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「いろいろとありがとうございました」

「どういたしまして。テリーさんこれからどうするんですか?眠いのでしたら、資料室か倉庫をお貸ししますよ」

「お気づかいありがとうございます。目が覚めたのでウナクさんに教えてもらった、鍛冶屋さんや防具屋さんに行くつもりです」

「それなら素材が必要ですね。準備してきますのでお待ちください」


 ウナクさんは席を立って小走りで奥に向かった。

 急がなくてもいいのに…


「今日夕方までだからマスターの家に案内するにゃ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。先輩」

「先輩?」

「はい。寮…マスターの家では先輩でしょ?頼りにしてますね」

「うぅッ、初めての後輩にゃあ…」


 ミリムさんは夢見心地のいい顔をして、なにかに気づいたのか耳がピンっとなった。


「にゃっ!先輩に任せるにゃっ!バッチリ案内するにゃ!それじゃあ夕方にくるにゃよ」


 ミリムさん声が大きい…


 ミリムさん人気物だからな…

 辛い目線を浴びたり陰口を言われた。


 陰口といっても、「町を救ったからって調子に乗るなよ」や「子供だからだろ」くらいのものだった。

もちろん後者がムカついた。


「町を救ったからって調子に乗るなよ」の方は、別の人から「じゃあお前も救えよ」のツッコミがあったからなのかもしれない。


 ただ残念ながらムカついた「子供だからだろ」の方は「お前も子供になれ」や「子供に嫉妬なんてみっともない」と言うだけで、子供を否定するツッコミがなかったのは残念だった。


 ボケた方…じゃなくて陰口を言った方は、ツッコまれた後、目線が強くなったような気がした。


 そんな状況のなかウナクさんを待った。


 ウナクさん急いで、ダッシュで来てください。


 居心地が悪いなか、しばらくするとウナクさんが素材を持ってやってきたので、それを受け取り冒険者ギルドを出た。



 とりあえず『気配察知』の自主練は意味があったので…あったのかは確定じゃないが、それと称号くらいしか心当たりがない。


 とりあえずやりながら、まずは鍛冶屋さんに向かった。

 効果がなかったら称号や他の要因だろう。


 やはり攻撃からだ。

 RPGでは新しい町に行くと、防具屋より武器屋から確認して、装備している武器より強かったらお金がなくなっても買っていた。


 ウナクさんオススメの鍛冶屋さんに着いた。


 ギーッ


「いらっしゃい。…って、あんたはもしかして『小さな英雄』かい?」


 帰りたい。こんなグイグイこられると、好意的でも辛い。


「一応そう呼ばれてはいますね…でもあまりそう呼ばないで欲しいです。過ぎた名前なので…」

「おぉっ、俺の店に来てくれて嬉しいぜっ。どんなのが欲しいんだ」


 はっ…僕の武器はなにがいいんだろ。困ったな。正直に言おう。鍛冶屋さんならなんか分かるかも…


「記憶がない僕にはどんな武器がいいのか分からないんですよね…」


 全て正直とは言ってない。


「分からないって…スキルはないのか?ってすまないな…」


 右手を見ていた。


「いえいえ、気にしないでください。ただ利き手だったと思うので少し苦労しています」

「そうかっ!利き手かそれは苦労するだろう。それでどうするか…」


 助かるな。割り切って未来のことを話してもらった方が楽だ。


「とりあえず、俺が作った武器をなんでもいいから持ってみてくれ」

「分かりました」


 ここは無難に剣だな。


 剣を持ってみたが重い。手首がどうにかなりそうだ。

 あれ?剣って1キロくらいじゃなかったけ…

 この世界では違うのか?


「振り回せそうか?無理そうだな…ってことは短槍も厳しいな…」

「この剣はどのくらいの重さですか?」

「999グラムだ」


 やはり1キロないのか…じゃあなんで?


「これは持てるか?」


 短剣を差し出した。


 さすがに振りは出来た。しかしこれで魔物を倒せる気がしない。


「短剣にするか?」

「魔物を倒せますか?」

「うーんっ、短剣は魔物を倒す武器じゃないからな…どちらかというと防御や雑務に使う物だ。攻撃を逸らしたり、解体したりな。」


 僕もそんなイメージだ。


「なかには短剣で倒す変態もいるが、それはスキルの補正や、武器がかなり良いからであって、お前にはどちらもないんだろう?」


 変態って…まぁそれはいいか。


「どちらもないです。でも短剣の訓練や指導をしてもらってスキルを得ればよくないですか?」

「短剣のスキルを得るくらいなら、剣や槍の訓練をしてそっちのスキルを得た方がはるかに強い。だから短剣持ちは変態なんだよ」


 納得してしまった。短剣持ちは変態かも…


「まぁ人相手に商売するなら短剣が都合はいいこともあるがな」

「人を相手にって…それって暗殺ですよね?」

「そうだ。まぁ、俺はそんな奴のために武器を作りたくないがな」

「そうですね。僕もそう思いますし、あなたの気持ちもわかります」

「気が合うな。…そうか俺の名前教えてなかったな。ゲルマールって言うんだ。よろしくな」

「ゲルマールさんよろしくお願いします。僕はテリーっていいます。仮ですけどね」

「そうか…よろしくな。テリー」


 ゲルマールさんと少しだけ仲良くなったが、問題は解決していない…


「それでなにかアドバイスありますか?」

「うーん。正直に言っていいか?ちっときついぞ?」

「はい。というかそちらの方がありがたいです」


 口当たりのいいことを聞いても意味がない。


「身も蓋もないことを言えば、武器での魔物討伐を諦めろ」


 本当に身も蓋もない…


「片手がないのに武器を使って魔物と戦うってことが無謀なんだ」

「そうなんですか?片手がないのに冒険者の人っていないんですか?」

「そうだな。確かにそんな冒険者はいる。魔術師だったり、斥候とか直接戦わない奴ら。あと小さい頃からないとかだな」


 そういうことを聞きたい訳じゃないんだけどな…


「あぁ、お前の言いたいことはわかる。前衛で途中で無くなった奴の事を聞きたいんだな?」


 うなずいた。


「そんな奴らもいるぞ。だがそのほとんどが引退か死んだ。現役で生き残っている奴もいるが稀だぞ。間違いないことは確実に弱くなるってことだ」


 死んだ?


「絶句してるがな…魔物討伐をなめていないか?片手がないのに戦うって無謀だろう。魔物も死にたくないんだ。戦闘になったら命懸けに決まっているだろう」


 はっとした。

 アニメや小説の影響か僕はどこか簡単に思っていたのかもしれない。


「それはそうですけど…」

「それで弱くなる原因なんだがな、両手が使えないからだけじゃないぞ」

「えっ!?それだけじゃないんですか?」

「体のバランスが悪くなるんだよ。俺はこっちの方が大きいと思う」

「バランスですか?」

「そうだ。片手ばかりを使っていると、使ってない方が細くなる。両手がある奴でもそうなんだ。片手しかない奴は確実に悪くなる」

「それは確実なんですか?」

「確実っていうのは言い過ぎかもしれないが、可能性はかなり高いと思う。考えてもみろ。片腕を骨折して治ったら、骨折してない腕より細くなるだろう?」

「はい」

「それなら、太い方より細い方が軽くなる。それは左右で重さが違うってことだよな」

「そうですね…なるほど確かに体のバランスが悪くなりそうです」

「わかってくれてなりよりだ。でだ、バランスが悪くなると腰に負担がいく。人間の背骨は両手がある状態でつくられているからな。無理をすると腰痛に悩まされるはずだ。それでも無理すると他のところにも痛みが出てくるはずだ。そんななか戦闘をするなんて無謀だろう?」

「はい…無謀ですね」


 そうか…僕には無理なのか…


 実際にこの町を歩いたときに何度か転びそうになったこともある。バランス感覚が狂っていたからかもしれないな…


「そんな顔をするな!ちっと言い過ぎたかな…」


 現実を知れたのは良かった。良かったけど…


「だがな『小さな英雄』には無謀で死んでほしくないからな。少し話しただけでウナクの言うとおり、お前がいい奴だしな」

「僕はいい人なんかじゃないですよ」

「うるせぇ!俺はそう思ったんだよ。でだ。そんないい奴で助けてもらった恩人がだ。俺の武器を使って死んだって聞いたら、死んでも死にきれなねぇ」


 職人のプライドなのかな…


「意地悪でこんなことを言った訳じゃないってことはわかってくれ」

「はい。それは分かっています。言いにくいことも言ってくれてありがとうございます」


 ゲルマールさんにはなんの得もない。

 テキトーなことを言って武器を作った方が、どう考えても得だ。


 それにしてもショックだな。

 戦えないことよりも、なめていたってことの方がショックだ。なめていいことなんてないのに…

 はぁ…隻腕のキャラって強いイメージがあったんだけどな…


 …あっ。


「あの、思いつきなんで無理かもしれないんですが、武器を右手につけることはできませんか?」


 バランスが悪いならバランスをよくすればいいじゃないか。

 まぁ、こんな思いつきを、誰も思いつかなかったってことは考えにくいけど…


「…なるほどな…そうだな。やってみるか。失敗する可能性もあるが、逆手で短剣使うよりよっぽどマシだ」

「大丈夫そうですか?」

「なんとも言えん。それに他の奴らも巻き込まないといけないからな」

「えっ?他の人にも協力させるんですか?」

「あぁ、ちょっと俺だけは無理だからな。今から時間はあるか?あるなら付き合え」

「はい。大丈夫ですけど…お店はどうするんですか?」

「そんなもんは弟子で十分だ。それじゃあいくぞ」


 ゲルマールさんは僕の首に手を回してお店を二人で出た。


 力強い…

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