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「今川先生・・・。」

 ~~~~~ そして戦国時代 ~~~~~


 私は親方様の命を守れなかった。しくじったのだ・・・。・・・見事に織田信長の陽動策に引っ掛かったのだ。

 (くっ・・・。)

 私は膝をつき、床を眺めるのみである。もしも山本勘助を拘束せずに、手勢を預けたら結果は違っていたのかも知れない。みごとにあの織田信長の首をあげられたのかも・・・。もしも、かも、を述べても何も産み出さないのは、この自分でも分かっているのだが・・・。最早なす術もない・・・、この状況で、ただ悔しさを噛み締める事しか出来ない。

 しかし、である。このまま手を駒根いている訳には行かないのだ。自分は一軍を率いる将なのである。総代将である義元公を失った今、味方は総崩れとなっている事であろう。恐らく我が今川方の軍勢は退却を進めているではずである。自分も陣を引き払い、退却を進めるべきと心得た。一刻も早く家来たちの動揺を沈めねばならぬ。

 「皆者の者、退却じゃ!」


 

 ~~~~~ そして現代 ~~~~~


 (大丈夫か?朝比奈・・・!)

 (あっ・・・。)

 (ううーん・・・。)

 視界が開けた。直後はボヤけていたが、じきにクッキリと見えるようになった。それにしても何だか違和感がある。ここは・・・。

 「朝比奈・・・。」

 「あっ・・・。」

 今川先生だ・・・。そしてその横には瀬名もいた。私は一体・・・・。そしてここは・・・。私は周りをキョロキョロと見回した。

 ===== ここは病院だ =====

 

 今川先生と瀬名の話によると、私は授業中に教室で倒れ、今川先生に抱えられて保健室に運ばれたそうなのだ。やはりあれは今川先生だったのだ。それを聞いて私は幸せな気持ちになった。やっぱり私は今川先生が大好き・・・・。

 そして今川先生は私の状態から判断して、救急車を呼んだのだった。そしてその判断は正しかった。私は丸一日以上意識を失っていたのだった。そう今日は私が教室で倒れてから、その翌日にあたるのであった。


 「今川先生!!!」

 私はベッドから今川先生に飛びつくように抱き着いた。そして泣きじゃくったのだった。勿論それは悲しみから来る涙ではない・・・・。本当に今川先生は無事にここにいる。そしてこの私も・・・・・、私の人生のみを生きていく・・・。自分自身でも訳が分からないのだが、多分そんな気がする。というのも何の根拠もないからなのだ。何となく自分は違う人生も並行して歩んできたような気がする・・・。でもそれは誰の人生なのかは分からない・・・。・・・・どこか遠い世界・・・、いや遠い昔の事だった様な気がする・・・。そしてそれは全くの他人では無くて、その人のおかげで今の私がいる・・・。そんな気がしてならないのである。うん、きっとそうなのだ。だからこの私は恥ずかしい人生を送りたくはない。そして後悔もしたくはない。これからも今川先生を愛していこう、と誓いたい。だって・・・。

 

 ===== 今川先生は、此処にいる一人だけなのだから =====


 (え?まるで今まで二人いたかの様な言い方だって?確かにそうかも知れないね。でもね・・・・。)

 やがて泣き止んだ私は、そのまま今川先生に抱き着いた状態を維持していた。でも今川先生は何も言わずにいてくれている。それを自分を受け入れてくれている、と判断するのは早計であるのは分かっている。これからなのだ。この私が今川先生から信頼を得るのは・・・。齢の差なんて関係ない。うん関係ないはずだ。真くんだって、私の事を認めてくれるはずだ。たぶん・・・・、いやきっとそうだ、うん・・・・。ちょっとだけ自信ないけど・・・・。


 (え・・・?)

 抱きしめ返してくれたの・・・。一方的な自分の行為ではなく、今川先生からも抱擁を返してくれたのだ・・・。

 (うう・・・・。)

 また私の眼は涙で溢れてきた。そしてまたしても、これは悲しみから来る涙では無かった。まさか私の気持ちに応えてくれているのだろうか・・・。いや今はそんな事はどうでもいい・・・。答えなんて求めない。回答はこれから私が作っていくのだから・・・。勿論、今川先生、真くん・・、それから瀬名にも手伝って欲しい・・・。


 「無事でよかった・・・。朝比奈・・・。」

 「今川先生・・・。」

 窓の外を見ると、景色は濡れていた。どうやら雨上がりの様だった。


 

 ~~~~~ そして戦国時代 ~~~~~


 「これからも頼むぞ。」

 「はっ!親方様!この朝比奈泰朝、粉骨砕身、今川家の繁栄のために精進して参ります!」

 「うむ!よくぞ言った!」

 氏真公は満面の笑顔であった。これで良いのだ。義元公が去られた後、今川家は衰退の一途を辿っていた。尾張侵攻の折に期待していた松平元康も、織田に寝返ったのであった。かろうじて北条家とは同盟関係を維持していたものの、武田信玄は違った。今川の力が衰えるのが見えた途端、同盟関係を破棄してきたのである。

 今思うと、私は山本勘助の手のひらで踊らされていたのだろうか。そうは思いたくは無いのだが、そうかも知れない・・・。だとしたら猶更、この自分は今川家の為に尽くさなければならぬ。たとえそれが沈みゆく船であったとしても・・・・。

 沈みゆく夕焼けを見ながら、私はそう誓うのであった。


 そういえば私は度々、自分自身が奇妙な女子おなごになる夢を見ていた。具体的にどのような内容なのかは、もう思い出せない・・・。



 ~~~~~ その後 ~~~~~


 朝比奈泰朝は、実際に今川家の為に尽くし続けた、という・・・。最後まで今川家を裏切らなかった・・・・。


                         ~今川先生の分水嶺~ <終>      

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