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ボケモノクッキー封入カードには、極まれに"当たり"があるのです。
激レアカードに超人気冒険者のサインが金箔押しされた"金カード"
同様に、銀箔押しされているのが"銀カード"
現役の著名冒険者の直筆サインそのままに箔押し、ならまだしも、
大昔の伝説の冒険者のそれっぽいサインの真贋は……
それはともかく、問題は高レアカード封入率の異常な低さだけでは無く、
より射倖心を煽るその商法。
"金カード"なら1枚、"銀カード"なら5枚、
集めたカードを速達鳥の往復便扱いで販売元へ送ると、
なんと『魔導具のカンズメ』がもらえちゃう。
カンズメの中には超希少な"伝説級の魔導具"が入っている……かも。
そう、それすらもギャンブルなのですよ。
一介のお菓子メーカーが伝説級魔導具なんてほいほい用意出来るはずもなく、
送られてくるのはほとんどが、ちょいと珍しい程度の微レア魔導具。
正直、交換に要する激レアカードの方がよっぽど価値があるってなくらいの。
それでも実際に超凄い魔導具が入っていたことも無くは無かったというのが、
何とも始末に負えない。
この商法を糾弾されたお菓子メーカーの言い分は、
「『魔導具のカンズメ』そのものが、価値あるプレミアム商品なのです」
確かにプレミアムなカンズメだったそうですよ。
何故ならその材質は、超レア素材"アダマンタイト"
ちなみに、開缶は有料サービスだったとか。
まあ、アダマンタイトのカンズメを開けられるような道具なんて、
普通のご家庭は常備していないわけで。
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「ボケモノクッキー商法はかなりの大騒動となりました」
「詐欺とは言えませんが倫理的にアウト、というのが当時の世論」
「お菓子メーカーは激しく糾弾され、結局ボケモノクッキーは販売中止に」
「社運を賭けたプロジェクトが潰れたことにより、メーカーは程なくして倒産」
「今では、"金カード""銀カード""魔導具のカンズメ"は『3種の神器』などと呼ばれており、マニアの間での人気も非常に高く、いまだに裏取引の噂さえもちらほらと」
そんな激ヤバお菓子が、何故こんなところに。
とりあえず調査のために何個か買ってみますね。
どれどれ、箱の裏とかに封入カードの情報は……
『この商品には通常販売品と同等のボケモノカードしか入っておりません』
……なるほど。
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本日のお泊まりは、集落にある小さなお宿。
ひと部屋ですが、ちゃんとベッドはふたつあるし、たぶん大丈夫。
ボケモノクッキーについては、
先ほどリルシェさんが魔導通信でニルシェ王都司法省に問い合わせたそうです。
それによると、現在販売されている商品に違法性は無い、とのこと。
例のお菓子メーカーの従業員たちが再集結して再始動。
比較的騒ぎが大きくなかった魔族領で再出発のリベンジ創業。
特製オリジナルレアカードや激レア素材カンズメは会社の体力的に無理なので、
封入カードは既存のボケモノカードから再収録することに。
まずは魔族領内で人気のカードを徹底リサーチ、
これまで世に出たカードから厳選された魔族領向けラインナップが完成。
今回の魔族領内での試験販売が上手くいったら、
それぞれの国や地域に合わせたボケモノクッキーをいずれは世界中に、
という真面目で真っ当な販売戦略。
うん、それこそが健全なおまけ付きお菓子の在り方ですよね。
「違法性も過剰なギャンブル性も全く無いお菓子で、子供たちも安心ですね」
「せっかくですし早く開封しましょうっ」
おっと、リルシェさんがやる気満々ですな。
では、6個入りの大箱を買ってきましたので、
お互い3個ずつ開封してみましょうか。
「それでは、勝負です!」
何の勝負ですか。
駄目ですよ、おまけギャンブルで熱くなっちゃ。
「ボケモノカードはネルコさん入魂のカードゲーム」
「私たちチームモノカも開発に協力しておりますので、結構こだわりがあるのですよっ」
はいはい、ステイですよ。
リルシェさんも関係者である以上、熱くなる気持ちも分かりますが、
これはカードゲームバトルでは無く、開封カードの見せ合いっこですからね。
「どんな勝負もまっしぐら、それが乙女の心意気ですっ」
その意気やヨシッ。
でも、リルシェさんってギャンブル関係はNGなんだよな。
まあせっかくですし、開封の儀を。