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神聖祓魔師 インスブルック戦記  作者: ウィンフリート
8/9

アーヘン湖畔の戦い 4

近愛は残虐なシーンがあります。

苦手な人は、読まないでください。

いよいよアーヘン湖畔の戦いは一旦完結します。


 街道を進んでいくと、道を横切るように移動盾が並べられていた。


 この盾は平地戦で弓兵が持ってあるく大型の盾で、自立するように棒がついている。これは飛んでくる敵の弓を防ぎ、弓兵がそこから敵に矢を放つための盾だ。それぞれの盾の後ろには弓を持った兵士達がいる。


 その盾の並べられている街道の先を見ると、この間の状態からはあまり変わってないように見えた。木が倒れ、街道を塞いだままだ。倒木の少し後ろにはバリケードが築かれている。木の柱が建てられ、その柱の間を板でつないでいるようだ。高さが不揃いで、あまり技術的には高くない感じがする。それに低い。低い所には、ゴブリンの頭がチラホラと見える。頭を出してみたり、ひっこめたりしている。軍隊が近づいているのを観察しているのだろう。ゴブリンが頭をよくだすところは低く、俺の馬ならジャンプできそうだ。


 左から右へ一通り見てみたが、急拵え感満載だ。まぁ、ジャンプできそうなところの向こう側には落とし穴がある可能性もあるし、湖の際迄はバリケードが無いので、湖側から回るほうが安全かもしれない。つまり湖の中に一回入って行ったほうがいいかもしれないということだ。記憶では急に深くなっていなかった筈だ。よくここで休憩して、湖に入ったり、手や顔を洗ったりしていたのだから、なんとなく分かる。


そう思っていると、ベルンホルト卿が手を挙げた。全軍が止まる指示だ。俺も横に馬をつけて、もう一度バリケードを観察した。しかし、これだけの資材をどうやって運んだのだろうと思った。山を越えてか?いや、無理だろう。不思議だ。この前、同僚を助ける時にはここまで凄くなかった筈だ。


 ベルンホルト卿は馬を降り、盾を並べているところにゆっくりと歩いていくと、弓兵達の一人が振り返り、敬礼をした。

「隊長、特に異常はありません」

「うむ。ありがとう。奴らの弓は届くのか?」

「はい。腕に優劣があるようで、届かせる小鬼もいます」

「確率的にはどうだ?」

 弓兵は少し考えて言った。

「5本のうち1本ぐらいですが、盾に刺さるほどの威力があるのはその半分ぐらいです」

「そうか、攻撃の1割は危険というわけだな?」

「はい、そうであります。やつらの矢自体の精度がお粗末なためだと思います」

「わかった。持ち場に戻ってよろしい。まもなく、子爵様の軍船がすぐそこの岸に近づき、攻撃が開始される。角笛が合図だ。攻撃が終わる時にもう一度角笛が吹かれるので、そうしたら、騎馬兵で突撃するので、一旦盾を街道わきに寄せてくれ。騎馬兵突入後、すぐに奴らのバリケードを工兵達が解体する。その次の角笛で、槍兵達が突撃だ。槍兵の突撃に合わせ、盾を前に移動し、槍兵の援護を頼む。よいな?」

「おう」

 全員が応えた。

 次にベルンホルト卿は俺の後ろの方に歩いていき、槍兵達に訓示を開始した。


「いいな。前に言ったように、ゴブリンは攻撃するときにジャンプする癖がある。

 ジャンプした時に先に槍をお見舞いすると打ち取りやすい。槍が刺さったら、抜こうとせずに、そのまま押し込み、抜刀してから一旦引くように。槍は捨ておけ。

 槍はいくらでもある。後ろの荷馬車を前に出すようにするので、得物が無くなったら取りに戻るように。また槍が無くなったら、バックラーを持っていけ。剣で勝負だ。荷馬車にはバックラーも積んである。分かったな?」

「応!」


 俺は、馬の上から聴いていたが、ベルンホルト卿の声が大きくて、冷や冷やした。相手に聴こえるんじゃないかと思ったのだ。まぁ、奴らが人間の言葉が分かるかどうかは不明なのだが、危険は冒さないほうがいいと思った。実際に聞き耳の力を持つ者がいたら、丸聞こえだ。作戦が漏れたら先手を打たれる可能性がある。ゴブリンだけでなく、知能の高い魔物がいて指揮を取っている可能性は否定できない。


「船だ。船が来たぞ」先頭にいる弓兵の誰かが叫んだ。


 俺は馬の上にいるのでよく見えた。検問砦の塔の上から見た船だ。

オールが動いているが、漕ぎ手は見えない。船体の腹に開けられた四角い穴から出ているが、ちゃんと奇麗に揃って動いている。すぐに動きが止まり、推進する力を止めようと、水の中に、垂直にオールが入れられた。

そしてアンカーが前後に投げ入れられたようだ。


 検問砦の上からよく見えなかったが、ここからは船が良く見える。


不格好なボートのようだ。妙に側面の板が高い。スリットがあり、恐らくそこから弓を打つのだろう。また、ボートに見えるのは、帆がないからだ。当然マストもない。それに、ここから甲板は見えない。喫水線に対して船体の高さが高いので、なんかバランスが悪そうだ。

オールが引き上げられ、先端の櫂部分を残して、船体に引き込まれていった。塔からなら甲板はよく見えたが、漕ぎ手の場所がなかった。どうやら甲板の下にあるらしい。


突然、前方から奇声が聴こえた。ゴブリンの声だ。何匹かが、弓を手に岸のほうに走っていくのが見えた。街道の上にはバリケードがあるのだが、湖にはみ出した岬のような浜にはバリケードがないので丸見えだった。


そして、水際で立ち止まると矢を放ち、馬鹿にしたように弓を高く上げ奇声を上げ、また後ろに走って戻っていく。それに対して、船から矢が放たれるが、岬のように突出した部分の半分程度しか届かない。すると、その手前で待機しているゴブリン達が飛び上がって喜んでいる。


「あいつらは、矢筒を使わないのか?いや、矢の在庫がないのかもしれないな。

 それにすっかり人間達の矢が届かないと思っているな。お目出たい奴らだ。喜んでいられるのも今のうちなんだがな」

 卿の声に気付くと、ベルンホルト卿は既に騎乗して俺の横に並んでいた。


「そろそろだな。角笛が鳴ったら船に乗っている弓兵達の出番だ。

 エルンスト殿、きっと驚かれるぞ。ラングボーグン部隊の登場だ。

 子爵様が育てた強力な弓兵達なんだ」


 船から角笛が吹き鳴らされた。低い音から跳躍して高い音、それから元の高さの音に戻った。


 次の瞬間、矢を解き放つ時に、弦が弾かれた時に出す音がして、いくつもの矢が空を飛んでいった。そしてその矢は途切れることがなく、船体のスリットから次々に発射されている。


「す、すげぇ・・・」思わず、声に出してしまって、俺は少し恥ずかしく思ったが、それぐらい矢の勢いと数は凄いものだった。矢は、岬のような浜の途中で船の射手を愚弄していたゴブリン達を次々と餌食にし、次々に打倒していった。

次には、街道のバリケードに待機しているゴブリンを貫いているようだ。バリケードの向こうに見えていた小さな頭がどんどん少なくなっていく。

 一群の矢は、街道を越えて、すぐ傍に聳える山の際まで進んでいった。


 俺は少し怖くなった。あの弓兵と戦うことはないのだが、あの射線の下に間違えて入ってしまったら、すぐに死ぬことだろう。ゴブリン達が可哀想にも思える。


「さて、エルンスト殿、次の角笛で出陣ですぞ。準備はよろしいか?」

「応!」俺は力強く応え、気分を変え、自分を奮い立たせた。


 矢の雨は止まった。前方の戦場に静けさが訪れた。その静けさを破るように次の合図の角笛が鳴り響いた。船の角笛だ。


「いざ、先駆けは、私が勤めますぞ!やぁ!」

 ベルンホルト卿は槍を構え、一気に飛び出していった。俺はすぐに拍車を入れて後を追った。


 どのルートを通るのか打ち合わせをしていなかったので、不意を突かれてしまったが、ベルンホルト卿は中央の低めのバリケードを飛び越えた。


 よく調教されている馬なのだろう。軽々と飛び越え、空中に浮かんだ。俺は、落とし穴の危険を考え、右側の湖水側を選んだ。水しぶきをあげながら回り込むと、既にベルンホルト殿は敵陣を駆けまわっていた。俺はほっとしつつ、ターゲットを探した。


 すぐ前に、そいつは立ちはだかった。剣を振り回して俺を挑発しているゴブリンだ。俺は、拍車を入れ、そいつに突進した。剣を躱しつつ、そいつの喉に槍を突き立てた。そいつは槍に刺さったまま、馬の勢いに押されて暫く俺の槍の先にぶら下がった。


 一旦止まり、槍を振ると、そいつは自身の重みで落ちていった。

そしてあたりを見回し、生きているゴブリンを探した。その繰り返しだ。常にベルンホルト卿の位置や、戦闘状態を確認しつつ、動いた。なにしろ2騎しかいないのだ。とはいえ、ゴブリン達の即席砦は狭かった。

 突入場所から、山側をベルンハルト卿、湖側が俺というように区域分けが自然となされた。


 とにかく、立っている魔物は全て倒すつもりで走り回った。バリケードが一部壊されると、角笛が吹かれた。

槍兵が声を上げながら突入してきたが、もう彼らの出番がなかった。至るところにゴブリンの死体だらけになっており、立っているゴブリンはいなかったのだ。


 槍兵達がなだれ込んでくるのを見たベルンホルト卿は叫んだ。

「聞け!抜刀し、倒れているゴブリンに引導を渡せ。

 死んだふりが得意なゴブリンだ。槍で離れて刺しても構わんぞ」


 抜刀するものは少なかった。対象から距離が取れたほうが安全だからだろう。槍使いよりは、自分が剣士と思う者は槍を地面に差し、剣を抜いたようだ。皆思い思いにゴブリンを刺している。

 まだ、微かに息のあるゴブリンもいるようだ。中には、ハリネズミの様に矢が沢山突き刺さったまま絶命しているゴブリンもかなりいた。


 俺は、湖の近くまで馬を走らせ、岬の縁に沿って街道まで戻った。索敵のつもりだったが、もう、ゴブリンは見当たらなかった。街道の南側に少し馬を走らせ、周囲を観察した。いつも荷馬車に付き添いながら走っている道だ。


 暫くいくと、街道は、左は岩の崖、右はすぐ湖になる。いつもこの街道を通っている俺は、ここまできてゴブリンの痕跡がないのなら、もう大丈夫だろうと思い、引き返した。


 戻ると、子爵様が小さなボートで岸に上陸するところだった。ベルンホルト卿も馬を降りてお迎えしているので、俺も近くまで行って、馬を降りた。盾持ちの一人が走ってやってきたので、馬を預けた。借りているとはいえ、やっぱり従者がいるというのはいいなと思った。

 とりあえず、子爵様の前で片膝をついているベルンホルト卿の後ろで同じように片膝をついた。


「大勝利だな。皆、よくやってくれた」子爵様はご機嫌がよい。

「いや、ラングボーグンの威力ですな。エルンスト殿と突入した時に、既に立っているものは殆どいませんでしたから。なぁ、エルンスト殿」

 いきなり話を振ってこられたので困ったが、うまく立ち回らねばいけない。

「は、はい。すごい威力でしたが、一番の勝因は、作戦でしたね。知略の重要性を学ばせていただきました」

 子爵様の方眉がすうっと上がった。

「ほう、エルンスト殿はそう思われたか。どういうところが良かったか?」

「はい。弓の射程が届かないのをゴブリンに信じさせるという作戦ですよね。

あれで、ゴブリンが調子に乗ってましたから、頭にきましたが、そのすぐあとに、ラングボーグンで討ち取られて胸のすく思いをしました。掃討作戦では、騎馬兵にお任せいただきありがとうございます。

 今まで独りで戦うのが常でしたので、ベルンホルト卿とご一緒させていただいて、感謝しております。戦団の一員として戦う、役割を全うするというのは、実に気持ちいいものです。 神の万軍の一員として出陣したような、何と申しますか、神の祝福をその身に受けた子爵様の下で戦うことができ、この上ない喜びを感じました」

 子爵様は大きな声で笑った。

「其の方は面白いのう。吟遊詩人でもやっているのか?本当に口が回る。ベルンホルト、そう思わないか?」

「確かに仰る通りでございますのう。無口だと思っていたら、大した才能をもっておったとは。是非、わが軍に欲しい人材でございます」

「うむ。公爵様に進言してみよう。さて、では検分を行うとするか」

「は!」


 それから子爵様は戦地を視察された。護衛として卿と一緒に後について回るようにベルンホルト卿に言われた。


 子爵様は、最初に、山に向かって進まれた。街道を過ぎ越し、立ち止まられた。

「ヨアヒム」

「はい」

「どのあたりじゃ?」

 ヨアヒムと呼ばれた兵士が走ってきた。鎖帷子にチュニックで背中に大きな弓を斜めに背負っている。腰には矢筒をぶら下げている。

「このあたりです」

 ヨアヒムは後ろを振り返り、船の位置を確認してから数歩歩いた。

「このあたりに見えたのですが・・・」

「うむ。探せ!」


「ベルンホルト卿、例の赤いやつじゃ。ヨアヒムが見た本人なのだ。

 恐らく、魔物を転移させる装置のようなものだと思うのだが、何か仕掛けがあるのではないかと思うのだよ。仕掛けがないのだとすれば、どこにでも魔物が沸いてくることになるだろう?もしもそうだとしたら、以前から頻繁にみられる筈なのだが・・・」

「確かに恐ろしい話ですね。私たちの戦争のやり方が全く違うものになってしまいますぞ。検問砦など不要になってしまう」

「その通りじゃ」


 その会話の間も、ヨアヒムは地面を探していた。小さな穴を見つけたようだ。

「ここのようです」

「む、どれ掘ってみよ」

「は!」

 ヨアヒムは大弓を背から外し、地面に置いた。それから腰から短刀を抜き、地面を掘った。


「何かありました。取り出します」

「待て。直に触らない方がいいぞ。手袋を使え」

  ヨアヒムは、ベルトに挟んでいた手袋をはめて、掘り進めた穴に手を入れ、何かを取り出した。そして、土を払い、手袋で拭いた。


「なんと・・・これだろうな。恐らく、これがあの赤いものを生み出したのだろう」

「子爵様、これは一体なんですか?」ベルンホルト卿が尋ねた。


「私も見たのは初めてなのだが、ザクセン大公様の領地で同様の現象が起こって、その原因が血のような赤い石だったという報告を受けているのだ」

「つまり、それがその石と同じではないかということですか?」

「恐らくは・・・だ。もうそろそろ司教様が来られるので、見ていただこう。

 地面と接触させない方がいいかもしれないな。誰か盾を持ってまいれ」


 近くにいた砦の兵士が跪き、自分の持っていたバックラーを差し出した。

「うむ。ありがとう。それを地面に置いて、その上に石を置いてくれ」

「は!」

 兵士はバックラーを地面に仰向けに置いた。バックラーの中央には手を入れるための窪みがある。そこにヨアヒムが赤い石を置いた。

「ちょっとぐらつくので、盾を抑えておきます」

「すまぬな。バルトロメウス様が来られるまでじゃ」

「は!」


「これを直接地面に置かないのは何故ですか?」ベルンホルト卿が尋ねた。

「まぁ、浅い土の穴の中にあって、例の赤いものを出したのだからな・・・力の根源が土かもしれぬ故じゃ」

「なるほど・・・確かに、流石ですな」


 そこに兵士たちに護られたバルトロメウス司教様が来られた。

「こたびは、大義でしたね。神の祝福を」

 子爵様の前に来られた司教様は、十字架の印をして、皆を祝福さらた。


 俺はその十字架の印に合わせて、自身も印をした。


「これじゃの?聴いていた通りの石じゃわい」

 司教様は小さなガラスの瓶を出した。

「司教様、それは?」子爵様が訊いた。

「いや、聖水じゃよ。いつもお御堂の入り口のところの器に置いてあるものと同じじゃ」

 司教様は瓶の蓋をあけ、しゃがみこんで、赤い石に聖水をゆっくりとかけた。

 赤い石は煙を出し始めた。


「おっと、これはいかんな。爆発するかもしれない。離れて見守りましょう」


 赤い石はシュウシュウと音を出しながら溶け、その後パキッと音を立てて砕けた。


「いかん、いかん。しかし、悪しき力は失せたようじゃ」


「司教様、これはどういうことでしょうか。もう危険は去ったと思ってもよろしいのでしょうか?」

「まぁ、恐らく」

「この後はいかようにすればよろしいでしょうか?」

「力を失っているので、そこの湖にでも、水中深く沈めてしまえばいいでしょう」


子爵様はヨアヒムに、向き直って言った。

「ヨアヒム、司教様のお言葉を聴いておったな。さっき乗ってきたボートで、今から捨ててまいれ」

「は!」


 司教様はニコニコしている。

「さて、では検分を手伝いましょう。ヨアヒム、頼みましたよ。直に触らないようにお願いしますよ」

「は!」

 ヨアヒムは、弓を背中にかけ、バックラーを持って、湖の岸までゆっくりと歩いていった。


「さて、シュテファン殿?」

「はい、司教様」

「ゴブリン共の死体じゃが・・・どうしようかのう?」

「はい、そこの岬の先端で、燃やそうかと思っております」

「おお、いい考えじゃのう。して、灰は?」

「大変ではありますが、燃やし尽くしてから、イン川までもっていって、流そうかと存じます。いかがでしょうか」

「いいお考えですね。大変ですが、よろしくお願いします」

「はい」


 それから、戦場を一通り見て回った。


 すこし先の山の近くで悍ましいものが発見された。ゴブリンが料理をした大鍋だった。


 中には、人間のものと思われる、頭が煮込まれていた。司教様は中身をご覧になり、悲しい顔をされた。

「よく調べてください。どこで殺されたのでしょうか?付近に着ていた服だとかありませんでしたか?」

調べていた兵士が答えた。

「残念ながら、鍋の中から発見できたのは、成人男性のものと思われる、頭、方手首・・・それと、男性の局部だけでした。髪の毛はむしられていましたが、それで男性であると判明したのです」

「可哀想に・・・ということは、ここで殺された証拠は見当たらないわけですね?」

「はい。服や靴などもないことから、鍋の中身は、持ち込まれたものと思われます」

 司教様は下を向いて、頭を小さく振った。

「やはり、転移門を使って持ち込まれたのでしょうね」


 それから、子爵様は、バルトロメウス司教様を伴って、船に乗り込み、アーヘン湖の南側の端まで進まれた。そこから上陸し、アステンベルク城に戻るそうだ。


 俺は、ベルホルト卿と一緒に、検問砦に馬を戻し、食堂で祝勝会に参加し、また例の狭い部屋で寝た。ゴブリンの鍋の中身を見てしまったせいで、飯は旨く感じなかったし、悪酔いしてしまった。


 次の日、補給部隊が検問砦に到着し、すっかり回復した、懐かしい同僚ヨハネが馬に乗ってやってきた。他の二人も元気だった。俺は補給部隊に合流し、護衛のライター、騎馬兵として検問砦を後にした。


 途中で、例の戦場となった場所を通ると、ゴブリンのバリケードはすっかりなくなっていた。アーヘン湖に飛び出るように広がった岬のような浜では、ゴブリンが燃やされていた。


 俺は、またゴブリン鍋を思い出してしまった。


 あの煮込まれていた男は、誰だったのだろう・・・ああいう最期だけは嫌だよな。

あとで聞いたところによると、司教様が葬儀ミサを司式され、アステンベルク城の納骨堂に葬られることになったらしい。足りない骨は足りないままだそうだ。仕方ないよな。


いかがでしたか?


ラーングボーグンはドイツ語でロングボウのことです。三省堂のドイツ語辞書には載ってないんですよ。

イチイの木を使って造られており、歴史ではイングランド軍が使用していました。

同じような弓であると仮定して登場させております。歴史クラスタの方、目くじら立てないでね。

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