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「……私、凄く悔しかったです」
「信頼していた仲間の、取り返しのつかないやらかし行為」
「そのせいでリルシェが、ノルシェのように素顔で出歩けないほどの有名人になれば、これまでのようなリルシェとしての冒険者活動は難しくなります」
「アリシエラさんにお願いすれば、新しい変装魔導具で別のキャラとしてやり直すことは出来るでしょう」
「でも、リルシェとしてウェイトさんと共に冒険すること、もう出来なくなっちゃいます」
「それが凄く悔しくて……」
リルシェさん、残念ながら手遅れですよ。
「……」
あのボケモノクッキーの発売開始は、
俺たちがヨレン師匠護衛任務でペットリモ村に到着した頃だそうですね。
「確かにボケモノ人気を考えると、発売されたばかりですが手遅れでしょうね」
いえ、そうではなく、ボケモノクッキー程度では、
リルシェさんの有名税問題には焼け石に水だってことです。
サイバルミスタの街、ニルシェ王都、コレイカダンジョン、ペットリモ村、
俺たちのニルシェ王国内での冒険の旅の足跡、その全てでリルシェさんは、
ずっと『乙女の守り神』として活躍し続けてきましたよね。
コレイカでリルシェお姉さまに群がってきた熱狂的なファンのこと、
覚えています?
どこへ行ってもリルシェさんが『乙女の守り神』として振る舞う限り、
あの熱い視線からは逃れられないですし、それこそがまさに有名税ですよね。
だから、ボケモノクッキーうんぬん以前に、
とっくに手遅れだったってことです。
俺は、そんなリルシェさんと一緒にふたり旅出来ることが、
凄く誇らしいです。
「……私、もう一度エルサニアに行ってきます」
「ネルコさんに酷いこと言ってしまって……すぐに謝らなきゃ」
はい、皆さんにもよろしくです。
里帰り、もっとゆっくりしてきても良いのですよ。
今回は俺、寂しくないと思うし。
たぶん。




