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「今川を探りにきたのか。」

 「ん?」

 その男の子は私の方を振り向いた。そりゃあそうだろう。いきなり年上のお姉さんがきたと思ったら、勝手に大声をあげて尻餅をつくのだから。

 しかしそれにしても先程まで話していたお方に、また遭遇するとは驚きだ。この男の子は恐らく、間違いないだろう。その根拠とは。

 いかにも利発そうな顔立ちの男の子。ただの偏見かも知れないが、余り運動は得意そうではない。

 そしてそれ以外にも、この子からは何かを感じるのだ。しいていえば初めて会った気がしない。かといって何処かでお会いしましたか、というのもちょっと違う。もっと自分から近い人物の様な気がするのである。一体何処のどいつなんだい・・・。

 でもその私の疑問は、直ぐに解決する事となるのであった。

 「ん?」

 その子の才能の片鱗を、私は察知したのではなかろうか。

 「こ、これは。」

 その男の子が砂場で創っているものを見て、私は率直に動揺の声をあげた。なにやら先ほどから建造物をモーチフとしたものを砂で盛り上げている、と思っていたのだが・・・。

 「こ、これは掛川城・・・!」

 ここで私は歴女を発揮したのだった。ちなみに掛川城とは戦国時代、東海道の東西交通の要所に今川氏が築城したのだった。しかも命じられ築城を行ったのは、外ならぬ朝比奈氏なのである。

 

 そうなのだ。我が朝比奈の手掛けた城である。砂場の造形物とはいえ、この私が見逃すはずはないのである。

 「ふむう。」

 思わず感慨の溜め息を、私は漏らしたのである。この少年には芸術的な才能がある。もう仕上げにかかってきている。とても見事な装飾だ。とてもこれが、砂のみで構成された造形物とは思えない。

 「くうう・・・・。」

 私は口惜しさを噛みしめた。それは当然の事なのだが、この砂のお城は崩れる。どれだけの時間も持たないであろう。これだけ高い完成度を以てしてもである。


 ===== 形あるものは いずれは崩れゆく運命にある =====


 「・・・・・。」

 ふと私は我に返った。何なのだろか、この自分は・・・・。女子高生が公園で、砂場の男の子の傍でブツブツと一人小言を言っている・・・。いくら格好をつけていても、奇妙な絵図らであろう・・・。


 「はっ!」

 私は驚きの声をあげてしまった。何故なら男の子がガバっと顔を上げたからなのだ。

 (ん・・・。)

 そこで私は、ほんの少しだけ安心した。その利発そうな瞳は、自分の方を向いていなかったからだ。

 「お父さん。」

 まるで呟くような小さな声で、男の子は呼びかけていた。そうか、親が迎えにきたのか。この子は決して私が妄想の中で案じていていた様な、不幸な境遇には無かったようだ。さらに私は、その安心感の度合いを強めたのであった。しかし・・・・。

 「まこと。」

 (えっ・・・・?)

 非常に聞きなれた声が聞こえたのであった。

 「んん・・・・。」

 ・・・・意識が朦朧としてきた・・・・。これは正に発作的であり、自分にはコントロールは出来ないのである。

 よりによってこんなタイミングで、私の意識は別の軸に飛ばされるようであった。


 

 ~~~~~ そして戦国時代 ~~~~~


 「くう・・・。」

 こんな時に限って、見事な満月・・・・。綺麗である・・・。もう無いと思われる手段を考えながら、盃を口につけるのであった。本当にもう無理なのだろうか。我ながら諦めの悪い性格である。

 「なんの用じゃ?」

 「・・・・。」

 「今頃、何をしにきたのじゃ。お前は。」

 「・・・・。」

 「やはりお主か。」

 「相変わらず勘の良いお方で・・・。」

 その男は傍にいた。

 「お主はもう武田の元にいるのではないのか。」

 「確かにそれがしは武田にお仕えしております。されどかつては今川家の配下・・・。」

 「一体何を申したいのか。」

 相変わらずこの者は、食えぬ・・・。確かにこの者は、今川家に仕えていた・・・。だが今川と武田を行き来しているうちに、武田の配下になったのである。もっともそれは、義元公の了承もあったのであるが。それだけに油断が出来ぬ。もっとはっきりと言うと、信用が出来ぬのである。たとえ腕の利く男であった、としてもである。だったらこちらもそれなりの態度で臨むのみ・・・・。

 

 「今川を探りにきたのか。」

 「・・・・御冗談を・・・・。」

 この男は少々困った様な顔をしていた。まあもっともその顔も、信用ならんのであるが・・・・。

 「では率直に申し上げまする。あの尾張のうつけ、の事でございまする。」

 「ほう。」

 私は平静を装った。この男に動揺を見せれば、それに付け込まれるに決まっている・・・。ただ自分としては、丁度よい時に現れたのだ・・・、この男は・・・・。であるからして、この話は慎重に運ばねばならない。ただ本当に心から、この男と何かを企てようとは思えなかった。しかしせめて何かを、この男から聞き出さねばならない。少なくとも私が知らぬ事を、持っているはずなのだ。


 ===== この山本勘助やまもとかんすけ という男は =====


                                 <続く>

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