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冒険者ギルドを出ると怖くなった。
さっきまでの自分はなんだったんだ…
よくあんなにも喋れたものだ。しかもギルドマスターに向かって…
銅像阻止に必死だったからか?それとも自分のことを誰も知らないからなのか?コミュ障が治った?
そんな考察をしながら道具屋さんへ向かっていた。
いくら考えたところで分からない。銅像は阻止出来そうだしまぁいいか。
考えを放棄したところで道具屋さんにも着いた。
カランコロン。
「いらっしゃいませ。ってさっきの…」
「すみません。突然出ていってしまって…驚かれましたよね?」
「いえいえ。それでポーションのご購入はどうしますか?」
「はい。お願いします。ケルトさんに贈るので、包むのは全てお任せしてもいいですか?」
余計なことをしてくれた首謀者だが、まぁそれとこれとは話が別だ。
「ありがとうございます。包むのは任せてください。少しお時間頂きますね」
「分かりました。お願いします」
店員さんが包んでいた。
凄いな。上手に包んで「綺麗だな」。職人の技みたいだ。
「えっ!?」と驚き、手を止めて僕の方を向いた。
「どうかされました?なにか問題が?」
「いえっ、大丈夫ですっ!」
「良かったです。あぁ見られていたら緊張しますよね。すみません」
「そうですね…少しだけ…て、店内に自慢の商品があるのでご覧ください」
やはり見つめすぎてたか…
「そうですね…でも文字が読めなくて、どんな商品なのか分からないんですよ。ハハハ…」
やるべきことが多過ぎて笑うしかないな…
「…よければ文字教えましょうか?」
「えっ!?」
この子は天使か…いや社交辞令だな。
「そんなこと言ったら毎日お邪魔しますよ」
「そ、そんな毎日は困ります…」
やっぱり社交辞令か。
「たまに…たまになら良いです」
引っ込みつかなくなったのかな?
「ありがとうございます。でも教会の方で教えてもらう予定なので、お気持ちだけ頂きますね」
「そうなんですね…またお会い出来たら良いですね」
出た。またお会いしましょう。これは社交辞令の典型だろう。
「そうですね。嬉しいですね」
「私も嬉しいです。もし、予定が空いたら連絡しますね」
これは、お前から連絡するな。かな?
真に受けて、待っていても彼女の予定は一生空くことはない。
「また道具を買いに来ますね」って言ったらどうなるんだろう?…それは気持ち悪いな。ストーカーだ。
「連絡待っていますね」
「はい。わかりました連絡します」
どうやって連絡するんだろう?まぁ連絡出来なかった言い訳かな。
でも、ここの道具屋使えなくなったのは少し痛いな…良さそうな物が結構あったのに…
それからしばらくすると包む作業が終わり、お互い社交辞令を言って道具屋さんを出た。
町を救ったお礼で包む値段はサービスしてくれた。
門に行ってもケルトさんはいないので、冒険者ギルドへ行った。気配察知が出来ないか試行錯誤しながらだ。
なんとなく分かったような気がした。勘違いかもしれないが…
猫耳の受付嬢が空いていたのでお邪魔した。
「ど、どういったご用件でしょうか?」
そんなビクビクしないでほしい。悪いことしているみたいだ。
語尾はニャンじゃないんだ。少し残念。
「あぁ。これをケルトさんへ渡してくれませんか?」
「これはなんにゃん。…まさか毒かにゃ?もしかして爆弾?」
おぉ、にゃんだ。
はぁー、どれだけ僕を疑っているんだ。ってこの子だけじゃなく奥で作業していた人も作業を止めてこちらを見ている。
目が合うと目を逸らしたり、裏に逃げたりしていた。
「いやいや、ただのポーションですよ」
「う、嘘にゃあ。マスターが『小さな英雄』には注意す…うーっ、っ」
ギルドマスターが猫耳受付嬢の口をおさえた。
それを確認した受付嬢が驚いた顔をした。
「黙っておきましょうか」
受付嬢が首を縦に何度もふるとギルドマスターが解放した。
受付嬢の猫耳が垂れ下がっていた。
「まさか、まさか。あなたはいつかまた会うと思ったけど、今日の今日だなんて私にも予想外でしたわ。まさか気が変わったの?」
副 注意したのに、舌の根が乾かぬうちにやらかすなんてあり得ない。銅像建立阻止が失敗してもいいの?かな。
「いえいえそんな訳ないじゃないですか。頼りにしていますよ。忙しくて睡眠時間が足りないんじゃないですか?」
副 寝言は寝て言え。
「心配してくれてありがとう。昨日まではしっかり眠ったけど、なんだか今日からは難しそうだわ」
副 お前のせいで本当に睡眠不足になりそうよ。かな。
「ギルドマスターも大変ですね。なにか助けてあげればいいんですけど、僕もなぜか忙しいんですよね」
副 そんなの知らない。僕も被害者ですよ。
「そうなの?どういうことか説明してもらってもいいかしら?職員から毒や爆弾なんてあり得ない単語がでてきて驚いたのよ」
副 しっかり説明しろよ。喧嘩を売りにきたんじゃないのなら。
「僕はそんな物騒なものに縁もゆかりもないですよ。なぜか皆さんに勘違いされてしまって…僕も困っていたんです。もしかすると僕の悪い噂が流れているのかもしれませんね。マスターは聞いていませんか?」
副 喧嘩を売るつもりは微塵もない。ギルド員が勘違いしただけだ。そして勘違いさせた原因はギルドマスターでしょ。
「良い噂しか聞いたこともないけど…まぁ目立っているといろんな噂があるのも当然よね。有名人は行動には気をつけないと」
副 そんなの知らない。あなたの行動の結果でしょう
「そうなんですね。たまに幻聴が聞こえるんですよ。耳か頭の病気かな?マスターなら良い医者を知っているんじゃないですか?」
副 彼女がさっき言ってましたよね。耳か頭の病気ですか?
「大変ね。お力になれないわ。私、病気になったことがないのよ。でも彼女なら頭の医者に詳しいわ」
副 私はいつでも正常よ。きっと彼女(猫耳受付嬢)の勘違いよ。
「任せるにゃ!私も病気ににゃったことにゃいいけど、頭の病気にゃら…」
下がっていた猫耳がピンっと立ち、教えてくれようとした。
「教えるのは後でいいのよ。黙っておきましょうか?」
上がった猫耳がまた下がってしまった。
「元気を出して下さい。聞きたかったのに残念です。マスターとの話が終わったら教えて下さい」
副 マスターが振ったのにかわいそうですよ。
「お二人ともいいですね病気になったことがないだなんて、繊細なのかよく風邪を引くんです。羨ましいですよ。本当に」
副 馬鹿は風邪ひかないって本当だったんですね。
「…?…大変そうね。それでどういうことかしら?」
通じなかったみたいだ。この世界にはなのかな。
それから経緯を話した。
「なるほどね…わかりました。あなた意外にお人好しなのね。もっと違う出会いがしたかったわ」
「僕もですよ」
「一応、その中身を見せてもらえる?」
「わかりました。でも勿体ないですね。せっかく綺麗に包んでくれたのに…」
「そうね。でも見せてくれないと私も仕事に戻れないわ」
「それは大変です。仕方ないですね」
包みを開けるとポーションだということを確認すると、猫耳受付嬢が更に落ち込んでしまった。顔が真っ青だ。
「彼女をそんなに責めないで下さいね。僕達二人の責任が大きいと思います」
僕はおいたが過ぎた。
そんな僕への評価を過分にして、ギルド職員にいらぬ誤解を与えたのはマスターだ。
猫耳受付嬢を含む、ギルド職員はそれを真に受けただけだ。
マスターも納得したのか「そうね…」と呟き、猫耳受付嬢の前に立った。
「そんなに落ち込まないの。あなたに責任はないとはいわないけど、そんなに落ち込むほどの責任ではないわ。あなたの責任は私の責任でもあるのよ」
「マスター…」と涙声で言うと、マスターに抱きついた後、泣きじゃくっていた。
しばらくすると落ち着いたのか、猫耳受付嬢は僕、ギルドマスター、そしてギルドにいる人に謝った。
他のギルド職員や冒険者、僕がお互いに謝っていると、例の二人がギルドに入ってきた。
「あっ…マスター、僕達が一番悪いと思っていたんですけど、僕達より悪いお二人を忘れていました」
「そうね。忘れていたわ」
ギルドにいる全員が二人を見た。
「なんだ?」
「どうしたんですか?」
「ウナク。私の部屋に来い。ついでにケルト、お前もだ」
マスターによってケルトさんとウナクさんはギルドの奥へ連れていかれるのを皆で見送った。
軽蔑的な目や同情的な目、なかには敬礼しているギルド職員がいた。
約束通り、猫耳受付嬢に頭の医者を聞いた。
その時に彼女の名前を聞いた。ミリムというらしい。
包みがはがれたポーションを猫耳受付嬢に託して冒険者ギルドをあとにした。
冒険者ギルドを出るとまた夕暮れだった。
はーっ、予定通りいかない…
今日、武器と防具の注文と、時間が余ったら文字を教えてもらおうと思ったのに…
銅像騒ぎで一日潰れてしまった。
気配察知の練習(練習になっているか分からないが)をしながらウナクさんに教えてもらった宿屋さんを探した。
お読みいただきありがとうございます。
もしよろしければ『世界を救っているのに自分は気づかない話』が一部完したのでご一読いただければ嬉しいです。
https://ncode.syosetu.com/n3813hx/