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リルシェさんの足元にあるのは、弾頭では無く、
"虫"
クロ先生の秘薬で塞がりかけていた俺の胸の穴から、
もぞもぞ這い出てきたのが、この小さな虫。
まるで傷口を回復させる治療効果を嫌がるようにもぞもぞと。
「すみません、すっごく気持ち悪かったので、思いっきり踏んづけちゃいました……」
あー、確かに。
潰れちゃってますね、ちっちゃなダンゴ虫みたいなヤツが。
きっとコイツはBB弾みたいに丸まって飛んできたんだろうな。
俺の冒険者服って実はアリシエラさん製の特注品で、
見た目からは考えられないほど防御力が高いんだけど、
それを何なくブチ抜いたってことはかなりの威力だよ、このダンゴ虫弾。
しかも、命中しても潰れないで生きてたようだし。
でもリルシェさんが普通に踏み潰せたってことは、
その時は見たまんまのダンゴ虫程度の硬さだったはず。
……なるほど、
形状安定化と貫通力維持のために、
命中するまで効果が持続する硬質化の付与をされていた、と。
正確な狙撃能力、かなりの隠密能力、そして強力な魔導付与能力。
盛り過ぎってくらいのツワモノですね、この射手。
「本当に冷静ですね、ウェイトさん」
「ついさっき撃たれたばかりなのに」
リルシェさん、もしかしてちょっと引いてます?
「いえいえ、ご無事で何よりですっ」
そうだ、落ち着いたら命の恩人に何かお礼をしませんと。
リルシェさんが喜んでくれそうな何か……
「ウェイトさんが元気でいてくれるのが何より嬉しいのです」
「だから、今度また死にそうになったら死ぬほどお仕置きしますよっ」
望むところですっ、
って、のんきしてる場合じゃないですよね。
どんなおしおきなのか、めっちゃ興味はありますが。
それにしても、ナース活動しているリルシェさん、
ぜひこの目で見たかったです。
今度アリシエラさんにおねだりして、素敵なナース服を……
「……」
照れ姿も可愛らしいですよ。
えーと、分析と妄想と相方漫才はこれくらいにして、
そろそろ反撃手段を考じねば。
こんなことに悪用されたダンゴ虫もどきの仇も取らなくちゃね。
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ふたりで相談した結果、
今やるべきは待ちや逃げでは無く、積極的な攻撃あるのみという結論に。
俺たちの冒険ポリシーの根っこは"命を大事に"ですが、
だからこそ攻勢に出るべき時もあるのです。
だってこんな厄介な敵をアンノウンのままにしておいたら、
今後の楽しいふたり旅に差しさわりありまくりですから。
まあ、普段は割とのんき……温厚な俺でも、
流石にみぞおち撃たれたらむかっ腹ですし。
はて、みぞおちって、腹? 胸?
「それでは、作戦通りに行きますよっ」
……リルシェさんには悪いけど、俺は全力で潰しにいきますよ。
流石に不殺どころじゃ無いです、この状況。
「……私も、覚悟は出来ています」
それでは、行きましょうか。




