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神聖祓魔師 インスブルック戦記  作者: ウィンフリート
7/9

アーヘン湖畔の戦い 3

遅筆ですみません。

巴里オリンピック始まりましたね。セーヌ川とパリと聞くと、ヴァイキングとの攻防戦を思い出します。ヨーロッパ最強のフランク人戦士も敵わないヴァイキング戦士。恐ろしいですね。

パリの人には、彼らの残虐性は殆ど悪魔と映ったでしょうね。

さて、今回のお話は、パリがヴァイキングに襲われた頃から数世紀以上後の話です。場所もパリからは遠く、現在のオーストリアとドイツの国境付近の話です。

 食堂は、中2階の位置にあった。橋のような構造をした砦が持つ3つのアーチのうちの一つが、石を積み上げた壁で覆われた倉庫であり、そのアーチの中に造られていた。


 橋の上から砦の門部分に降りる階段の踊り場から食堂にいくことができた。これは指令室の内部から向かう階段だ。昨日はずいぶん驚いたエルンストだが、もう慣れていた。


「この構造は面白いですな」

 ベルンホルトは立ち止まり、真面目な顔でエルンストを見た。ベルンホルトの瞳の色はかなり薄い青なので、冷徹な印象を与える。

例えば、ベルンホルトが敵だとして、戦場で下馬し、剣で相対しなければならなくなった時に、この氷のような瞳で見られたら、きっと自分でもビビるだろう。妙に感情が読めないと感じた。エルンストは禁忌の言葉でもいってしまったのかと思った。


「エルンスト殿、やはり、司令官たるもの、食堂が近いほうがいいですからな」

 それから破顔一笑、大きな声で笑ったベルンホルト卿は、エルンストの背中をバシと叩いた。

(痛て・・・このおっさん、すげぇ力だわ)


記憶では、指令室から幅の細い階段を降りるとすぐに踊り場があり、そのまま食堂だと思っていたが、踊り場には分厚そうな面持ちのドアが嵌っていた。指令室入り口と同じタイプの頑丈そうなドアだ。

ドアの前、左右に衛兵が二人立っていた。司令官を見ると栄誉礼的なポーズをし、ドアを開けた。


「船から何名か来るので、何も言わず通してくれ。あと、これから作戦会議なので、機密には注意するように」

「畏まりました」右側の衛兵が答えた。


 昨日の雰囲気とは異なり、食堂は会議室然としていた。上座にあたる部分に椅子が一脚。他は、立っている感じの作りだ。食事用のテーブルは畳まれて端に寄せられている。


 昨晩は夜になっていたので分からなかったが、食堂には窓がいくつも設けられており、それぞれに鉄格子が嵌められている。街道の南北両方向に窓が開いているため、風がうまく抜けていく。


 俺は勧められるまま、東側を背にした、中央の椅子に対して北側に立たされた。ベルンホルト卿は、ここに俺が立つからと身振りで示し、それから昨夜は厨房だった隣室に消えていき、すぐに戻ってきた。そして椅子に近い位置に立った。俺の左側だ。


 俺は察した。そう、これは身分高めの貴人がくるとね。恐らく先程の船に乗ってきたのだろう。一介の傭兵である俺がお目通りしてもいいのだろうかと不安にかられたが、もう逃げられない。入り口は一つだ。


 鎖帷子の音がしてくる。階段を下りてくるようだ。それも複数だ。


 扉が開け放たれた。


「子爵、シュテファン・フォン・アステンベルク様」

 衛兵の朗々たる声が響き渡った。


 子爵は、堂々と歩いていき、椅子に座った。騎士が後から入ってきて、俺達の向かいに並んだ。5人いる。子爵様の私兵だろう。最後に高位聖職者が騎士たちの前を通り、子爵の椅子の斜め前に立った。服は煌びやかではないが、手に持ったグルグル杖でそれとわかる。


「ベルンホルト卿、此度は大義であった。迅速な連絡と戦闘態勢の構成、見事であった。公爵様も良き臣下を持たれて、お喜びであろう」


 卿は軽く頭を下げた。

同時に高位聖職者が小さく咳ばらいをした。子爵は肘掛から軽く左手を挙げた。分かったという意味のようだ。


「これらは私達の主、イエズス・キリストのご加護のたまものと宣言したい。

 我ら善良なキリスト教徒は、悪魔との闘いの最前線において、主の憐れみにより頼むものである」

 高位聖職者とみられる人物は頷いた。満足げだ。神への感謝を言わせたかったのだろう。


(思い出した。アステンベルク城の司教様じゃないか?)


 じろじろと見ていたので、高位聖職者がソフトに視線を返してきた。優しい感じだが、鋭さを隠し持った視線だった。俺は軽く会釈をし、視線を下げた。


 司教様はバルトロメウスという。最前線の出城、アステンベルクには主任司祭がいるのだが、自ら進んで教区に赴任した司教様だ。神出鬼没という言葉にふさわしい聖職者で、戦闘の最前線でもどこにでも現れて、全く怯まないらしい。聖戦奉仕会という修道会出身の司教様だからだろう。


「さて、では作戦だが、皆の意見を訊きたい。特にエルンスト殿からも意見をいただきたい」


 俺は驚いた。高位の貴族のわりに、傭兵の意見を重んじようとは・・・。


「まず、今朝がた湖を渡ってきたのだが、やつらが急造した砦というか、バリケードだな、あれは。船を近寄せたら、キーキー騒いで、下手な弓を射かけてきた。

 それでだ、やつらの使う弓の射程距離は把握した。本当に弓はお粗末なもので、矢じりも悲しくなるぐらい貧相だった。しかし、射かけられた我々が撤退すると、大喜びで勝鬨らしきものを上げおった」

「子爵様、此度の作戦に軍船はお使いなられますか?」ベルンホルト卿が尋ねた。

「うむ。実は、今回アステンベルク城から選りすぐりの射手を10名連れてきておる。

 彼らは皆、ラングボーグンの使い手だ。開戦時には彼らに活躍してもらうつもりだ」


 子爵様は不敵にニヤリと笑った。


「やつらには、我らも、しょぼい弓で射返しておいたのだが、情けないことにやつらのバリケードにまで届かなかった。エルンスト殿は知っておられると思うが、補給部隊はよくあの飛び出した岬のような広場で休むであろう?夏は泳いだりする者もいると聴く。あの先端の湖は浅いので、我らの船は近寄れない。

 しかし、この後の戦では、敢えて軍船から攻撃する。ラングボーグン(長弓)でな。奴らは我々が放った矢が届かないという事実を見たばかりだ。まさか届く弓を我らが持っているのだとは思わないはずだ。しかも殺傷力の高い鋼鉄製の鏃を使用する」


 俺はなるほどと思った。人間も魔物も、自分の武器の射程距離は相手と同じぐらい、または自分のほうが長いと思う傾向がある。相手の武器が届かないと笑い、喜ぶものだ。先程の敵との接触で、子爵様の軍は、近寄れない船と届かない弓を演じてみせたのだ。


「それに、奴らは慢心の塊だ。バリケードは街道の上のみに築かれており、側方である、湖側にはバリケードが一切無かった。

軍船が岸に寄せたので、今は上陸を警戒しているかもしれないが、バリケードまで築造するかどうか、見ものだ。

この後の戦いでは、第1段階としてラングボーゲンで射かけて開戦した後、門砦側、つまり北側より、騎兵の突入を行う。これが2段階目だ。

 騎馬兵の数は少ないのだが、エルンスト殿も参加下さると聞いたので、砦より、盾持ちを2名、弓兵を2名付けよう。エルンスト殿、よろしいだろうか?」

 子爵様が俺を見た。

「御意」

 俺は、突然のことで気の利いたことなんか言えなかった。


「騎兵突入のあと、3段階目の攻撃として槍歩兵を突入させ蹂躙する。全て作戦の切り替え時に角笛で指示が行われるものとする。

 何か質問はあるか?」


 バルトロメウス司教が口を開いた。

「一つ、注意すべき要素として例のことを申し上げないといけないでしょう」


 子爵は、はっとした。

「そう。言っておかねばなるまい。彼らがどうやってあの場所に来たかだ」


 その場にいる全員に緊張が走った。これは今回の事件の一番謎の部分だからだ。


「数日前に、アステンベルクのパトロールが例の場所を通過している。その時には奴らはいなかった。勿論バリケードなどなかった。

そして、検問砦を奴らが通れるはずがないし、ましてアステンベルクの監視を潜り抜ける筈がない。全員が睡眠の魔法でも掛けられていたら可能かもだが・・・。

 冗談はさておき、奴らのバリケードに使われている木をみたのだが、このあたりでは見られないような大木の丸太だった。つまり現地調達したものではないようなのだ。

 忌まわしいゴブリンはどこから来たのか?これは本当に忌々しき問題だ。我々の防衛戦略が根底から覆るような大問題なのだ」

 子爵は全員の反応を見て、言った。

「司教バルトロメウス様より、それに関連したお話があるので、拝聴するように」


 子爵は黙って司教を見た。司教は口を開いた。


「今年の聖母月にちょっとした事件がありました。直接的な被害はなく、一体どういう作戦だったのか謎だったのです。

 皆さんも我々神の僕たちが東西に防衛戦線を広げていることは知っていることでしょう。

 その戦線の西の端、ライン川の東岸には、ザクセン公が籠城して奮闘されております。他にも、砦がありますね。皆さんも塩砦という名は聴いたことがあるのではないですか。

 そこの砦には、私の所属する修道会のシスターがいます、そのシスターからの連絡でした。

 塩砦の南には出城として崖の上に新しく建造された塔があります。その塔の付近で、まぁ崖下の斜面ですが、数えきれないゴブリンが行進をしたことが目撃されているのです。

 ゴブリンは地上種のようだが、出城の監視塔が建つ崖のすぐ西から出現し、崖の斜面を横切り、赤き地獄の炎のような、邪悪な門の中に消えていったということなのです。

 彼らは何かにとりつかれたように行進し、幼いものや弱い個体は踏みつぶされていったそうです。もともとゴブリンは地上にも暮らしていましたが、ザクセン公の所領、といってもほぼ魔物の支配下ですが、各地から彼らは集められ、行進し、門の中に消えていった。

 この門とは、一種の転移門であります。かつては、悪魔の使う高級な魔法として知られ、地獄とこの地上を結ぶ門と考えられていましたが、どうやら、考えを改めなければならないようです。つまり、この赤い門の魔法が、今回、地上間の移動に使用されたかもしれないということです」


 全員に動揺が波のように伝わっていった。確かにそのようなものの存在は知られていたが、我々の認識では、高位の悪魔が地獄と地上を行き来するためのものであった。

 しかし、今回の事象が真実とすると、ゴブリンのような下級の魔物でさえ、地上を好きなように移動できるということになる。事実、今回の事件は、それが真実であることを証明しているかのようだった。


 暫くの間、沈黙がその場を支配した。そんな魔法を低級なデーモンであるゴブリンが使えるようになったとすると、我々人間の防衛システムは成り立たなくなるのだ。

 どこでも好きなところに移動できるとなると、検問のために設けられたこの砦は無用の長物に化してしまう。司教様は続けた。


「私たちは、神の僕として、少しずつですが、創意工夫し、進歩を続けてきましたが、残念ながら、彼らも悪しき知恵を働かせ、進化しているのです。

 幸いなことに、この悪魔達の試みは、今回が初めてのようです。彼らにとっても実験のようです。この戦いに勝って、彼らの邪悪な知恵が役に立たないということを、悪の先兵であるゴブリン達に思い知らさねばなりません。

今回の企みが、有効であると思えば、彼らは更に悪い知恵を働かすことになるでしょう。

我々人間の戦いは、この一戦にかかっているといっても過言ではないでしょう。

 最後に、注意すべき点は、今話した彼らの魔法は、山の側にあるようです。湖の反対側です。赤い炎に縁どられた穴が開いているのを見た弓兵がいます。あなた方も、もしもそれを見つけたとしても、決してその穴に近づいてはいけません。

 穴に吸い込まれると、恐らくそこは地獄か、もしくは魔物の巣窟でしょう。今回の作戦の目的は、街道に巣食う魔物の殲滅です。悪戯に死地に赴く必要はありません。

 それでは、貴公ら神の兵士全員に神のご加護がありますように。父と、子と、聖霊の御名によって、アーメン」

 全員が司教様の祝福に合わせて十字架の印をし、アーメンと唱和した。


 子爵様が解散を命じ、一旦全員が食堂を離れた。これから食堂を復旧し、昼食が出されるらしい。それまで砦内で待機とのこと。


 子爵様達は、指令室の横、食堂の反対側にある貴賓室に向かったようだ。


 俺は、時間を潰そうと砦の南側に立った。街道は少し先でカーブしているため、ゴブリンが占拠している所は見えない。


改めて見ると、実に奇麗な景色だった。街道の上を移動するときに比べ、高い位置にいるためか、よく知っている筈だが、まるで別の景色に見えてくる。

湖は青く、空の色を反射し、更に青くなっている。そして、左右の高い山が湖面に映っている。風が湖面を渡り、鏡のような水面を揺らした後、さわやかな空気を砦まで運んできている。


(ふふふ。この後死ぬかもしれないのだが、意外に精神的には平穏を感じているな・・・不思議だ)


 エルンストは、傭兵だ。しかし、軍として一つの指揮下に入って戦うのは初めてだった。補給部隊の護衛だと、盗賊との闘いや、魔物との闘いはあるが、局地的で単発な戦いだった。


 今回、軍としての作戦に参加するとまで思っていなかったが、立場上逃げることもできないし、参戦することを拒否するなど不可能だった。何しろ、人間対悪魔の戦いなのだ。

 ここで尻込みするわけにいかない。子爵様やベルンホルト卿の軍隊が負ければ、俺達も危うい。傭兵の仕事がなくなるぐらいならいいが、その赤い炎の穴から悪魔の大群が出てきて、襲われるかもしれないのだ。馬がいれば逃げ切れるかもしれないが、例の穴がどこに出てくるかわからないとなると、かなりやばい。俺は腹をくくった。


「エルンスト殿。ここだったか」

 その声に振り返るとベルンホルト卿だった。卿は何か光るものを持って近づいてきた。


「どうだね。新しく開発された胸当てなのだが、付けてみてくれないか?実戦でテストしたいのだよ。鎖帷子の上につけるだけなんだが・・・」

 見ると、金属でできた部分鎧のようだった。


「ほほう。なんか生存確率があがりそうですな。いいですよ。試しましょう」と俺は答えた。

「おお、ありがたい。私も付けて出陣するので、ともに生き残ろうぞ」

 卿が後ろにいた従者に合図すると従者はそれを受け取り、俺に会釈してから、付け始めた。

意外と重そうだったが、付けるとそうでもなかった。まぁ、重さは馬が感じるのかもしれない。


「おお、似合うじゃないか。今回の戦だが、巻き込んでしまって申し訳ない。子爵様の思い込みで、エルンスト殿も出陣されるということになってしまったのだ」

 ベルンホルト卿は、すまなそうな顔をしている。

「いや、寧ろ作戦に参加させていただき、忝いと思っております。それに、元々戦おうと思っていましたから・・・ここで戦わず、逃げても、どこかで奴らと相対することになりますからね」

「すまない。ところで、司教様から耳打ちされたのだが、どうも奴らには指揮する魔物がいるようなのだ。見かけた者によると、ゴブリンではないようだ。悪魔でなければいいのだが・・・とにかく、赤い炎の穴には近づかないでくれ。あと、飯の準備ができたようだ。食べにいこう」

 ベルンホルト卿は複雑な表情をしていた。従者によって指令室のドアが開かれ、そこに入っていった。俺は後をついて指令室を通り、食堂に降りていった。


――――――――


 食事のあと、俺は厩に行った。従者がいないから自分で馬の準備をするのだ。馬は既に砦の馬丁によって世話をされているので、馬具を付け、顔を撫でた。


 今回の戦いで心配なのは馬だけだ。俺の馬は戦いの訓練はしているが、敵は弓を使う。俺は馬が射られないことを願った。


 馬に乗って、検問砦の前にいくと、検問砦の北側の門はすでに開け放たれていた。砦の北側の街道には兵士たちが並んで待機している。白い馬に騎乗したベルンホルト卿が俺のところにやってきて、並んでいる兵士達を人選し、俺のところに連れてきた。


「今回、エルンスト殿の補助をする4人だ。よろしく頼む。では、また」


 俺は、唐突な感じの丸投げに戸惑ったが、4人に挨拶をし、戦闘の方法について打ち合わせをした。


・戦闘ユニットとして動く時は、二手にわかれ、馬の左右についてもらう。

・一緒に走る必要はない。基本馬を狙ってきた敵を迎撃がメインである。

・盾持ちは、馬の側面のやや前方に待機し騎兵(俺のこと)を守る。

・弓兵は盾持ちの後ろに付き、近づいてくる敵を狙う。盾持ちは飛んでくる槍や矢から弓兵も守る。

・基本的に騎馬兵が突入するときはその場に待機すること。走ってついてこない。突入後は戻ってくるので、敵に追われていたら、撃退し、馬が回頭できたら、元の馬の左右に立つ態勢に戻る。


 まぁ、俄かの戦闘ユニットだから、あうんの呼吸のような連携プレーは期待できないが、盾持ちが側にいるというのは安心できる。本来なら練習して連携の動きを身体で覚えるものなのだが、致し方ない。ともかく借りた兵士の命は大事にしないといけないと思う。だから、突撃は俺だけで行うことにした。実際魔物の中に切り込んでいくのだから、普段から独りで戦っている俺にとっても兵士たちのことを気にしなくていいので楽だ。


 そんなことを考えていたら、またベルンホルト卿が近づいてきた。


「エルンスト殿、まもなく出発するぞ。街道を進むときは、私の横に並んでくれ」

「了解しました、いつでもいいですよ」

「そうか。頼もしいな。子爵様は、もう船にお乗りになられた。我々は騎馬兵を先頭に街道を進む。やつらの矢が届かない位置で留まり、プレッシャーをかけることになっている。

 そうしているうちに、子爵様の船が到着し、角笛の合図とともに矢の攻撃が始まる」

 

「わかりました。ところで他に騎兵が見当たらないのですが、どこにいるのですか?」

 ベルンホルト卿はニヤッと笑って答えた。

「ここにいるだけだよ」

「そ、そうなんですね」


 その時、角笛が鳴り響いたので、会話は中断されてしまった。

「船が出たようだ。私達も行こう」


 砦の南側の門が引き上げられていった。ベルンホルト卿は扉の前で待機し、上がっていく鉄格子の門を眺めている。私は卿の横に並んだ。卿の左右にも兵士が二人ずつ待機している。

 鉄格子が上がりきると、卿は手を上げ、進めという合図をした。俺達は出陣した。


 検問砦を出たところの街道は狭く、左側は切り立った崖、右側は湖だ。こんなところに道を造るというのは大したものだ。

 軍勢は、ゆっくりと進んでいった。ベルンホルト卿が話しかけてきた。


「すまんな。騎兵が私だけでは様にならないのでな」

「いや、もう気にしないでください。目の前にある危機なら取り除いておかないと。それに、この道が通れないと生活できませんからね」

「ありがとう。そう言ってくれるとうれしいものだ」

「いえいえ、他の連中も戻ってこれたらよかったのですが」

「ああ、騎兵の二人だな?」

「そうです」


 ベルンホルト卿は少しの間、黙った。


「まぁ、砦に籠って戦う戦法が中心になってしまったからな」

 卿は振り返った。

「ほれ、見た通り、歩兵ばかりだ」


 俺も振り返ってみた。盾と槍を持った兵士が列をなして歩いている。その後ろには、弓兵が並んで歩いているようだ。


「御覧の通り、検問砦の戦うやり方は、籠城して飛び道具で戦う戦法だ。上ってこられたときは、弓兵は退き、槍兵が対応する仕組みになっている。

 今、殆どの兵士を連れ出したので、敵に襲われたら、砦は持たないだろう、なるべく早くあいつらを殲滅して戻りたいというのが、本音だ。おお、着いたぞ」


 ベルンホルト卿は手を挙げた。全員が止まった。


いかがでしたか?

次回は、戦闘開始です。ご期待ください。

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