「その通りだ。効率が悪い。もう少しなんとかしたいんだが使える訓練場がここしかなかったのだ。諦めてくれ」
すごい下らない理由だった。毎年やっているんじゃないのかよ。
「気長に待つしかないかぁ。しょうがないスキルのおさらいでもしておくか」
落ち着きを取り戻したユウマはいつもの調子で呟いた。
「シオン、そういえば、火のスキルはちゃんと制御できるようになったのか? いつも周りの物まで燃やしちゃってたけどさ。訓練場がどうなってるかわからないけど火事だけはごめんだぜ」
そう、スキル適性がわからないからとりあえず火を使えるように練習していたけど、小屋を一つダメにしたんだった。
「そういうユウマこそどうなのさ。適正は俺と同じでわかってないだろう。どれを覚えたんだ」
「俺は雷だ! ちょっとしびれるくらいしか使えないけどな!」
本当に大丈夫だろうか。
「ド新人過ぎるなあいつら」
「現実見て来年出直しだろうな。俺らみたいにさ」
なんか聞こえるけど気にしない。
ここはまだ冒険者になる前の人しかいない。他国から来たようなベテラン感を出している人は何も言ってないんだから。
「よし、お前ら。順番来たぞ。どっちからにする?」
「もちろん俺だろ! 先に行くぜシオン!」
ユウマが意気揚々と扉を開けて進んでいく。
「先に待ってるぜ!」
眩しい笑顔で行ってしまった。ユウマなら大丈夫だろう。慌てるとミスをするけど落ち着いていればできるやつだ。
しばらく時間が経って軍団長さんに呼ばれた。
「こぞう、いやシオンといったな。準備はいいか?」
「はい。行きます」
ついに来た。この扉の先で冒険者になるための第一歩を踏み出してやるんだ。