勝った
(えええ・・・?。この人は・・・・。)
こんな変な女に、この男の子は正面から向き合ってくれている。それはそれで意外なので、拍子抜けした私だったのだった。本当にどうしてなのだろうか。
(はっ・・・!)
その時、私は気がついてしまった。この男の子はまさか・・・。この出で立ちはまさか・・・、戦国のは・・・・しゃ・・・・。
(えっ!?)
男の子の視線で、一瞬に私は凍りついた。身体が強張って動かない・・・。それだけの眼力が、この男子にはあった。
(ぐぐ・・・。)
そこで私は力を振り絞った。
(いやあーーー!!)
心の中で気合の声を張り上げた。そして・・・。
(ふっ、ふうーーー。)
まるで重労働を終えたかのように、私は肩で息をするのであった。そしてなんとか身体が動き始めた・・・。
ふと見上げると、その男の子は・・・、なんか唖然とした様子なのであった。そこには威圧的な態度は、もう見られなかった。先ほどと違い、本当に普通の男子だ・・・。私は安心したのだが、こんなバタバタとした動きを目の前で披露してしまったのだ。バツが悪いと言ったら、ありゃしない・・・。
「ごっ、ごめんなさいっ。」
その男の子にクルリと背中を向けた私は、一気に駆け出したのであった。勿論その男の子には、申し訳ない気持ちで一杯だったのであるが・・・。だけども一刻も早く、この場を去らなければならなかった。何故なら・・・。
いくら魅力的な男子であったとしても、敵方と交わるわけにはいかない。そうなのだ・・・。この私と、あの男の子は、そのような運命にあるのだ。もっとも男の子からしたら、そんな私の気持ちなど知らぬのであろうが・・・。
「はあーー。」
登校し、自分の教室の自席に座った私は、とっつぷして溜息を洩らしたのであった。
(だ、だめだ。無理やり通りすがりの男の子に声を掛けようなどとは・・・。ハッキリ言って逆ナンなど、この私のキャラではないのだ。この自分は生粋の歴女なのである。やはり私には、他の女の子の様な恋愛はできない。うん、そうだ。もうありのままの自分を受け入れよう。そう自分自身に誓う、この私なのであった・・・。・・・・自己完結。
~~~~~ そして戦国時代 ~~~~~
===== ザザーア =====
非常に激しい雨が目に入ってくる。もはや手綱を握る腕は、自身の勘に頼る他なし、であった。道なき道を我々は強行している。だがそれは相手も同じこと・・・。相手は,あの信長だ。おそらく自分の命を引き換えでなければ、その動きを封じる事は叶わないであろう・・・・。
===== 殿!!! =====
「うむ!」
家来が位置を察知したようだ。もう私はさらに腹をくくった。もうこれが自分の最後の戦い、であろう・・・。そして信長の最後にもしてみせる・・・。
===== ザザザザーー =====
その手勢を発見した。その勢いのある動きは、間違いなく今川方の部隊でない事は明白であった。そもそも我が今川の大群が、激しい嵐をかいくぐるように移動する必要は無い・・・。真正面から押しつぶせば良いのだ。
===== いくぞ!!! =====
我が手勢は、その相手方の手勢に襲い掛かった。予想通りに相手方は、動揺していた。それは無理もないであろう。奇襲を掛けようとしている自分たちが、逆に背後から何者かに奇襲されたのであるから・・・。
===== ガキン!! グギャン!! =====
刃と刃が叩き合う音が、嵐の山に木霊する。しかしそれも最初だけだ。次第にその刃が、相手の鎧を、そして肉体を切り込む様に局面が変化していったのである。手勢と手勢。お互い精鋭同志。その命のやり取りは、早かった・・・・。
===== ガシュ =====
私の顔に、血しぶきが降りかかってきた。相手方の騎馬武者が、落馬する。その血しぶきは彼からのものだ。命拾いを私はしたのだった。背後から家来が、相手方の騎馬武者を切りつけたのだ。
「大丈夫でございますか!?殿!」
「かたじけぬ。」
つくづく頼りになる家来を持ったものだ、と思うのであった。しかしそんな事を感じられるのは、ほんの一瞬のみなのである。いまは命のやり取りの最中なのだ。
===== キラッ =====
今は豪雨の真っ最中だが、そのなかでも光を感じた。これは人為的なものだ。そしてそれは何によるものなのか、自分は直感的に分かっていた。
===== これは鎧を反射した光 =====
(信長・・・・!)
決着はつく。それがいかなる結果であろうとも、私は全力を尽くす。
「はあっ!!」
私は刀を振り上げた。考える暇もない。その鎧の武者に襲い掛かったのだ。
===== ガッシイイ =====
至近距離に入ったため、この武者と私は組み合う形になったのである。一対一の男の戦い。此処まで絡み合えば敵味方関係なく、手出しすることは不可能である。無論、私は死を確信している。無傷で済むはずがない。命が残るはずがない。
===== ザッ =====
それは喉笛が裂ける音であった。その一振りが勝負をつけた。血が豪雨にも負けない勢いで噴き出る。そして倒れていた。私の刃に、その鎧武者は絶命したのだ。
===== 勝った =====
私は勝ったのだ。・・・・・織田信長の奇襲を、この私は止めて見せた・・・・。
<続く>




