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それからゲルマールさんに連れられて、防具屋さんに連れられた。
どういうことかと聞いたが、期待させたくないからとはぐらかされて教えてくれなかった。
ゲルマールさんは店内に入るなり、ご主人と話すために奥に入っていったので別行動だ。
その時の僕はというと、店内の商品を店員さんに説明してもらっていた。
「おいっ!テリー行くぞ」
「えっ!?どこにですか?今説明してもらっているんですけど…」
「そんなのは後でも出来るじゃないか…なんなら私がつきっきりでしてやるよ」
恰幅のいい女性だった。
「初めまして。テリーです」
「あぁ自己紹介がまだだったね。私の名前はタルサってもんだ。防具屋の主人をしている」
「よろしくお願いします」
「おいっ!呑気に自己紹介する暇ねぇぞ。ケリーの奴、今日の夕方から出張っていってなかったか」
「あぁそうだったね。テリー急ぐよ」
今度はゲルマールさんにおぶられて、治療院に到着した。
その間の説明はない。僕も舌を噛みそうだったので、質問出来なかった。
治療院ではお世話になった知り合いと話をすることにした。
とりとめもない世間話だ。
治療院で話をしていると、呼び出され院長であるケリーラークさんに右腕の状態を確認された。
ゲルマールさんと防具屋さんの主人であるタルサさんもその場にいた。
「うーん。難しいね」
「なんでだ。なんとかならねぇのか?王国で一番なんだろ?お前で無理ならどこでも無理じゃねぇか!」
「なんとかしてくれよ」
ゲルマールさんが少し怒鳴った感じで、タルサさんは悲しそうにしている。
なんか医療ドラマでよくある、息子の不治の病を告げられた家族と医者みたいだな。
「いや待てよ…あれがあればいけるかも…おい、ゲル、タル、それと『小さな英雄』殿。行くぞ」
「なんか方法があるんだな。さすがはケリーだ。行くぞテリー」
「心臓に悪いよ全く。ケリーはこれだからね。でもでかしたよ。さすがだね」
いやいやなにをするかを教えてよ…
そう言おうとした。
「そういえばケリー、出張は大丈夫なのかい?」
「そうだった。急ぐよ。テリー君」
誰からも説明がない…
次に向かったのは道具屋さんだ。
そう。あの道具屋さんだった。
どんな話になっているのかは気になった。とても気になったが…
「すみません。これから少し用事があるので帰りますね」
「おおそうか。悪かったな。俺もここまでかかるとは思わなかった」
「どうなったかは明日教えるからね。明日いらっしゃい。防具の説明の約束もあるしね」
「はい。分かりました。何時頃がいいですか?」
「朝9時から夕方5時までやってるから、その時間ならいつでもいいよ」
了承の返事をしようとした。
「おいおい。タル。それはねぇんじゃねぇか?」
「そうですよ。私が帰るまで待っておくべきでしょう」
「はぁーっ!ケリーあんたが帰るのは何日後かい?」
「そうだ!だから明日の夜の6時以降に━━」
ちょっとした喧嘩が始まった。
それによって道具屋さんの店員が出てくるの僕は嫌だった。
「ケリーラークさんが帰ってきた後、皆さんから聞きたいです。専門の方がいたほうがいいと思います。それでゲルマールさんはお店に置いてきた素材をお預けします」
ゲルマールさんとケリーラークさんは嬉しそうだったが、タルアさんは少し不満そうだ。
「それで明日はタルアさんのところで防具の説明をお願いします」
「しょうがないねぇ。明日は防具の説明だけで満足しておくか…」
納得してくれて、ホットしていると道具屋から誰かが出てきそうな気がした。
「じゃあ僕はお別れです。皆さんありがとうございます」
少し早口で喋りその場を急いであとにした。
それから文字の勉強をお願いするために教会へ行った。
教会のなかに入ると、テレビや漫画で描かれている教会そのもので感動した。
前方には大きくて綺麗なステンドグラスがあって、前方の真ん中に演説台があり、長椅子が何列も並んでいるそんな教会だった。
「こんにちは。今日はどのような用件でしょうか?」
シスターが声をかけてきた。
「こんにちは。今日は、文字を教えてくれると聞いて伺いました」
「そうなんですね。それは良いことですね」
「それでお気持ちですが、お受けとりください」
金貨を1枚渡した。今日ギルドでおろしていた。
「ありがとうございます。主もお喜びでしょう」
あの神を喜ばしたくもないし、あの神に直接金貨を渡したところで喜ばないだろう。
あの神にとって人はゴミと同じなのだから。
「それならばいいのですけどね」
「主は私達をいつも見守られています。きっと大丈夫ですよ」
「いつも」なのに「きっと」なのか…
まぁいいか。ウナクさんによると初回に金貨を払って、次からは銀貨を渡せばいいみたいだ。
なんか本当に学費みたいだ。
入学金を多めに払って、卒業まで授業料を払う。
まさしく勉強代だな。
教会はカード払いが出来ないので少し闇を感じた。履歴が残るのが嫌なのかもな…
それから夕方まで文字の勉強をした。
やはり慣れないのか難しかった。
同じような形が違う意味だったりするので混乱する。
教会を出て冒険者ギルドへ向かい、なにごともなく到着した。
冒険者ギルドに入ると、ミリムさんを呼んでもらった。
「テリーごめんにゃ。ちょっと計算をミスしたのにゃ。今日は残業だにゃ…」
ミリムさんはがっかりした表情で猫耳と尻尾は元気なく垂れ下がっていた。
「そうなんですね。気にしないでください。それなら終わるまで資料室で文字の勉強していていいですか?」
「ちょっとマスターに聞いてくるにゃ」
ミリムさんは少し元気になり走っていった。
しばらくすると戻ってきた。
「許可もらってきたにゃ。早く終わらせるから待ってるにゃ」
「許可をとりにいってくれてありがとうございます」
「先輩に任せるにゃ」
「それと別に急がなくても大丈夫ですよ。ゆっくりでもいいので丁寧にやってください」
「わかったにゃ。テリーはマスターと同じことを言ってるにゃ」
「マスターも同じことを言っているのなら、丁寧に頑張ってください。その分勉強時間が増えますから」
「テリーは勉強が好きななかにゃ?変わってるにゃ」
…ミリムさんに変わってる子扱いされてしまった…
「じゃあ、丁寧に頑張るにゃ」
ミリムさんは奥の机に戻っていった。
それを見送ると僕も資料室に向かった。
資料室では教会でまとめた文字の本と、スキルの本を見比べて自分が持っているスキルがないかを確認した。
予想通り『気配察知』しかのっていなかった。
いや正確にはレアスキルの『脚力強化』と『暗視』はのってはいたが、ステータスの説明と同じだった。
それで唯一違う説明がのっていた『気配察知』を読み解いた。
いろいろ書いてあったが、まとめると『気配察知』は感覚的なものなので、どうやって発動させるのかは個人差がある。みたいな感じだ。
練習のしかたは五感を鍛えろとしか書いてない。
あれだろうか…考えるな感じろ。的なやつなのかな。
うーん。これは困るな…苦手なことだ。
僕の自主練が意味のあることなのか、ないのかが分かれば、違っていたとしても良かったのに…
そうだ。ステータスを確認しよう。
道具屋さんの前ではなんか気配を感じたような気がした。
確認すると変わらず12だった。
うーん。
そもそも気配察知が出来るようになったら戦闘力が上がるのか。
仮に上がるとしてもどの程度戦闘力が上がるのかも分からないし、スキルにレベルがあるのかもわからない。
五感を鍛えろといわれてもどうすれば…
そんな感じで考察をした。
疑問は沢山でたが、結論は終始わからないで終わった。
誰か教えてくれないかな…
それから気になる他のコモンスキルを読み解いていた。
コモンスキルを読み解いていると、ミリムさんの仕事が終わったので、勉強をやめ、外で晩ご飯を食べてマスターの家に案内してもらった。
食事中や移動中にいろんな質問や雑談をした。
時間や日時はだいたい地球と同じだった。
1日24時間、月は12月と同じだったが一週間は10日で、月に3週ある。結構違うかも…
一週間は、太陽、光闇、火、水、木、風、雷、土、無だった。
呼び方といえばその後に曜日をつければいいが、太陽日だけ曜がつかない。
それにも理由があった。
太陽以外の9つは魔法の属性だが、太陽だけはあの神を表しているらしく特別扱いらしい。
それと驚いたのはこの世界…少なくともこの国には、日曜日みたいな休みの曜日という概念がないらしく、休みはシフト制でだいたい月に六日くらいで働き者ばかりだ。
ケリーさんが夕方から出張って言っていたので、危なくないのかを聞いたら教えてくれた。
この辺りの魔物は、夜行性の魔物が少ないし弱いので、遠出する時は夜中に到着するように夕方くらいに出発するようだ。
『ウルウルフ』はいつでも出没するので、本当に厄介みたいだった。
それを討伐した僕を褒めてくれた。
マスターの家は大きかった。家というより屋敷だ。
それからミリムさんに『クリーン』をかけてもらい、屋敷に入った。
ミリムさんが『クリーン』を使えるので、夕ご飯の食事代は僕が払った。
ミリムさんは最初は先輩だからと遠慮し、更には自分が奢ると言っていたが、案内もしてくれるお礼でもあるし、いろいろと教えてくれたし、これから迷惑をかけるかもしれないから、と説得をして少し不服そうだったが折れてくれた。
こんなとき素直に甘えればいいのかもしれないが、借りをつくるのが嫌いな僕には少し難しい。
屋敷のなかは屋敷って感じだった。
ゴテゴテしている感じではなく、要所要所に高価な絵や物があってセンスがいい屋敷って感じだ。
ミリムさんに一通り案内してもらった。
高価な物だとわかったのは、ミリムさんに聞いたからだ。マスターに高価な物だから触るなと命令されたらしい。
そのなかに置き時計があったのは驚いた。この世界にもあるのかと…
しかし、割り当てられた部屋は想像していたものよりシンプルだった。
8畳くらいの部屋に普通の木のベッドと木のクローゼット、そして小さな木の空っぽの本棚があるくらいだった。
あまり豪華だと落ち着かないから良かった。
目移りするし緊張して物に触れない。
昨日眠っていなかっただけなのかもしれないけど、すぐに眠ることができた。
結局僕が眠るまでにマスターは帰ってこなかった。
本当に忙しいんだな…
帰ってこなくて安心した。
しかし、忙しいことへの心配と少し寂しいような気持ちもあった。
お読みいただきありがとうございます。