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神聖祓魔師 インスブルック戦記  作者: ウィンフリート
3/9

街道パトロール 1

ヘルマンとバディを組むことになったインスブルック砦の新兵オットーは、砦の外へパトロールに向かうことになった。勿論、初任務である。

 俺達全員が砦の西門を出ると、吊り橋がガラガラと鎖を巻き取る音を立てながら引き上げられていった。生きて帰ってこられるか、結構不安ではあるが、砦の兵士である以上、通らなければならない通過儀礼のようなものだ。街道のパトロールというのはそういうものだと先輩からは聴いた。


 俺の即席バディ、ヘルマンは後ろを振り返り、不安そうに言った。

「帰ってくるときに盾に載せられていないといいんだが」

「最初から嫌なことをいうなよ」

「いや、動けないと盾に載せられて運ばれるってきいたんだよ」

「それならまだ生きているんじゃないか?完全な死体になったら遺体の回収は馬車らしいぜ」

「そうなのか」

「ヘルマンはいいぜ、盾が大きいからな。俺なんかバックラーだからな。運べないぜ」

「その時は俺の盾を貸してやるよ」

「ははは、ダンケ」


 俺たちは隊長を先頭に一定の間隔で散開しながら歩いていった。固まって歩くと、一斉射撃を受けた時に当たる確率が高くなるらしい。すぐそばの奴が矢を避けたら、俺が避けられず当たるってこと。まぁ、理屈はわかる。ジャベリンとか矢が大量に飛んできたら避けるのは難しいだろうな。俺だって固まって歩いている敵を攻撃したほうが当たる確率が高くなるのは分かる。


 今、俺たちが歩いている、砦から伸びているこの道は、砦に向かう新しく造られた道で、古代ローマ時代に造られた旧街道に接続している。ローマ時代と同じ構造になるように造られたそうだ。千年以上前の道がまだ使えるんだから、同じに構造になるように造っておこうってことらしい。


古代ローマ時代の道は、旧インスブルックの街と繋がり、北はフランク王国の古都などに繋がっている。南はアルプスの山中を通り、イタリアの都市に繋がっているが、今、街道は悪魔の軍勢の砦によって分断されており、通行することはできない。なにしろ高山地帯なので、通行できる箇所が限られているのだ。


インスブルックの街は、千年以上の歴史を持っており、ローマ時代の街道をすこし下がったところにある。イン川の近くだ。しかし、荒廃した廃墟ばかりだ。ここは人間と悪魔軍の戦場なのだ。


 俺達の砦であるインスブルック城は旧市街ではなく、少し谷を登った、高山の裾野の傾斜地に建てられている。従って、城へ向かう新道も、斜面の一部を削り取って造成された。今俺たちは西に向かっているが、右側は上る斜面、左側は降りる斜面だ。新しい道だけが平らになっている。


 道の左右に森は無く、ただ単に短い草が生えているだけだ。もともとは小さな森がところどころにあったらしいが、街道の安全のために殆ど伐採されたそうだ。この道は、馬車が並んで通れるぐらいの幅はある。


 インスブルック砦が必要とする、すべての物資は、この道を通って運ばれてくる。いわばこの道は砦の生命線だ。今回のパトロールも、この道の安全に関する作戦の一環らしい。


 歩いているうちに、道は分岐したところに差し掛かった。


「全員、2列縦隊で集合してくれ」先頭を歩いていたハンス隊長が振り返り、手を挙げて皆を招いた。俺達は走って集合した。


「見ての通り、ここからローマ街道になる。この道を真っすぐいけば、テルフス砦にいけるし、途中で上に登る道をいけば、ミッテンヴァルト砦にいける。下に向かうと旧インスブルック市街地だ。

 今日の任務の目的は、この街道のパトロールだ。初めての兵士もいるので説明するが、この作戦では、何が起こるか分からない。予測不能だ。熊との遭遇の可能性もあるし、狼の群れに囲まれる可能性もありうる。そして、厄介なゴブリンだって出てくるかもしれない。

まぁ、熊や狼ならあまり心配が要らない。基本的にトラブルを避けようとするからな。だから奴らは殆ど出てこない。しかし、困るのはゴブリンだろう・・・非常に攻撃的だからな。

 この中で、ゴブリンを見たことがあるものはいるか?」

 何人かが手を挙げた。

「よし、では戦ったことがあるものは?」

 手を挙げる者はいなかった。

「そうか。そうだよな。まぁ、今日遭遇する可能性は低いが、襲われる可能性も皆無ではない。十分、注意して欲しい。最近、付近での目撃情報もあるからだ」


 隊長は自分の言葉が兵士たちに十分浸透するように、少し時間を置いてまた話した。

「ということで、ゴブリンについて少し説明しておいたほうがいいだろう。

 ゴブリンがすぐそこにいるのに、気づかないっていうのも困るからな。

 まず、ゴブリンは何色の生き物だ?」

「はい。緑です」後ろのほうの奴が答えた。何となく見たことはあるが、知らない奴だ。

「ちょっと違うのだな…それは、先入観というものだ。実際にゴブリンを見るとわかるが、緑ではなく、濃いめの灰色だ。

 ゴブリンが緑だ、緑だとい思い込んでいると、発見が遅れたり、正しい対処ができなくなる可能性が高くなる。気を付けるように」

「はい」皆が威勢のよい返事をした。全員の隊長を見る目が変わってきた。


「よし、次に、ゴブリンの攻撃パターンとして、一番可能性が高いのはどういう攻撃だろう?」

「ミッテンヴァルトの学校で習ったのですが、上から飛び降りてくる攻撃です」

 隊長は満足げな表情をした。

「よし。その通りだ。いいぞ。ということは…このあたりでは、どのようなことに注意すべきだろうか?

 おや、即答するものは居ないか?じゃぁ、当てるぞ。オットーどうだ?」

(まさかの俺か、こいつは困ったぞ。いや、でも普通に考えて応えればいいんだろう?確かミッテンヴァルト兵士養成学校では…)


「森に入った時に、上から飛び降りてくるサドンアタックです。飛び降りるだけでなく、弓矢を射かけてきたりします」

「そうだな。更に付け加えるとすると?」

「はい。毒矢に警戒します。あと、吹き矢の可能性もあります。吹き矢の先は針でできていて細いので、鎖帷子の間を通る可能性があります。当てられてしまった場合は、すぐに毒消し剤を飲むか、傷口に塗り込みます」

「よろしい。で、毒消し剤は持参したかね?」


 俺は真っ青になった。実際に教わった通りに応えたのだが、そういえば、毒消し薬とか見たことも触ったこともない。

「申し訳ありません。持参しておりません」


 俺は相当落ち込んでいるように見えたのだろう。隊長は同情してくれて、声をかけてくれた。

「いや、いいんだよ。装備として渡していないからな。心配しなくてもいい。俺がもっているので、俺に何かあったら、ここのポーチを探れ。

恐らくそういうことが起きた時は俺も死んでいるだろうからな…死者の尊厳より、生きている者が生き延びることが大事だ。それに毒消しの効能を持つ薬草なら、近くの森でも見つかる。今度探してみよう。持って帰れば、砦の薬師が薬にしてくれるぞ」

「え?どんな草ですか?」

「おい、どんな草かって聞かれてもな・・・口で説明するのは難しいぞ。薔薇ぐらい特徴のある草なら説明できるかもだがな。

まぁ、ここにはないが、その薬草の絵なら帰ればある。有名なヒルデガルト・フォン・ビンゲン様の薬草の写本が砦の隊長室にはあるので、だれか、羊皮紙に描き写して、皆で回覧するといい。もしも、今回のパトロールでその辺に生えているやつを見つけることができれば、教えるけどな」


(隊長室には、入ったことないし、無理だよ。えっと、ヒルデガルト様というと・・・まだご存命の修道院長様だったな。確か、ミュンヒンの大聖堂にも説教にいらっしゃったことがあった。母親達が騒いでいたのを覚えているよ。ミュンヒンまで御ミサに参加しに出かけた筈だ。聖女の誉れ高い御方らしいし、)


 聖人や聖女というのは、生きている内はそう認定される筈がない。

それは、パパ様が確かに天国に召されたと確信し、教皇として宣言するものだからだ。生前は聖女だと騒がれながらも、死後の教会の列聖調査で、秘密を暴かれ、認定されないという者もいるらしい。俺は、ミッテンヴァルトで神父様から習った恐ろしい話を想い出した。


 ある地方で、犯人の分からない殺人や行方不明者が急に増えたので、教皇庁からエクソシストが調査官として派遣された。その調査官が調べたところ、ある聖職者が帰天(死ぬこと:聖人なら天国に行くため、天に帰るといった表現を用いる)した夜から事件が急増したことが判明した。


 調査官が現地の大司教様の立ち会いのもと、その生前の行いから、聖人ではないかといわれていた聖職者の墓(納骨堂のように出入りができる共同墓地)を暴いたところ、墓の中で、その聖職者は生きており、夜な夜な墓所を抜け出して人を襲っていたことがわかった。墓の中には行方不明になった人々の骸がバラバラにされた状態で転がっていたらしい。


 死後に人を襲い、その肉を食べるという悪鬼グールの存在はよく知られた話であり、各地で同様の記録が残されている。


その聖職者だった悪鬼は、悪魔との契約で骸でありながら生き続け、人の肉を求める存在となってしまったわけだった。無論、すぐに捕らえられ、火刑に処せられ、その灰は川に流された。


このように聖なる普遍の教会といえども、内部からの悪魔の攻撃に常にさらされている。内部崩壊を狙うというのは、太古から悪魔が良く採用する戦略の一つであるわけだ。


俺は、隊長の声で我に返った。


「さて、そろそろミッテンヴァルトからの輸送隊が通る時間だ。彼らを見送ってから、その先に行くとしよう。暫く休憩とするので、その付近に座って待機してくれ。輸送隊が来たら、声を掛けるので、総員、道の左右に分かれて立ち、見送ることにする。わかったか?」

「はい」

「では、散開」

「おう」


 俺は、街道から下におり、その辺にあった切り株に座った。俺の即席バディも隣にあった岩の上に座った。


(ヘルマンっていったな。一応、俺達はバディだし、何か話しておくか)


「ヘルマンは、どこの出身なんだい?俺は、ミッテンヴァルトだけど」


 ヘルマンは人懐っこそうな青い目をぐりぐり動かしている。

「生まれたのはミュンヒンだよ。俺の家は商家でね。砦向けの食材を卸しているんだ」

「なんだ。じゃ、兵士にならなくてもいいんじゃなかったのか?」

「いや、俺は末っ子でね。商売は兄貴たちがやってる。俺には出番がないからね。砦で兵士をやってれば、なんか商売のネタでも見つけられるかもしれないし、軍とのコネもできるかもしれないからね」

「すごいな。すでに左うちわなのに、更に新しい商売を探そうとか、意識高い系なんだな」

 ヘルマンは目をそらし、俯いた。

「オットー、俺は家を出されたんだよ。商売の才覚無しと兄貴たちに言われてね。

 それに、砦相手の商売はおいしくはないんだ。価格は統制されているから、儲けというより経費なんだよな。仕入れ値が高騰しても同じ価格で提供しなければならないんだ。

 かつかつなんだよな。だから俺は食い扶持を自分で探さないといけなかったんだ」


 俺は、軍人の息子だから、商売のことは全く分からないが、ヘルマンは、ヘルマンで大変なんだなと思った。俺の知る限り、兵士の子は兵士しにか成れないし、全く知らない仕事に就くなんて想像もできないから、ヘルマンが軍人の道を選んだことに正直驚いた。生き方を自分で選ばなければならないなんて、俺には多分できないと思う。

 貴族なら、本来の家業である軍人以外に、聖職者の道とか、学者の道とかあるらしいが、俺達には選択肢はない。


「すまん。辛気臭い話になっちまった。ま、ミュンヒン育ちだよ。オットーはミュンヒンに来たことあるか?」

「あ、ないんだよ。お袋は教会の巡礼で、行ったことがあったよ。さっきハンス隊長が話されていた、ヒルデガルト様の説教を聴きにね」

「ああ、俺のお袋も聴きにいっていたよ。女性たちに人気だからな」

「そうだな。女性たちの憧れだよな」


「全員集まれ、街道の上下に整列し、補給馬車を見送るぞ」


俺達は走って、街道の上下に並んだ。

「おい、馬車隊から見て、左右同数になるようにしろ。オットーとヘルマンは仲良く並んでないで、どっちか上側に来い」

 ヘルマンは、俺が行くって目で合図して、街道の上側に移った。俺達は槍を身体の右側に直立させ、石突を地面に置いた。そして、盾を身体の前で構えた。

 ハンス隊長だけは、抜刀し、顔の前で剣を直立させて栄誉礼のポーズを取った。


 街道の先のほうから、蹄の音と、馬車の車輪が転がる音が近づいてくる。


 こういう時に動かないのが掟だ。俺は、馬車列を色々と舐めるように見たかったが、ぐっと我慢した。荷馬車は、3台だった。それぞれに御者がいて、武装している。それだけでなく、馬車の荷台の後ろには護衛兵の立つ場所があり、弓を持った弓兵が二人、槍を持った槍兵が二人、並んで立っていた。荷台の後ろがデッキのようになっていて、そこに立っているのだ。俺は、ミッテンヴァルトからの距離を考えて、これをずっと立っているのは大変だろうなと思った。

 そして、一番心を惹かれたのが、警護の騎馬兵だった。馬車列の前後に2騎ずつ並んでいた。片手で馬をコントロールしつつ、槍は地面と平行に構えたままだ。盾は、細長いタイプで、下のほうがすうっとすぼまっている、騎兵用の盾だ。それを革ひもで吊り、型から腕にかけて攻撃からカバーできるようにセットしている。


 子供の頃から、騎馬兵、つまり、ライターになるのが夢だった俺は、興奮した。首は動かせないものの、眼をぐりぐりさせて貪るように観察した。もう変態じみていたかもしれない。しかし、結構満足した。特に俺が注目したのは、騎兵の足だ。そう、特に拍車だ。


 この車列の騎兵たちは皆、銀の拍車をつけていた。

(うーん。いいね。堪らんよ。格好いい)


 ミッテンヴァルトには、騎兵の養成はなかった。まず、馬の飼育には大変金がかかる。俺達兵士階級には到底賄えない。俺は、子供の頃、騎兵にあこがれていて、いつか自分も騎兵になれるものだと思っていたのだが、どこにもそんなルートが無かった。絶望したのを子供心に覚えている。貴族の子弟だと、子供の頃から仔馬を与えられ、乗馬の訓練ができる。むしろ義務だそうだ。俺がミッテンヴァルトで習ったのは、騎兵からの身の護り方と、騎兵の倒し方だけだった。


「はい、止め。集合、また散開しつつ、前進するぞ」

「おう」

 俺はまた走って縦列で並んだ。歩きだしてから少し経ってヘルマンが話しかけてきた。


「さっきの馬車、食料だったな」

「そうなのか。お前のうちの商品も入っていたのかもな」

「わからんが、武器ではないみたいだな」

「そうなのか?どうしてわかるんだ?」

「ああ、簡単だよ。武器の場合、ミッテンヴァルトには寄らないから、ミュンヒンからの直送便なんだよ」

「え?なんで寄らないんだ?」

 俺は、ミッテンヴァルトに寄らないなんて、ないがしろにされような気がして少しむっとしてヘルマンに訊いた。

「武器が途中で襲撃されても困るだろ?2頭立てじゃなくて4頭立ての高速馬車で、しかも護衛がかなり多いんだよ。ミュンヒンから出ていくのを何回か見たことがあるんだ。騎兵だって12騎は配置されてるんだぜ」


 俺は想像して気持ちが高揚してしまった。

「すげぇな。俺、見たことないよ」

「ああ、ミッテンヴァルトは通らないで街道を直進するらしいぜ」


(そうか。確かに、谷を抜ける街道はまっすぐだけど、ミッテンヴァルト砦にはY字路で分岐していくものな)


 ミッテンヴァルトは、比較的最近造られた砦だ。東西に高い山が聳える谷を古代ローマ街道が貫いているが、比較的幅が広い谷で街道は谷の東側を直進する。卒業試験で登った例の高山側だ。

(軍事物資だからな。あの辺は魔物は殆どいないが、盗賊は出るから)


「まぁ、直送便というのは、盗賊対策もあるらしいぜ。申し訳ない。お前の街をスルーして」

ヘルマンは俺の心を読んだかのように、盗賊について言及した。

「いや、ヘルマンが謝る話じゃないぜ。悪魔と戦っているのに物資を盗もうなんて許せないよな」

「まぁ、盗賊そのものが悪魔の手先だから仕方ない。だから捕まえたら全員処刑だからな」

「ああ、そうだよな。当然だ」


 盗賊や追剥はいつの時代にもいるようだが、まさか人が悪魔と戦っている、こんな時代でさえ、跋扈している。困ったものだ。

 また、盗賊は微妙なエリアに生息していることが多い。ミュンヒンだとか、大きな街には居ない。すぐに討伐されてしまうからだ。しかし、ミッテンヴァルト付近のように、人が砦の中で隠れ暮らしているような危険なエリアは、彼らにとっても隠れ家を構えやすい。ミッテンヴァルトより南にいけば、盗賊に襲われたのか魔物に襲われたのか判別つけることができないからだ。死体さえ隠してしまえば、闇から闇に葬られることになる。


「直送便の車列も見てみたいものだな」

「オットーは見たことがないのか。それもそうか。ということは、先程の車列も初めてみるのか?」

「外を走っているのは初めてだよ。そもそもミッテンヴァルトから出る車列は子供のころから見ていたからな」

「ああ、そうだよな。あの車列はミッテンヴァルト発だもんな」

「おう。ライター(騎馬兵)達もミッテンヴァルトに住んでいるからな」

「へー、そうなんだ。ということは、厩舎もあるんだな」

「おいおい、厩舎がないってあり得ないだろう?」

「あ、そうだよな。ミッテンヴァルトに行ったことがないから、よくわからないんだ」

「そうか。狭い砦だけどな。厩舎は南門の横にあって、ライター達もその横に家があるんだ。ま、守備隊も南門近くに隊舎があるんだよ。そして、北門付近に俺らの家があって、訓練は北門と南門の間にある広場というか、訓練場がある。教会は訓練場に面していて、一番西側にある。そこにあると、南門付近の人も、俺ら北門付近の住人も等しく行けるからな」


 ヘルマンは俺の話を聴きながら想像を膨らませているようだ。


「面白いな。ミッテンヴァルトってどこかの修道会はないのかい?」

「ああ、聖戦奉仕会系のブラザーやシスターはいるけど、教区の補助だな。自分たちの施設はなくて、教区の教会に間借りしている感じだ」

「ふーん。ミュンヒンだと、聖戦奉仕会は大きな聖堂を構えているぜ。修道会への勧誘も盛んだったよ」

「へー、ということは、ヘルマン修道士の可能性もあったんじゃないか?」

「そうなんだよ。一時期、進路に迷っていた時、真剣に検討したこともあったけど、貴族出身者が優遇されるだろう?商人の息子で、しかも金がだせるほど裕福じゃないしね」


「全員集合!」

 隊長の声が街道に響き渡った。俺達は全員全力疾走で集まった。

「これから廃屋の調査を行う。殆どが何もないのだが、稀に魔物や獣が住んでいる場合もあるので注意を要す。入り口のところに記号が書かれているが、それは前回チェックしてクリアになっていますという意味だ。その日付が古い場合は注意しろ。そもそも記号が無い場合は心してかかるように。あと残念な話だが、盗賊が根城にしていることも想定しておけ。

 廃屋はここから下部分の斜面の比較的なだらかになっているところに散在している。

 2百年前は、普通の家だったものだ。二人一組で突入は一人で、残りがそいつの安全を担保するように。交互に突入するように。何かあったらすぐに仲間を呼べ。

 では、かかれ!」

「おう!」

 俺はヘルマンと斜面を降り始めた。何もでなければいいのだが、さて、どうなることや


ライターというのは、英語だと、ライダーで乗る人のことです。

当時は、騎馬兵を指しました。そう簡単になれるものではなく、やはり環境に左右される職業でした。

別シリーズで描写していますが、6歳あたりから、仔馬を与えられ、世話や乗りこなすなどの訓練が始まります。これは、身分の高い人の場合ですが、文中のオットーは子供の頃、ライターになりたいと思っていたため、実際の騎馬兵を前にして興奮してしまいます。

 余談ですが、騎士はドイツ語でリターと言います。字面は似ていますね。

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