人の心が読める帽子
『なろうラジオ大賞5』参加作品。
テーマは「帽子」です。
突然。友人だと思っていた奴に無視された。気分が悪い。心がモヤモヤしていた俺は、高校の帰り道に変な婆さんと出逢った。占い師みたいな恰好で、沢山の帽子を並べている。
婆さんは、俺と目が合うと、ニタっと笑って、「やぁお兄さん」と話しかけてきた。
「人の心が読める帽子は要らんか?」
「何すかそれ。うさんくさい。新手の宗教ですか? 要りません」
「そうか……無料なんじゃがな」
心が読めるなんて嘘だろう。でも、並べられている帽子は今風のシャレた模様であたたかそうなものばかり。外は寒い。少し興味が湧いた。俺は白い帽子を手に取って言った。
「まぁ一個ぐらいなら」
「ええよ、ええよ」
ニコニコ顔の婆さん。試しに目の前の婆さんの心を読んでみる。
(あぁ。良いことをした)
……良いこと?
よく解らないが、俺は帽子を被って道を歩いてみた。一組のカップルが歩いて来る。
(ケッ。どうせ一人で歩いてる俺を見たら『かわいそう』とか哀れむんだろう。爆発しろ)
カップルの男性の心を読んでみる。
(あぁ、この後どこへ行こう……)
女性の心も読んでみる。
(もう少し積極的に……手を繋ぐとかして欲しいな)
クッソリア充で悲しくなった。
俺は帽子を捨てようとしたが、せっかく心の声が聴こえるんだ。何かに活用したい。
――――そうだ。俺のことを無視している元友人は何を考えているのだろう。
(俺を裏切った。どうして?)
俺は元友人に電話を掛けた。繋がった。どうやら通話はしてくれるらしい。俺は携帯機器越しに強めの口調で訊いた。
「どうして俺を無視するんだ」
「……それは(お前の喋ってる話題にタブーが多いからだ)……」
「……」
たしかに、そういう話題ばかり話していた気がする。嫌なら言えば良いのに。意地悪な奴だ。でも、それ以外の悪口は聴こえない。原因は俺にあるのか。
俺は、周囲から人が遠のいた理由を考えた。やはりコイツの言うように、タブーに触れ過ぎたからだと思う。昔は陽気にゲームやマンガの話をしていた。
その頃より、心がギスギスしていたと思う。
(お互い生きやすい方がいいよな)
俺は、一番伝えたいことを友人に伝えた。
「もう変な話はしない。だから、また仲良くして欲しい」
友人は「ふふ」っと笑って、
「もちろん!」
そう言った。
この先、心の読める帽子は必要ない。心が読めないなら、勇気を出して訊けばいい。俺は心の読める帽子をガードレールに引っかけて、家に帰った。