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カランコロン。
宿屋『カラカラ』に入り、宿泊の手続きをした。
料金は一泊、朝、夕ご飯付きで5千ルンだった
夕ご飯は時間があったので、借りた部屋でくつろいでいた。
部屋はまぁまぁ綺麗だったし、ベッドもシラミなどの心配はしなくてよさそうな感じだった。
一月くらい借りても良かったかもしれない。
僕は寝つきが悪いのでかなり心配していた。部屋は真っ暗で無音じゃない眠れない。
しかも8時間眠らないと翌日に響いてしまう。
気配察知が上手くいったかステータスを確認しようとした。
変化してないんだろうな…とあまり期待していなかったが、戦闘力が12になっていた。
あれで良かったのか?
気配が読めたような気がする程度だったのに?
たったあれだけで二倍以上になるものなのか?
地球人は成長チートを持っている?でも今日より初日の方が内容は濃かったし大変だった。
『小さな英雄』の効果で上がった?しまった。称号取得した後にステータスの確認すれば良かった…
戦闘力の向上の原因を予測していると、夕ご飯の準備が出来たと連絡がきたので部屋を出た。
ウナクさんいわくご飯が美味しいらしい。
確かにこの世界で食べた料理のなかでは一番美味しかったが、日本人で舌が肥えてしまったのか感動はしなかった。
ご飯を食べれるだけで感謝しなければ…
夕ご飯を食べている時も戦闘力向上の予測をしたが、結局分からなかった。
この『カラカラ』にはお風呂はなかったが、魔法の『クリーン』を使える人に500リルでお願いして、かけてもらった。
治療院でもかけてもらっていた。
僕はお風呂より好きかもしれない。
時間効率良いし洗濯も必要ない。
次の日、僕は寝不足だった。というより寝ていない。
戦闘力向上を予測に夢中になったからでも、実はベッドにシラミ等の虫がいた訳でもない…
原因は壁が薄かったからだ。
右隣がようやく終わったかと思えば、左隣から始まり、それが終わっても悶々とした。眠れない時間を過ごしていると朝になった。
思春期には辛すぎた。
その点、治療院は良かったな…
日差しが辛い…
『不撓不屈』仕事をしてくれ。と、詳しい効果は分からないが、勝手に期待していた『不撓不屈』の評価が少し下がった。
寝不足であまり食欲はなかったが、出されたものは全て食べるのをポリシーにしているので全て食べた。
寝不足のままでは、装備品の説明をしたり、聞いたりできる状態ではない。
冒険者にとって装備品は命の次に大事なものだ。と素人なりにそう思う。
相談できるところは冒険者ギルドしか今のところないので、冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドに入ると、ギルド内は朝とあってか混雑していたので列に並んだ。
受付はウナクさんだった。
「本日はど、ヒーッ、テリーさん許してください。銅像の件はなくしてその費用を孤児院に寄付することにしました」
「銅像の件は無くなったんですね。良かった。孤児院か…銅像なんかよりよほど有意義です」
「なのでそんな顔をしないでください」
?
「あぁ、昨日寝ていないんですよ。別に怒っている訳ではないので、気にしないでいただけると助かります」
「そうなんですか?怒っていないのなら良かったです。私がオススメした『カラカラ』はダメでしたか?」
事情をオブラートに包んで話した。
「テリーさんはマセテますね。12、3歳でもう、そっちの方に興味があるんですか?」
「えっ?多分、多分ですけど違いますよ…」
記憶喪失の設定だから断言できない。
「えっ?ケルトさんから聞いたんですよ。12、3歳くらいだと…成人である15歳まであと二年くらいって話したと聞いたんですが違いましたか?」
なるほどなるほど。と納得してケルトさんへの好感度が少し…いや、かなり下がった。
あの時、かなり嬉しかったのに…
とりあえずこのままじゃマズイ。僕はマセテいるガキになってしまう。
「あぁそうでしたね。あの時多少混乱していたので、多分ですけど16、7歳くらいだと思います」
本当は16歳になったばかりだけど、少しサバを読んでみた。
これで僕の年齢は16歳…悪くても15歳くらいに落ち着くはずだ。
「えぇ!?いくらなんでもそれはないでしょう。ハハハっ。大人に見られたい年頃なんですね。私にもありましたよそういう子供時代が」
カチーン。
「そうなんですかね?でも成人していないのに、危険な旅に出ますかね?」
「えっ?テリーさんの仲間に家族の方、お父様又はそれに準ずる方がいらっしゃったんじゃないですか?あっ…すみません…辛い記憶だったのに申し訳ありません」
父親?先生はいなかったし…同級生しか…
鈴木さんの事かーっ!
「そうかもしれませんね…」
無理だ。年齢を正す手段がない。
「本当に申し訳ありません。でも大丈夫。世界は敵だけではありません。私に頼ってみてもいいですよ」
ウナクさんはいい人ではあるんだよな。
銅像の件もよかれと思ってやってそうだし…
「ありがとうございます。では早速頼りますね。他にオススメ宿屋さんを教えてください。出来ればうるさくないところが良いです」
「そうですね…それだと高級なところしかないんですよね…」
「ちなみに宿泊料金はどのくらいですか?」
「一泊食事抜きで15万ルンほどですね」
た…高い。
「厳しいですね…賃貸とかはないんですか?」
「その条件だとどうしても高額になってしまいますね。しかもそういうところは、安定した収入がないと借りれないんですよ」
「Gランクじゃ無理ですね…」
「正直そうですね。私の家でもいいんですが、子供が産まれたばかりなので難しいですし…」
本当いい人だなこの人。
「いやいや。そんなにご迷惑かけられないですよ」
「私もご迷惑かけたので…」
よっぽどギルドマスターに詰められたんだな…
「あっそれならここ、冒険者ギルドの寮に泊まるのはどうでしょう?今はあまり利用していないので、うるさくはないはずですよ。ただ素泊まりになりますし、掃除などの家事も自分でしないといけないです」
僕は食欲よりは睡眠欲の方が強い。
飢餓状態なら話は別だが、いい食事よりはいい睡眠の方が好きだ。
すぐにお願いした。
「マスターの許可が必要なので確認してきますね」
その一言にいちまつの不安を感じながら待っているとウナクさんが帰ってきた。
「許可がとれました。テリーさんは大丈夫だと思いますが、こちらの確認をお願いします」
ウナクさんが片手に紙を持ってきた。
なぜか猫耳受付嬢を連れきた。
「マスターの家に住むのかにゃ。私とマスターだけだったから嬉しいにゃ」
「えっ!?寮ってマスターの家なんですか?」
「そうだにゃ!とても広いにゃ!」
そんな元気よく応答されても困る。
そりゃあマスターの許可がいるわ。それにしてもよく許可出したな。
あぁそうか…成人してないって思われているんだ。
ふーん、そうなんだ。そしたら利用させてもらおう。勘違いしたのはマスターだ。
「そうなんですね。よろしくお願いします。僕も知っている人がいて嬉しいです」
「待つにゃ。鉄の掟があるにゃ」
「鉄の掟ですか?契約書みたいなものなんですか?」
「そうです。これなんですけど…」
ウナクさんが紙を置いた。読めない…
「すみません。僕読めないんですけど…」
「それを説明するのに、ミリムさんを連れてきたんです。言った。聞いてない。ってことをなくすために」
なるほど。都合の良いことしか言わない事を防ぐためか。
「それと住人なので質問に答えられると思いまして…書いてある事をそのまま読むので聞いてください。シンプルなのですぐに覚えられますよ」
それから指を指しながら代読してもらった。
鉄の掟
一、汚すな。汚したら綺麗になるまで『クリーン』をかけろ。できない奴は雇ってでもやれ。
二、壊すな。壊したら弁償しろ。弁済金額はマスターの言い値。
三、殴るな。暴力を振るったら即退去。やり返してもだ。もし振るわれたら逃げて報告しろ。
四、利用料は必ず払え。一月5万ルン。遅れたら即退去。
五、私に従え。
六、気に入らないなら出て行け。止めはしない。
以上を承諾しました。
署名 印
こんな感じに書かれているみたいだ。
なんともシンプルな注意事項だった。
「人が入っていない理由が分かりました」
内容はともかく。
ウナクさんは苦笑いをした。
「どうしますか?家は綺麗ですよ」
迷う…
一、四、六は納得できる。
二はマスターの言い値ってことは青天井。
三はマスターが振るってきたらどうするんだ?
それで五だ。あなたはルルー〇ュですか?死ねって言われたら死なないといけないのか?
まぁマスターはそんなことするような人じゃないと思うけど…
「マスターは家ではどんな感じなんですか?」
「マスターは基本眠りに帰るだけだけにゃ、掟に従っていれば優しいにゃ。でも掟破るとおっかないにゃ」
「五の私に従えって、少し横暴じゃありませんか?」
「なんでにゃ?ボスの命令は絶対。当たり前のことにゃ」
困った。ミリムさんじゃ話にならない。
「ウナクさんは住んだことないんですか?」
「ないですね。基本的に男性は入れないので…」
そうですよね。僕が子供なんですよね。
こんな特別嬉しくない。
ここでごねても断られるだけだ。不満ならすぐに出ればいい。
「入らせていただきます」
「そうかにゃ。嬉しいにゃ。そしたらここにサインにゃ」
「文字、書けないんですけど…」
「代書は私がしますよ。テリーさんは親指にインクをつけて印に押してください」
「すみませんが、僕の名前をどこかに書いてくれませんか?それを見ながらサインするのお願いします」
「勉強熱心ですね。分かりました。…これがテ、これが━━」
テリーってそう書くのか…とウナクさんの文字確認しながらサインをして、問題ないかを確認した後拇印した。
利き手が無くなっていたので、文字を書くのは結構苦労した。
朝はあれだけ眠かったのになんか目が覚めた。
お日様を浴び続けたおかげか、人生初の契約に興奮したのか、又は『不撓不屈』が仕事をしたのか、他に理由があるのかも分からない。
分からないが、これなら装備品を注文しにいけそうだったので、そうすることにした。