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1-3

「それ、けがしたんですか?」


「これ?」


 ある日の放課後、いつも通り噴水で本を読んでいるアシェルの隣で勝手にくつろいでいたら、珍しくアシェルの方から質問してきた。


 アシェルの視線は、私の手に巻かれた包帯に向いている。


「そう! そうなの! 実は火傷しちゃってね!」


「なんで嬉しそうなんですか」


 アシェルはめんどくさそうな顔で言う。


 だって仕方ないじゃないか。アシェルが私に興味を示してくれることなんて滅多にないんだから。


「火傷の痕見たい? 気になる? 包帯取ってあげてもいいわよ」


「見たくないです。包帯はちゃんと巻いておいてください」


 包帯の端を引っ張りながら言ったら、アシェルにすげなく断られた。


 アシェルが見るからにうっとうしそうな顔をしているので、少々反省して黙ることにする。



「どうして火傷なんかしたんですか。公爵令嬢が火傷する機会なんてあります?」


 アシェルは素っ気ない態度のまま続ける。どうやら気にしてはくれているらしい。


「どうしてかしらね。私が本物のご令嬢だったなら火傷なんてしなかったのかも」


「また意味のわからないことを言う。お嬢様生活が面倒になって暴走でもしたんですか?」


「ふふふ。教えなーい」


 そう答えたら、アシェルは嫌そうな顔をした後「それならいいです」と視線を本に戻してしまった。



 アシェルの隣に座ったまま、空に包帯の巻き付いた手をかざしてみる。


 昨日、火のついたランプの上に手を置かれたときの光景が、まざまざと蘇ってきた。


 あれは久しぶりに痛かった。火傷って熱いというより痛いんだということを久しぶりに思い出した。


(手を炎に突っ込まれても泣かなくなったんだから、私も成長したものね)


 痛がっている顔を見せるのも癪なので、手を離された後でにっこり微笑んであげたら、奥様は気味悪いものでも見たかのような顔をしてどこかへ行ってしまった。


 奥様が出て行くと、一応は仲良しのはずのメイドたちが駆けてきてすぐに治療してくれたけれど、手の痛みはじくじくとしたまま残った。


 私の手に薬を塗ったり包帯を巻いたりしながら「奥様はなんてひどいことを」と憤るメイドたちが、さっきまで同じ部屋にいても指一つ動かさないまま見ていたのを知っている。


 別に恨んでなんかない。使用人が公爵家の奥様に盾突くなんて、恐ろしくて出来ないのは当然だろう。


 ただ、見ているだけなんだぁと思っただけ。



「痕残っちゃうかなぁ。私これでも王子殿下の婚約者候補なのに」


 奥様は頭に血が上ると後先考えない行動をするから困る。


 昨日も、私が彼女の実子であるブリジットよりパーティーで目立っていたのが気に入らなかったらしく、ちょっとしたことで叱られてランプの前に引っ張って行かれた。


 公爵様はもう少し理性的で、私を罰する時はちゃんと痕に残らないように気をつけて傷をつけるのに。見習って欲しいものだ。


 奥様が軽率に作ったこの火傷痕は、治らなかったら私のせいにされるんだろうと思うと、ため息が出た。



「……そのうち治るんじゃないですか。子供のうちは傷の治りが早いって言うし」


 隣から、アシェルの戸惑うような声が聞こえてきた。意外に思って彼を見る。


「え、励ましてくれてるの?」


「……違います。聞いた話を伝えただけです」


「素直じゃないわね、アシェル」


 嬉しくなってそう言ったら、アシェルは顔をしかめてそっぽを向いてしまった。


 あ、照れた。


 珍しくアシェルの感情が動く瞬間を見られて、私の心は明るくなる。


 今日は珍しいアシェルをたくさん見れた。心配もしてくれたし。


 なんだか気分が浮き立って、じくじくする手の痛みも気にならなかった。

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